2020年秋に発表され、日本への導入が心待ちにされてきたロイヤルエンフィールド「メテオ350」が、いよいよ日本にもデビューする! 正式なローンチはもう少し先だが、先行導入された試乗車をテストできたので、ファーストインプレッションをお届けしたい。
●文: ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真: 長谷川徹 ●外部リンク: ロイヤルエンフィールド東京ショールーム
ロングストローク単気筒は、まるで昭和の足踏み式ミシン!?
極低速域からのエンジンの粘り、500ccを思わせる力強い鼓動感、思いのほか振動が少なく心地よい高速クルージング。さらに従来のクラシック系とは一線を画す自然なハンドリングや操作系のタッチ、それらをゴージャス感のあるデザインに包み、1台のパッケージとして高まった完成度を見せつけてくれる――。
ロイヤルエンフィールドが日本市場に間もなく投入するメテオ350(METEOR 350)は、新設計のボア×ストローク[72.0×85.8mm]に1次振動を打ち消すバランサーを組み合わせた、新型の空油冷単気筒エンジンを搭載するクルーザーモデルだ。今回お借りしたのは、ウインドスクリーンとバックレストを備えた“スーパーノヴァ” という上級グレードである。
なんといってもロイヤルエンフィールドらしいエンジンの心地よさが、最新エンジンになっても十分に残されていることに驚く。重たいフライホイールがブンブンと回っている感触があり、1050±100rpmとされるアイドリング(タコメーターはない)付近の回転域からでも、スロットルを開ければ柔らかな鼓動感をともなって加速してくれる。従来よりも短くなった(90mm→85.5mm)とはいえ相変わらずロングストローク設定で、ストライドの長い蹴り出し感が柔らかく打ち出されるさまは、まさしくロイヤルエンフィールドの世界観そのものだ。
全回転域を通したフレキシビリティは本当に凄くて、渋滞の中でトップ5速ギヤのまま30km/h付近(推定1500rpm前後)まで速度を落としても、ギクシャクしないどころかジワジワと速度を回復することが可能なほど。高速道路では80~100km/h(推定4000~5000rpm@5速)で巡行するのが合っているが、それが可能な区間であれば4速に落としてフルスロットルにし、110km/hでシフトアップ、120km/hまで無理なく加速できる。スペック上は20馬力にすぎないが、パフォーマンスとしてはこれで十分と感じるライダーも多いだろう。
一般道のストップ&ゴーでは、さほど操作力を必要としないクラッチレバーや、節度のある半クラッチ、シーソーペダルでスムーズにスコスコと入るシフトなど、ストレスになるものは皆無だ。アクセルにわずかな遅れをともなって反応するエンジンは、いかにも機械が回っているという感触で、スロットルの開け閉めにともなう回転の上昇/下降を味わいながら、なぜだか小学校の家庭科室に遺されていた足踏み式ミシンを思い出してしまった。自分の足の踏力でリズムよく弾み車(フライホイール)を加速させ、その慣性力でミシンの針が往復する。踏力を抜けば、1往復する毎に回転速度が下降していく。それを右手のアクセル操作でやっているかのようで、いわゆる電気モーターのようなエンジンとは対極のフィーリングといっていい。または、昭和の古い町工場で長年にわたって働き続けてきた工作機械のよう……という表現でも遠くない感じだろうか。
引き算でつくりあげたGB350と、抑えようにも溢れ出すメテオ350の味わい
ホンダGB350との対比も気になる方が多いだろうから触れておきたい。GB350のエンジン開発でキーワードになった“雑味”を例にとるなら、雑味を徹底的に抑えることでクリアな喉越しとキレを追求した究極の缶ビールのようなものがGB350だ。爆発による駆動パルス以外のものを抑制することで鼓動感を際立たせ、それにシンクロする野太く乾いた排気サウンドが身を包む。
もう一方のメテオ350は、海外の大衆酒場で出される生ビールのようなもの。雑味はあるものの、それが豊かな味わいをもたらしてくれる。エンジンが上下に揺れるような振動が残されており、回転上昇/下降の全ての領域にいかにも単気筒らしい鼓動感がある。吸気音と排気音のハーモニーは、どこか湿り気のあるハスキーさでライダーに優しい。
どちらも極上の味には違いないが、異国の風を感じさせるのは間違いなくメテオ350のほうだ。
別のたとえ方をするなら、GB350の単気筒エンジンは駆動力を掛けた時にだけ歯切れのいい鼓動感が出現し、スロットルと閉じた時にはフルルルッと静かなエンジンブレーキがかかるような、いわば90度Vツインに似た側面がある。パワーが発揮される領域も意外とハッキリしていて、思いのほかスポーティに回して走ることも楽しめてしまうのだ。
これに対し、メテオ350はクラシカルな正調シングルエンジンそのもの。GB350よりも明らかに重いフライホイールマスがピストンの往復運動と連動するさまが伝わってくるかのようで、開けた時にパルス感は強まるものの、閉じてもバイブレーションは生きている。同じく2気筒エンジンにたとえるならハーレーダビッドソンのVツインのようでもある……と言えなくもない。極低回転域の力強さもハーレーとの共通点だろう。
どちらの車両も、バイクとはエンジンを懐の直下に抱えて走る乗り物で、どんなエンジンを搭載するかが乗り味を大きく左右するものだということを思い出させてくれる、そんな主張の強さを持っている。どちらを選ぶべきかは好みとしか言いようがない。
たった20.2馬力に191kgの車体、なのに満足感は高い
改めてメテオ350で市街地を走ると、鼓動感は手元を中心に伝わってくることがわかる。肉厚のシートは乗り心地がよく、振動や、サスペンションで緩衝しきれなかった路面の突き上げも吸収している印象だ。ただし、筆者(装備重量80kg)よりも体重の軽いスタッフ(装備重量63kg)はシートのクッション材を硬めに感じたというから、相性はあるかもしれない。サスペンション自体は高級感こそないものの、ごく普通のレベルで及第点と言っていいだろう。
ブレーキの利きは十分で、コントロール性もなかなか。ABSは最高級とは言えないまでも、自然で必要十分な働きをしてくれる。操作系のフィーリングは国産と変わらない印象だった。
ロイヤルエンフィールド東京ショールームで聞いたところによると、2014年にとある日本メーカーから移籍した日本人スタッフが開発に参画を始めたことで、2016年あたりのプロダクトから急激にクオリティが上がってきているという。これは2気筒のフラッグシップモデル・コンチネンタルGT650やINT650、また単気筒アドベンチャーのヒマラヤ(411cc)に乗った時にも確かに実感できた。
また同時期に、トライアンフでチーフエンジニアとして働いていたキャリアを持つサイモン・ウォーバートン氏や、1972創業の伝説的なフレームビルダーのハリスパフォーマンスを迎え入れており、2017年にはロイヤルエンフィールドの生まれ故郷であるイギリスにテクノロジーセンターを開所している。
これらにより、旧クラシック350/500系のバイクが持っていたような、優しく穏やかながらもどこか調和が取れていないような(それもまた味があっていいのだけど)ところがなくなり、“らしさ”を残したまま洗練されてきたのだろう。
ハンドリングはクルーザー系として見るとやや独特で、意外と短いホイールベースや、19インチのわりにフロント旋回力の立ち上がりが早めなCEATタイヤ(インド製)などによって、やや重厚感のあるネイキッドのような印象だ。小回りも得意で、Uターンには気遣いがいらない。交差点の右左折よりも少し速度が乗ると、やや早めに曲がりたがるような印象になるが、巡航速度までくるとしっかりとした直進安定性が現れる。
リヤブレーキ主体の曲がり方でもいいし、フロントブレーキを少し残したような乗り方にも対応する。ホイールベースの短さゆえか、相対的にピッチングは大きめに感じられた。
これが以前のクラシック500だと、まず鉄リムのホイールがかなり重く、速度が増すほどにその慣性力が大きくなる。直進安定性はいいが、車体を傾けようとするとジャイロモーメントの抵抗が大きく、ブレーキも重たいホイールを減速させるために力を使う感じがあった。これはこれで面白いが、毎日乗り回すには少し味が濃すぎたかもしれない。
メテオ350は、スマートフォンとBluetooth接続することでターンバイターンのナビゲーションも利用可能。日本でもちゃんと認可を取ってあるといい、安心して使うことができる。画面に表示されるのは曲がる方向と交差点までの距離、そして目的地までの距離というシンプルな構成だが、不便さは全く感じない。むしろ余計な気を取られないことが好印象だ。ただ、専用アプリは英語で住所を検索する必要があったり、スマホのバッテリー消費がやや早めだったりするので、給電方法などに少し工夫が必要かも。
ロイヤルエンフィールドらしさを十分に持ちながら、日常から安心して乗れるクルーザーモデルに仕上がっているのがメテオ350と言えるだろう。排気量の数字以上の満足感と存在感があると感じるユーザーも多いはずだ。普通二輪免許のユーザーにも、外国車ならではの雰囲気を安心して味わえる1台としてオススメしたい。
Royal Enfield METEOR 350
主要諸元■全長2140 全幅845 全高1140 軸距1400 シート高765(各mm) 車重191kg(装備)■空冷4ストローク単気筒SOHC 349cc 20.23ps/6100rpm 2.75kg-m/4000rpm 変速機5段 燃料タンク容量15L■タイヤサイズF=100/90-19 R=140/70-17 ※諸元はイギリス仕様 ●価格:62万2600円(スーパーノヴァ) ●予想発売時期:2021年冬
以下、長谷川徹カメラマン劇場
METEOR 350 各グレードのラインナップ
スーパーノヴァ:62万2600円
ステラ:60万8300円
ファイアーボール:59万6200円
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