兄弟モデルこそがライバルだった!!

シン・CRF250L対CRF250L[s]徹底比較試乗:標準モデルと足長モデル〈前編〉

シン・CRF250L対CRF250L[s]徹底比較試乗:標準モデルと足長モデル〈前編〉

’21年にフルモデルチェンジを果たしたホンダ新型CRF250Lは、サスペンションストロークを伸ばした「s」とともに、旧タイプLDに相当する低シート高モデルが標準モデルとなり登場。開発スタッフ曰く、「トレッキング性能もしっかりテストしています!」と。ならば、標準モデルとsを徹底的に乗り比べ、その違いを述べてこそオフロードマシン総合誌『ゴーライド』というもの。というわけで、実際にオガP編集長と副編コイが2台を乗り比べつつ、さまざまなシーンを駆け抜けてきた。前後編に分けて紹介するゾ!!


●写真:長谷川徹 ●まとめ:小川浩康(ゴーライド編集長)

【オガP編集長】’05年型XR250に乗り続けているが、新型CRF250L[s]の完成度の高さに技術の進歩を大いに感じているこのごろ。sと標準モデルの乗り比べは、個人的な次期モデル決定戦という話も…。身長172cm。【副編コイ】旧CRF250Lで各地に赴き、その乗りやすさと信頼性の高さから、CRFのことを”アニキ”と呼ぶほど慕っている。そして”シン・アニキ”こと新型CRF250Lの仕上がりに興味深々だ。身長155.9cm。

シン・CRF250L/CRF250L[s]

’12年の登場以来、全世界累計販売13万台という人気モデルとなったCRF250Lシリーズ。その中で、軽量化/最低地上高アップ/パワーアップといった改善要望が上がってきて、’17年のマイナーチェンジで”パワーアップ”を実現。そして、すべての要望を実現するべく’21年にフルモデルチェンジ。4kgの軽量化、最低地上高のアップなどを果たして登場したのが、このシン・CRF250Lなのだ。

シン・CRF250L(以下L)のシート高は、旧CRF250LタイプLDと同じ830mmに設定。さらに前後サスのストロークを延長し、シート高を880mmとしたCRF250L[s](以下s)も設定した。こちらは旧CRF250Lよりも5mm高くなっている。

【’21 HONDA CRF250L/CRF250L[s]】■全長2210(2230) 全幅820 全高1160(1200) 軸距1440(1455) シート高830(880)(各mm) 車重140kg ■水冷4ストロークDOHC4バルブ単気筒 249cc 24ps/9000rpm 2.3kg-m/6500rpm 変速機6段 燃料タンク容量7.8L ■タイヤサイズF=80/100-21M/C 51P R=120/80-18M/C 62P ●色:エクストリームレッド ●価格:59万9500円 ※( )はs

[比較1] 林道&フラットダート:スピードが上がるほど安心感の差も広がる

まずは、林道やオフロードコースなどの比較的フラットなダートで乗り比べ。スタンダードとsのサスストロークの違いが、どう走りに影響するのかをチェックしてみた。

フラットな林道やオフロードコースで乗り比べてみた。

編集長オガP(以下オガP):思った以上に2台の乗り心地は違ったね。

副編コイ(以下コイ):sは自分の身体のバネとマシンのバネが連動しているというか、マシンとの一体感がめちゃくちゃありますね。sのサスストローク感は分かりやすいです。

オガP:sのサスは初期からよく動いて、グッと奥まで入っても耐えてくれる。衝撃が身体に一気に伝わってこないし、常に前輪の接地感もある。スピードを上げてもフロントを振られる不安がなく、安心できる乗り心地の良さがある。だから、さらに気持ちよくアクセルを開けられる。軽くなった車体もあって、”かなり速い”と思ったよ。

勢い任せでも安心できるCRF250L[s]。

コイ:ダートでのsは、路面の凹凸のカドが取れた、滑らかな路面を走っているように感じました。逆にLは衝撃がダイレクトに身体に伝わってきて、身体のバネと連動させるのも難しかった。

オガP:Lは初期からコツコツとした感触が伝わってきて、路面のちょっとした凹凸を乗り越えたりスピードを上げたりすると、ゴツゴツした感触が伝わってくる。サスストローク量が少ない分、底突きしないように踏ん張っている感じ。ただ、Lのサスストローク量の少なさは足着き性の良さにもなっているよね。

コイ:たしかに。でも背が低くいろいろ短いコイ(以下短コイ)にとっては、Lもベタ足にはならないんです。それに、林道や狭い場所でのUターンなど、「少しでも危なそうな時はマシンから降りてやる」と決めているから、林道やオフロードコースでは足着き性のよさより、衝撃吸収性のよさのほうがメリットは大きいです。

オガP:なるほど。

コイ:じゃあ、Lがフラットダートでダメかというとそうでもなくて、取りまわしの軽快さは断然Lが良かったです。フラットな路面でも、狭い場所になるとsのシート高には辛さを感じますし、そうした時はLの取りまわしやすさと足着き性はありがたいですね。

オガP:Lは全体的に低く、重心位置も下がっているのが、押し引きの軽さとして感じられるよね。だけど、それでハンドル位置も下がっているので、シッティング時にヒジが下がり、とくに上半身に窮屈さを感じてしまった。それに対してsはヒジも上がって、背筋も伸びてリラックスできるポジションが自然と決まる。まさにベストポジションって感じで、自分のXR250よりもいいかも。sは全体的に重心位置が上がっていて、取りまわしではLより重さを感じるけれど、それよりもベストポジションによるマシンコントロールのしやすさが勝っているな。

コイ:”短コイ”でも、Lではヒジが下がりました。ハンドルの角度を変えれば印象は変わりそうですけど。

オガP:だね。ハンドルをもう少し高くすれば、印象はよくなりそう。そうはいってもLの足着き性のよさは、やっぱり安心。乗り心地に硬さを感じるけれど、それはダートである程度スピードを出した時だけだから。”ダートで足着き性の良さを重視する人”にはLがオススメだな。

低速域でのシート高は気になるからこそ、パッと足を出しやすいCRF250Lの安心感は大きい。

[比較2] トレッキング:足着きの違いが走りの幅も変える!!

続いて速度域が遅くなる荒れた路面やウッズで乗り比べ。スタンダードとsの足着きの違いがどう走りに影響するのかをチェックしてみた。

ガレ場やウッズなど、スピードを出せないような荒れた路面で比較試乗してみた。

コイ:フラットダートではsの衝撃吸収性が良かったですけど、狭い場所など足場を選べない場面での足着き性が厳しかった。だから狭くてスピードを出せない場所では、Lの足着き性とエンジン特性に助けてもらえますね。

オガP:初期型からCRFのエンジンは高回転までスムーズに回るし、低速トルクも必要充分に感じていたけれど、フルモデルチェンジで低速トルクはさらに粘るようになった。今回、Lとsで玉石の上り坂を走ってみて、sは普段の足着き性は気にならないけれど、こうした不意に足を着くような荒れた路面では足着き性を厳しく感じた。だから坂の途中でエンストするのが嫌で、どうしても勢い任せで上ろうとしてしまうんだ。すると前輪が障害物に当たって弾かれたり、アクセルを開けすぎて後輪をスライドさせてスタックしやすくなる。その一方で、Lはすぐに足を着けるから、勢い任せにせず進入スピードも遅くできる。で、遅く進入してもエンストせずに粘ってくれるから、トコトコと路面にも負担をかけずに上りきれる。ここまで低速トルクが粘るとは、正直思ってなかった。

コイ:アニキからシン・アニキになって、”クラッチ操作がめちゃ軽くなった”のも大きいですよね。

オガP:本当に軽いよね。しかも、スッと切れて、じわーっとした半クラッチもつなぎやすい。これもリカバーのしやすさになっているよ。

コイ:自分のように手の小さいライダーには軽いクラッチはありがたいですね。あと、Lはsよりも取りまわしを軽く感じるのも、トレッキングでは大きなメリットだと思います。

軽さと足着きでここからリカバーできるとは…。

オガP:前輪が岩に引っかかってバランスを崩したけど、とっさに足を着いて転けずにリカバーできた。それはLの取りまわしの軽さのおかげだと思う。本当に助かった(笑)。

コイ:あそこから戻せるんだー!? すげー!! と思いましたよ。sよりシート高が低いだけじゃなく、取りまわしの軽さと粘るエンジン特性がバッチリあってると思います。Lはシン・二輪二足と言っていいと思います。

オガP:試乗会で「トレッキングもしっかりテストしました」と開発者が語ってくれたので、じゃあ、Lとsを直接乗り比べてみようと思ったのが、この特集のきっかけなんだ。その時は足着き性がいいだけなのでは? なんて思っていたのだけど、Lとsは結構違うよね。

コイ:Lとラリーでは快適なところが違うけれど、それと同じぐらいLとsの快適なところも違うと思いました。トレッキングとか走るスピードが遅くなるほど、サスのゴツゴツ感もなくなるので、Lのデメリットもなくなります。逆にsはストローク感を生かせないので、足着き性の悪さが目立ってきてしまう。そこに取りまわしの重さも感じてしまいます。sでも足が地面にすぐに着ければ印象は変わるかもしれないですが、腰をズラしても足の長さ分、地面までが遠いですね(笑)。

オガP:Lとsでシート高50mmの差は大きいよ。シン・CRFは4kg軽くなって、車体幅もスリムになり、取りまわしは旧CRFよりかなり軽く感じるようになったけれど、それでもシン・Lとsで取りまわしの違いを感じる。物理的な軽量化も大きいけれど、乗った時に感じる軽さも重要なんだと思った。最低地上高もLはsより40mm低いのだけど、それが走破性の大きな差としては感じられなかった。もちろん物理的な差はあるけれど、それよりも”事前のライン選びの自由度/ボディアクションでの対応のしやすさ”は、Lのほうに軍配を上げるライダーは多いと思う。サスストロークが短くても、軽い取りまわしで走破性を上げているのは、トライアルマシンみたいなアプローチだなって思ったよ。

コイ:トレッキング性能を重視すると、シン・Lは俄然魅力的になりますね。

スタンダードはシン・二輪二足!

[比較3] 舗装路&市街地:乗り心地の違いは予想以上!!

最後は舗装路で比較試乗。トレールマシンのオンオフの走行比率は、圧倒的にオンになる。オンでの乗り味や快適性も、林道ツーリングを楽しむ要素として欠かせない。

舗装路や市街地で乗り比べ。スタンダードとsの重心位置の違いがどう走りに影響するのかをチェックしてみた。

オガP:シン・CRFは低中速トルクが太くなって、オフロードで扱いやすいエンジン特性になったけれど、高回転までスムーズなのは旧CRFと変わらない。高速道路の走行車線の流れに乗っても余裕があったね。

コイ:カタログスペックでは24psだけど、十分パワフルに感じます。ただ高速道路は同じ姿勢で走り続ける時間が長くなるので、Lのヒジが下がるポジションが気になりました。あと舗装路でもLは路面からの振動が伝わってくるように感じました。エンジンからの振動が少ない分、余計にそう感じるのかも。

オガP:Lのフロントサスはずっと踏ん張ってる感じで、sは絶えずストロークしている感じが伝わってくる。いいかえれば、Lはビシッとしていて姿勢変化が少ないけれど、sはフワフワしていて姿勢変化は大きい。オフロードマシンに乗り慣れているとsの姿勢変化の大きさは気にならないけれど、オンロードから乗り換えた人はLのフラットな乗り心地のほうが安心かも。

右折待ちの安心感はスタンダード。

コイ:街中での足着き性、とくに右折待ちではLが断然安心。でも短コイはお尻をズラして足を着くのが一連の動きになっているので、sでもまったく不安はなかったです。シン・アニキの4kg軽量化が効いてると思います。

オガP:市街地やトレッキングではLにはミドルサイズのようなコンパクトさを感じたけど、それは足着き性のよさと取りまわしの軽さのおかげだろうね。速度域が低くなるほどLは乗りやすくなる。逆に速度域が上がると、sのサスストロークが乗り心地と安定性のよさを発揮する。

コイ:シート高の違いは足着き性の差だけじゃなかったですね。短コイはsの乗り心地が気に入りました。

オガP:sは高速道路を使った林道ツーリングはもちろん、クロスカントリーレースも楽しめると思う。でもLの抜群の足着き性と低速域の扱いやすさも捨てがたい。かつてSL230に乗っていたけど、Lの軽快な乗り味なら、SLと同じようにトレッキングやトライアルごっこが楽しめると思ったから。

sの乗り心地は長距離でも快適!!

コイ:足着き性だけじゃなく、Lとsそれぞれの得意分野がハッキリしましたね。シン・アニキは2機種が登場した感じです。

オガP:ちなみに、高速道路で40km/L、ダートで29km/Lを記録。総燃費では36km/L。ヘッドライトは照射範囲が広くなった印象。

コイ:目盛りが増えた分、残量計が割と早く減っていくけど、それだけ正確になったってことですね。あと気づいたんですけど、Lとsはサイドスタンド形状でひと目で見分けられますね!!

後半では、スタンダードとsのポイントごとの細かな違いやサイズ感をチェックするとともに、比較試乗を通して2人がリアルに感じた各モデルのいい点悪い点を紹介する。


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