2代目誕生から14年目となる’21年、ついに待望の3代目ハヤブサが発売された。先代はなぜこんなにも長く生き長らえたのだろうか。ここであらためて2代目(’17モデル)に試乗し、その真価に迫ってみた。
●まとめ:大屋雄一 ●写真:山内潤也 ●取材協力:スズキ
[○] 高級サルーンのような上質フィールを再確認
初代、そしてこの2代目とも試乗した経験は何度もあるが、その最後は’12年のことなので私としては9年ぶりの再会となる。付け加えると、フロントキャリパーがブレンボになって以降は初めての試乗だ。
フレンドリーな足着き性と、それとは対照的にやや遠目のハンドルポジション。排気量の大きさを想起させるニーグリップエリアのボリューム感など、全てが過去の記憶と合致する。微妙に違っていたのはエンジンフィールで、ここ最近1000ccを超える4気筒のニューモデルが登場していないこともあってか、こんなにも上品で上質だったのかと驚かされた。一般道で多用するのはせいぜい4000rpm以下で、スムーズかつ潤沢なトルク感を味わいながらの加減速や巡航が心地良い。出力特性をA/B/Cの3つから選択できるS‐DMS(スズキドライブモードセレクター)を採用するが、全てのスロットル開度で最大のパワーが得られるAモードですら低回転域からの調教が行き届いており、266kgもの巨体を意のままに操れるのは快感のひと言だ。スロットルを大きく開ければ脳がズレるほどの怒濤の加速を楽しめるが、そうしたあり余るパワーを秘めつつも普段はジェントルに振る舞うという二面性こそ、このエンジン最大の魅力と言えよう。
ハンドリングもいい。スロットルのオンオフだけでも滑らかに車体がピッチングするので、誰もが自然と旋回動作に移れる。そして、峠道ではしっかりとフロントフォークを沈ませると、この巨体からは想像できないほどの高い旋回力を引き出せるのだ。初中級者には優しく、ベテランには操縦した分だけの反応を見せるという、奥行きのあるハンドリングもハヤブサの美点だ。巡航時の乗り心地やウインドプロテクション効果も優秀で、これが旅バイクとして支持されているのもうなづける。
ブレーキは、あえて初期のタッチを抑えているような印象があるものの、これだけの巨体を高速域から急減速させられるだけのストッピングパワーと、それを繰り返しても余裕があるのはブレンボならでは。ABSの作動も特に不満はなかった。
[△] トラクションコントロールがないので滑りやすい路面は注意
’13年にABSが追加されたが、2代目は最後までトラクションコントロールが装備されなかった。S‐DMSをCモードすると、特に低回転域でのレスポンスが抑えられるとはいえ、トルク自体は大きいので過信は禁物だ。ウェット路面では慎重に走ってほしい。
[こんな人におすすめ] 最高速バトルも今や昔。上質さこそが美点だ
スピードが善だった時代はとうの昔に終わったが、その主役が異例なほど生き長らえ、後継を待ち望まれた理由は、常用域での上質さにあるように思う。これを超えるという3代目、飛び道具を使わなかっただけに期待が高まる。試乗の機会を待ちたい。
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