●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 YM ARCHIVES ●取材協力:モリヤマエンジニアリング
今も絶大な人気を誇る‘80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末永く楽しんでいくには、何に注意し、どんな整備を行えばよいのだろう。その1台を知り尽くす専門家に尋ねてみよう。今回取り上げるのは、カワサキZ1の系譜を継承した第二世代の並列4気筒車・GPZ900R。まずはこの神名車の概要と歴史、市場の状況から。
旗艦の座を降りてからも長きに渡って人気を維持
’73年型Z1に端を発する空冷2バルブのZ系で、大排気量車の世界で確固たる地位を築いたカワサキ。そんな同社が次世代の旗艦/基盤として’84年に発売を開始したのが、水冷4バルブのGPZ900Rだ。
このモデルの登場時に話題になったのは、量産車最速の246.8km/hを記録したことや、当時の大排気量車でダントツに軽量な228kgの乾燥重量を実現したこと、2輪用4気筒では初となるサイドカムチェーンとバランサーを採用したことなどだが、現代の視点で興味深いのは、フラッグシップの座を降りた後も長きに渡って生産が続いたことである。
一般的なフラッグシップの場合、後継車の登場後は姿を消すものだが、’86年にGPZ1000RX、’88年にZX-10、’90年にZZR1100が登場しても、GPZ900Rの生産は続き、’90/’99年には大幅刷新を実施。おそらく’80年代後半以降のカワサキにとって、GPZは万人向けのスタンダードという位置づけだったのだろう。
なおデビュー当初の日本では、独自の排気量規制に対応する750cc仕様が販売されたGPZだが(900は逆輸入という形で入手できた)、’91年にはパワーが控えめな日本仕様が登場。ただし排気ガス/騒音規制の強化を受け、日本仕様の販売は’99年で終了したのだが、以後のカワサキはほぼ日本専用のマレーシア仕様を継続生産。’03年のファイナルエディションで、GPZ900Rは長い歴史に幕を下ろすこととなった。
そして生産終了から17年が経過した現在、GPZ900Rを取り巻く状況がどうなっているかと言うと…。中古車価格は着実に上昇しているが、先代の空冷Z系や同時代のカタナと比較すると、相場は低くタマ数はかなり豊富。となれば、GPZは”今が買い”のような気もしてくるが、今回の取材に協力してくれたモリヤマエンジニアリング・森山光明氏によると、現在の中古車市場にはもはや極上車は存在しないと言う。
確かにそう言われてみると、ファイナルエディションですらすでに17年前なのだから、見た目がピカピカで走行距離が少なくても、ノーメンテで気持ちよく走れる可能性は限りなくゼロに近いだろう。とはいえ補修部品のほとんどが揃う現時点なら、本来の資質を取り戻すことは十分に可能である。
ちなみに、かつてのGPZ900Rはいじってナンボのバイクという感があって、現在でもカスタム指向のユーザーは非常に多いのだが、その一方で近年ではノーマル、あるいはノーマル+αを好むライダーが増えているようだ。
GPZ900R進化の歴史:時代の要求に応じる形で2度の改良を実施
’84~’03年に生産されたGPZ900Rには、大別すると3つの世代が存在する。まず第1世代となる’84~’89年型のわかりやすい特徴は、フロント16/リヤ18インチのホイール、アンチノーズダイブ機構のAVDSを備えるφ38mmフォーク、前後とも片押し式1ピストンのブレーキキャリパー(ディスクはフロントφ280mm/リヤφ270mm)、ショートタイプのマフラーなど。
’90~’98年の第2世代は、時代の変化に合わせて足まわりを大幅刷新。フォークはAVDSを廃止したφ41mmで、6→3本スポークに変更されたホイールはフロント17/リヤ18インチ。ブレーキはフロントφ300mmディスク+対向式4ピストン/リヤφ250mmディスク+片押し式2ピストンだ。第1世代のフルパワーが110psだったのに対して、第2世代以降は108ps、’91~’99年の日本仕様は86psという数値を公称する。
そして’99~’03年の第3世代は、対向式6ピストンのフロントキャリパーやガス加圧式リアショック(第1/第2世代は独自のエア併用式)、ZR規格のラジアルタイヤ、ショートタイプのシフトペダルなどを導入。
’84~’86年に生産された750cc仕様は、排気量以外は第1世代と同じ。日本仕様は77psだが、海外で販売されたフルパワー仕様は92ps。なお’80年代中盤の日本におけるGPZの価格は、750が74万8000円~76万5000円、逆輸入の900は100万円前後だった。
現在の中古車相場:タマ数はまだ豊富。予算に応じて選び放題?
現在のGPZ900Rの相場は、50〜250万円ほど。中古車販売店もネットオークションもほとんど同じで、予算に応じて選び放題という印象である。もちろん安ければ安いほど、好調を取り戻すための整備費用は増加すると考えるべきだろう。200万円以上の車両は、ファイナルエディションか高額パーツを満載したカスタムバイクのいずれかだ。
プロに学ぶ’80s神名車メンテナンス・GPZ900R編、続いてはこのマシンのウィークポイント=メンテナンスの勘どころについて解説する。
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