ヤマハMT-09とMT-07と言えば、押しも押されもせぬ人気車種。そのはじまりは2013年末に海外デビューした2014年モデル(ややこしい)のMT-09だが、その最大の特徴は、エンジンと車体を共有した『プラットフォーム戦略』による多機種展開にあった。これが2018年までの累計で、MT-09/MT-07のそれぞれで20万台を突破したという。
多彩なモデル展開とリーズナブルな価格を両立
1980年代のバイクブームをご存知の方なら、当時のバイクが(一部を除いて)それぞれに専用設計のエンジンや車体を採用していたことも記憶にあるのではないだろうか。これは頻繁なモデルチェンジや高性能追求なども含め、ブームの渦中だったからこそ可能だった。毎年のように長足の性能向上が謳われ、実際に技術的にも発展の幅が大きかった時代だ。
しかし、これを続けるには途方もない予算が必要であり、販売台数が落ち着いている現代にあっては、ニューモデル開発のたびに新設計エンジンを投入するなどということは極めて難しい。ちなみに筆者は、あの時代がある意味で異常だったのであり、現代は、もう少し売れてほしいという願いはあるにせよ、日本の現代社会に照らし合わせて考えれば、ほぼ適正な販売台数に近いのではないかと思っている。
また、モデルチェンジごとに新設計エンジンなどを作ったとしても、かつてのような大幅な性能向上は見込めまい。技術が一定以上にまで発展してくると、投入するコストに対する性能向上の幅はどうしても狭くなってくるものだ。また、環境対応などにかかるコストも莫大なものになる。いくら高性能なものが出来上がったとしても、ユーザーが買えない価格になってしまっては意味がないだろう。
バイクブームが終わり、大型自動二輪免許が教習所で取得できるようになったことではじまったビッグバイクブームも落ち着いた頃、2008年にリーマンショックがあった。販売台数は落ち込み、開発が凍結された機種も相次いだと聞く。この頃を境に、各バイクメーカーはニューモデル開発の方針を見直すことになった。
ヤマハが当時の業績悪化から再建に取り組んだ過程で、生産拠点の集約と合わせて大きな成果を上げたのが、製品開発におけるプラットフォーム戦略だ。共通のエンジンや車体をベースに、異なる機能や外観を組み合わせることで開発スピードを高め、同時に多彩なモデル展開をしながら大きなコストダウン成果も上げたという。
先進国を中心に発売されたロードスポーツモデルの『MT-07(2気筒/排気量688cc)』や『MT-09(3気筒/排気量845cc』は、エンジンや車体を共通化した製品を展開。MT-07はXSR700(海外モデルではトレーサー700も存在)、MT-09はトレーサー900(当初の車名はMT-09トレーサー)、XSR900、そしてナイケンにまで発展した。さまざまな趣味や用途に対応した製品バリエーションで多様化する市場ニーズに応え、2018年には累計生産台数が各プラットフォームでともに20万台を突破したわけだ。
こうしたプラットフォーム戦略は小排気量機種でも展開され、例えばYZF-R25とMT-25なども、ともに人気を博している。もちろん他メーカーでも同様のモデル展開はなされているが、MT-09/MT-07が打ち立てた数字は、プラットフォーム戦略が多くのユーザーに受け入れられたことを示している。バイクブームを振り返って「あの時代はよかった」というのは簡単だ。しかし、現代は現代の状況に合わせながら、魅力的なニューモデルを開発するために不断の努力が続けられている。
MT-09/トレーサー900/XSR900/ナイケン
MT-07/XSR700
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