
1980年代に起こったスペシャルカーブームが世界を席巻したこと、懐かしく思う方は少なくないかと。ゲンバラ、トレーザー、SGSやらAHGなどなど、胸の高まるメイクスは枚挙にいとまがありません。とりわけ、メルセデスベンツを大いにオマージュしたイズデラは、国内に正規ディーラーが存在したという稀有な存在。300SLをほうふつとさせるガルウィングや、V8ミッドシップなど、現代の目で見ても意欲的なマシン。数あるスペシャルカーの中でも横綱クラスといっても過言ではないでしょう。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
スペシャルカー界隈の横綱的な存在
イズデラ・インペラトール108iというネーミングは、「“I”ngenieurbüro für “S”tyling, “De”sign und “R”acing」という社名に、皇帝や凱旋将軍を表したとされるImperator(後にエンペラーの語源となっています)加えたもの。
108iは諸説ありますが、イズデラの一番目のモデルとして「1」にV8の「08」、iは「injection」などとも解釈されますが、根幹は創業社名のIngenieurbüroにちなんだ技術指向の名称という説が有力。いずれにしろ、いささか理屈めいたところも、じつにドイツのファクトリーらしいかと。
その昔は、イズデラといえばbbのマークでおなじみのブッフマンによる製作と勘違いされたこともありましたが、それは製作者のエーベルハルト・シュルツがCW311というインペラトールのコンセプトカーをブッフマンから発表したことが理由。
なお、CW311は1978年のジュネーブショーで発表された際、許諾を得ずにスリーポインテッドスターをつけており、大問題になりかけたものの、あまりに評判がいいことからメルセデスベンツ側が事後承諾をしたという経緯もありました。
ファーストモデルは1982年にデビューし、その後の9年間で30台が製造されました。こちらは、13台製造されたシリーズ2。
シリーズ2はフェンダーやボンネット上のダクトが追加され、強化されたエンジンに対応する改良が数多く施されています。
自作スポーツカーから発展したミッドシップスポーツ
このシュルツというエンジニアにしてカーデザイナーを名乗った人物はなにかと話題に事欠かず、イズデラを興す以前には「エラトールGTE」という自作スポーツカーを乗り回し、ポルシェやメルセデスベンツの面接を受けていたのだとか。
ちなみに、エラトールはインペラトールとは似ても似つかず、どちらかといえばフォードGT40のソックリさん的なクルマ。ですが、ガルウィングドアを採用しており、そのエッセンスはしっかりインペラトールに引き継がれています。
エッセンスといえば、インペラトールはメルセデスベンツのコンセプトカー「C111」との類似を指摘されることもありますが、シュルツは真っ向から自身のオリジナルだと否定しています。
たしかに、ガルウィングやスラントノーズ、ミッドシップといった共通点はあるものの、エンジンや足まわりなどのコンストラクションはインペラトールのほうがはるかに現代的。シュルツは「むしろ、300SLの後継モデルとして開発した」と述べています。
メルセデスベンツのM119、5リッターのV8ツインカムはおよそ300馬力といいますから、ほぼストックのまま。ミッションはZF製5MTを採用しています。
イズデラは日本に正規ディーラーがあった⁉
そんなインペラトールを見ていくと、鋼管フレームにFRPという構成で、これは先のエラトールや、メルセデスベンツ在籍時のノウハウが生かされたことがわかります。
エンジンはメルセデスベンツM117の5リッターV8をはじめ、AMGの5.6リッター、AMGの6リッターといくつか用意されていました。ご紹介しているモデルはシリーズ2と呼ばれる、後期型の1991年式でM119の5リッターV8ツインカムエンジンを搭載。
標準的なパフォーマンスとして、0-100km/h加速:5.0秒、最高速283km/hとカタログには記載されています。現代的にはさほど驚くようなものではなくとも、1982年当時は男のロマンをかき立てるレベルだったに違いありません。
シリーズ2は13台が製造され、左ハンドルはそのうち5台だったと記録されています。ご紹介しているクルマは、前述の通り国内の正規ディーラーが新車時に輸入したものですが、現在はドイツのコレクターが所有とのこと。
台数が少ないので、オークションに出ることは滅多にないものの、65~85万ドル(約1億~1億3000万円)という指値では落札されないまま。同時代のフェラーリやポルシェに比べても遜色ないどころか、きわめてコレクション性の高いモデルにもかかわらず、いささか残念と言わざるを得ません。
スペシャルカー好きが宝くじに当選したら、真っ先に買いたくなるモデルの筆頭ではないでしょうか。
飛び立つワシがイズデラのトレードマーク。どこかで見たことのあるメーターは、ポルシェ928のもの。
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