
●文:ライドハイ編集部(根本健) ●写真:大谷耕一
一瞬では理解しにくい高度な開発には、ホンダ伝統の反骨精神も必要!?
Part1から説明している通り、4ストロークで挑戦を決めたNR500の開発で、ライバルとなる2ストローク4気筒500ccの110~120psを上回ろうと、130ps/10,000rpmを目標に充填効率からバルブ面積を算出すると、必要な吸気バルブ口径が通常の丸いピストンだと入りきらない。
バルブを半月状にできればもっと稼げるが、燃焼室でバルブが接して密閉するシート面に、排気で生じる微粒の硬いカーボンが挟まると、圧縮漏れを起こしてしまう。そうならないよう、丸いバルブが常に回転しながら開閉する仕組みなので、変形にはできない。
しかし、吸気4本を横一列に、排気も横一列が並ぶ長円の燃焼室とピストンだと、必要なバルブ口径面積が稼げることがわかった。これが、オーバルピストン32バルブV4を開発した理由なのだが、NR500のデビュー当時は、V8を開発したくてもレギュレーションで4気筒までなため、ピストン2個を連結した変形V4とした苦肉の策…と誤解? されがちだった。
NR750のオーバルピストン32バルブV4。
乗ってみれば、排気量がひとクラス以上も大きなエンジン特性が得られるという圧倒的な違いを理解できただろうが、数人のGPライダーとテストライダーしか乗っていなかったのだからムリもない。
今回のルマン出場プロジェクトは、フランスのモトレビュー誌のジルベール・ロイ、英国のMCN(モーターサイクルニュース)のマット・オクスレイ、そして根本健のジャーナリストライダー3人が乗る計画。
オーバルピストン32バルブV4が、何を狙ったコンセプトなのかも伝わるだろうという目論見も含まれていた。
【HONDA NR750】
Part2では、24時間耐久の仕様とする検討ミーティングでの、レーシングマシンというより、乗りやすく疲れない、ライディングを楽しめるマシンとするのが至上目標であったと伝えた。
そのため、重心位置や前後のアライメントを先に決め、そこへエンジン&車体を嵌め込むような順序で組むというのも、なかなかないことに違いない。
これらの詰めの部分で、アンチスクワット設定に自由度がある位置にドライブスプロケットを置く検討をしているとき、エンジニアが既存のカセットミッションを流用するため、エンジン前後長がわずかだけ長くなることに気づき、「これだと上司から評価されにくいナァ…」と嘲笑気味に呟いた。
1ミリでも短くコンパクトに、1グラムでも軽くなれば「良くやった」とわかりやすい。でも、「その人たちのための開発じゃない」。そう自分に言い聞かせていた。
そんな反骨精神が、また“ホンダらしい”と、羨ましく思えたのを思い出す。
信じがたい短期間での設計試作。可能性に賭ける柔軟さとこだわりの頑固さと
かくして、24時間耐久仕様にエンジンも車体も設計し直されたNR750が、わずか2ヶ月ほどで完成。オーストラリアのメルボルン郊外にあるサーキットで、極秘テストが開始された。
【HONDA NR750】
85度の挟み角となったV型4気筒は、748.76cc/155ps/15250rpm/7.76kg-m/12500rpm。デチューンしても、RVF750ワークスマシンより強力だ。
最大の魅力である、8000rpm以下から扱いやすく力強いトラクションを、さらに低い5000rpm以下でも低速コーナーで活かせるようアングルを深く取ったところ、コーナー立ち上がりだと強大なトルクでスイングアームが上下に揺れる現象も起きていた。
エンジニアは、このスイングアームの上下動が許せない。「上下に動いている間は前進していない」 そんな効率の悪い、言葉を換えれば“みっともなさ”を感じていたようで、意外なほど説得に時間がかかった……
※本記事は2023年2月2日公開記事を再編集したものです。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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