[バイク歴史探訪] 他にはないモトグッツィ縦置きVツインエンジンの感性


●文:ライドハイ編集部(根本健)

イタリア最古のメーカーは、クラシカルな佇まいでも新しい

モトグッツィはイタリア最古のメーカーで、第一次大戦でエンジニアのカルロ・グッツィとレースライダーと富豪の3人が空軍で出会い、戦後1921年に創立。羽を拡げた鷲のエンブレムは、イタリア空軍に由来したものだ。

ルーツそのままに、モトグッツィは創業時からレースに没頭し、マン島など海外でも活躍。一躍イタリアを代表するブランドとして名を馳せた。その流れは第二次大戦後も続き、日本メーカーがマン島TTなどに出場する遥か前の1957年、世界GP頂点クラスの500ccにV型8気筒(ボア44×41mmの90°V8で、72ps/12,000rpm)がデビュー。世界中から注目を浴び、最高速度275km/hを記録するなど、常に最先端技術を開発していた。

モトグッツィV型8気筒レーサー

【モトグッツィV型8気筒レーサー】1957年の世界GP頂点クラスに対し、V型8気筒で72ps/12,000rpmという当時では途方もないマシンを開発。最高速度275km/hを記録する最先端技術のマシンだった。

ところが市販車のほうは、創業時から水平単気筒が主力で、中でも1949年からのベストセラー250cc・アイローネは、最高速度95km/hとメカニズム的にも性能的にもクラシカルなまま、なんと1960年代後半まで生産が続けられていた。

モトグッツィ アイローネ

【モトグッツィ アイローネ】レースでは高度なメカニズムを満載するのに対し、一般向け量産車は水平単気筒が主力で、この250ccアイローネはデビューした1949年にてすでにクラシカルな佇まい。1960年代まで生産されていた。

熱狂的なファンを生んできたV7

そんなモトグッツィに、現在まで造り続けられている縦置きVツインが登場したのが1969年。警察用大型バイクの「V7」だった。このエンジンは、もともと500cc乗用車のスポーツモデル用として開発がスタートし、実用化されたのは軍用の三輪車だったというユニークな経緯を辿っていた。

モトグッツィV7

【モトグッツィV7】1969年に警察用白バイとして誕生したV7が、現在まで続く縦置きVツイン+シャフトドライブのルーツ。スポーツバイクのベースなどとは想像もできない、大きくて重い仕様だった。

しかし、警察用の装備と大柄な車体のV7は、1971年に低く狭いハンドルバーにコンパクトな車体とした「V7スポーツ」へと進化、その後の排気量も850ccとした有名なルマンシリーズなど、主要マーケットのアメリカで熱狂的なファンを生んできた。

モトグッツィV7スポーツ

【モトグッツィV7スポーツ】1971年に登場したV7スポーツ。ようやく登場したこのスポーツモデルを起点に、850ルマンなど歴史に残るカフェレーサースタイルの流れができていった。

縦置きVツインの、他にない独得な安定感と鋭さ…

1200ccまでスケールアップしたこともある縦置きVツインは、現在ロードスポーツとしては750ccがメインで、最近アドベンチャー系のV85TTでオイル潤滑をセミドライサンプ式となるなど新世代が加わっている。

始動すると、縦置きエンジン独特の、スロットルを空吹かしすると軽く横揺れする反応に始まり、他に似たモノのない独自の趣味性に包まれるモトグッツィの世界が展開される。

エンジンへの吸気音が耳に届きやすい位置にマニホールドがあるため、乾いたサウンドを聞かせるのもモトグッツィならでは。

走り出すと、低回転域でクラッチを繋いでも、ユサユサと揺れながら低速トルクで車体を支える安心感に身を委ねることができる。

…という街中での扱いやすさから一変して、高速道路での矢のように真っ直ぐ突き進む強い安定性が、アメリカで熱狂的なファンを構築した理由のひとつ。

さらにワインディングでも、速度の高いコーナーではピターッと旋回軌跡がまったく乱れない、旋回時の安心感も大きな魅力。

コーナリングは縦置きクランクの反トルクで、右コーナーがややリーンしにくく、左コーナーはペタッと曲がれるのも、モトグッツィ乗りなら必ず語るエピソードとして定着している……

※転載元初出:2020年11月2日 ※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。