キャリアの長いライダーなら、燃料コックは「あって当然」の装備だった。ところが近年のバイクにはついていない。もちろん必要ないから装備していないのだけど……。とはいえ人気の旧車やキャブレター仕様のバイクに乗るなら、燃料コックの操作は必須なので、知っておいて損はない……かも。
●文:伊藤康司 ●写真:富樫秀明、真弓悟史、ヤマハ
FI(フューエルインジェクション)の登場で燃料コックが消滅
旧車はもちろん、2000年代初頭頃まではキャブレター仕様のバイクが多かった(とくに国産車)。そしてキャブレター車は、もれなく「燃料コック」を装備していた。ガソリンは車体の上部にある燃料タンクから、重力でキャブレターに流れていく仕組みのため、駐車中などエンジンがかかっていない時にガソリンが流れて行かないようにする仕切弁の役目を持っていた。
そして時代が進んでFI(フューエルインジェクション/電子式燃料噴射装置)が登場。FIは燃料ポンプでガソリンに圧力をかけてインジェクター(燃料噴射弁)に送る仕組みだが、燃料ポンプもインジェクターの開閉も電気で駆動しているので、メインキーをOFFにすればガソリンが勝手に流れることは無い。そのため燃料コックが必要無くなったのだ。
キャブレターからFIに変わる過渡期には、同じ車名(シリーズ)のバイクでも、FIになったタイミングで燃料コックが無くなっている。たとえばヤマハのセロー250の2007年モデル(キャブレター仕様で燃料コックあり)と、2008年モデル(FI仕様で燃料コック無し)などだ。ちなみにFI仕様で燃料コックを装備するのは、ヤマハのSR400くらいだ。
FIなのに燃料コックを装備する変わり種
ON、OFF、PRI、RES。燃料コックにも種類がある
かなり昔の小排気量車などでは燃料コックの切り替えがONとOFFのみの場合もあるが、一般的にはこの2種類が主流(レバーの向きや3つの切り替え位置は各種存在する)。端的に言えばイラスト左側が初期のタイプで、右側が1970年代後半頃に登場した「負圧式燃料コック」だ。
左側の初期のタイプはONでガソリンが流れ、OFFで止まり、RES(リザーブ)は予備なので、見たままでわかりやすい。意味不明なのは負圧式燃料コックのPRIだが……、その前にOFFが無くて大丈夫なのか? キャブレター車はそもそもガソリンを止めるために燃料コックが必要だったハズ。
じつは負圧式燃料コックは、エンジンがかかっている時に空気(正しくはガソリンと混ざった混合気)を吸い込むときに発生する「負圧」によって弁を開けてガソリンが流れるようになっている。簡単に言えばエンジンがかかっていればガソリンが流れ、エンジンが止まるとガソリンの流れが止まる仕組みだ。そのため燃料コックのレバーがONまたはRESの位置のままでも、エンジンを止めれば自動的にOFFになる便利機構なのだ。
それではPRIはナニかというとPRIMARY(プライマリー)の略で、「最初の」といった意味(?)。じつはレバーをPRIの位置にすると、エンジンがかかっていない状態(負圧に関係なく)でもガソリンが流れる。どういうシーンで使うかというと「ガス欠した後」だ。
負圧式燃料コックの場合、完全にガス欠した状態で止まると、ガソリンを給油してレバーをONの位置にしても、キャブレターの中が空になっているのでエンジンがかからない場合がある(かからないから負圧が発生せず、ガソリンが流れない)。そんな時はPRIにすればガソリンが流れてキャブレターを満たすのでエンジンがかけられる、というワケだ。ただしエンジンがかかったら、ONに切り替えるのを忘れないことが重要だ。
リザーブは「予備タンク」ではない!?
燃料コックの概念図
燃料コックのRES(リザーブ)は、なんとなく「予備タンク」に切り替えるイメージがあるが、実際は一般的にはバイクに予備タンクは存在しない。
上の概念図のように(青い四角がコックの切換え弁)、燃料コックのONはタンクの底から立ちあがった管からガソリンが流れるようになっている。そして管の吸い口よりガソリンの残量が少なくなるとガス欠症状になる。そこで燃料コックをRESに切り替えると、タンクの底からガソリンが流れて、ガソリンが無くなるまで使う仕組みだ。
というワケで燃料コックのRESは、いうなれば現代のFI車の燃料警告灯と同じ意味合い。なので警告灯が点灯した時のガソリン残量(=走行可能距離)と同様に、RESに切り替えた時のガソリン残量を知っておく必要がある(取扱説明書に記載あり)。
そして最大の注意点は、RESの状態で給油したら、必ず燃料コックをONに戻すこと。これを忘れて走っていると、何の前触れもなくガソリンを最後まで使い切って「本当のガス欠」に陥ってしまうからだ。OFFが無い負圧式燃料コックのバイクは忘れがちなので、特に注意が必要だ。
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