
他ジャンルのメディアに携わって20年ほどの私が、ひょんなきっかけでバイクメディアに関わるようになったのは2年ほど前のこと。その当時、一番驚いた表現が実は「バイク女子」だった。男性・女性だけに限らない、セクシュアリティの多様化が認知されている現代においてメディアでの表現は常に変化している。それを体感してきたからこそ、この言葉がひっかかったのだ。そして今、バイクに乗るようになって思う「バイク女子」について少し考えてみた。
世界共通の目標設定で大きく変化しているジェンダー平等
昨今SDGsが取り上げられ、さまざまな企業やプロジェクトで目にすることが増えた。2015年に国連サミットで採択された「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標。略してSDGs)」は、誰一人取り残さない(Leave No One Behind)持続可能な社会の実現を目指すための世界共通の目標だ。2030年までの達成を目指して日本でも取り組みが加速化している。
17の目標で構成されたSDGsには、ジェンダー平等のために掲げられたものがある。性別だけでなく肌の色や身体的な違い、宗教的・文化的な違いなどあらゆる違いを否定するのではなく、多様性をお互いに受け入れ合うことが謳われている。
SDGsは17の世界的目標、169の達成基準、232の指標からなる。ジェンダーに関連する目標は「5 ジェンダー平等を実現しよう」と「16 平和と公正をすべての人に」。
世界的な取り組みとしてSDGsはあるが、日本におけるジェンダー平等の歴史はそんなに古くはない。1985年に女性差別撤廃条約を締結し、翌年の1986年に男女雇用機会均等法が成立。そして1990年頃からジェンダーレスという考え方が浸透してきたといわれている。
こうした時代の変化もあり、言葉や概念の表現、選択というものも大きく変化してきた。あくまで一例だが、その昔、多くの航空会社で使われていたスチュワーデスという呼び名は客室乗務員やキャビンアテンダントに。女優ではなく俳優に統一するメディアも増えてきている。また映画をお得に楽しめるレディースデーというサービス名も今ではほぼ見かけない。小学生のランドセルの色はカラフルなラインナップから個人の自由に選ぶことが一般的となり、ジェンダーレス制服を導入する学校も増えている。
ジェンダー平等だけでなく、バイクメーカーでもダイバーシティを推進
ここまでは主に性別にフォーカスしてお伝えしたが、多様性を尊重する上ではダイバーシティという考え方も欠かせない。多種多様な人々がダイバーシティ (多様性)&インクルージョン (受容)し共存共栄することは、集団や企業、国としてより豊かに革新的に発展する上で欠かせないのだ。
それはバイクメーカーも同様のこと。EU(欧州連合)は、5月を多様性と包括性の重要性に関するコミュニティの意識を高めることを目的した「欧州ダイバーシティ月間(European Diversity Month)」に定めているが、これに合わせて2021年にはドゥカティでは全スタッフ向けのトレーニングコースを開始している。
具体的にはドゥカティ取締役会のすべてのメンバーと管理職が「無意識の偏見に対するトレーニング」と題されたコースに参加し、次ステップとしてこれをすべての従業員へと拡大したという。ドゥカティ従業員専用アプリを活用して、スタッフは手持ちのスマートフォンでプログラムに関する情報やニュースをダイレクトに受信。さらにはドゥカティ・デジタル・アカデミーのeラーニング・プラットフォームにより、全従業員がトレーニングに参加できるという。
フォルクスワーゲン・グループ傘下のすべての企業と同様に、ドゥカティでは人事および組織部門においてダイバーシティ・マネージャーおよびダイバーシティ・オフィサーを任命。選任のスタッフとともに、企業として「多様性&包括性」への道を確実に歩んでいる。
「バイク女子」的な概念は世界共通?
そんなこんなで社会的・企業的にこうした取り組みが進んでいるわけだが、ライダーの間では「バイク女子」という概念ももちろん現役だ。Instaで「#バイク女子」を検索すると投稿数93.7万件、一方で「#バイク男子」は19.4万件だった。Googleで「バイク女子」を検索すると約 49,100,000 件、「バイク男子」は約 18,500,000 件。WEBやSNSの世界を見ても圧倒的に「バイク女子」は多く、それだけ広く認知・活用されていることが数字的にも分かった。
Instaを見ていると、これは日本だけの傾向でもないようだ。Instaで「#motogirl」を検索すると投稿は187万件、「#bikegirl」は144万件だった。内容的には自転車の投稿も含まれている場合もあるのでバイクのみの結果でもないが、それにしても世界各国でも「バイク女子」的な概念はまだまだ不滅ということが感じられる。(投稿の件数はすべて2022年4月現在)。
とはいえ、女性ライダーって圧倒的に少ないんです
ここまでは、私自身がバイク免許を取得する前に感じていた「バイク女子」に対する疑問の理由や社会的背景をまとめてみた次第だが、実際に免許を取得してみるとまた違った視点をもつようになった。
なぜなら圧倒的に女性ライダーは少ないのだった。下のグラフにした警視庁の運転免許統計(令和3年版)・男女別、種類別運転免許現在数を見ても明らか。これはあくまでも免許保有の統計であって、免許を保有している人が必ずしもバイクを所有しているとは限らない。そう考えると、女性ライダーはさらに少数派ということが分かる。このように女性ライダーの市場規模は小さく、だからこそ女性用のライディングギアは少ないしサイズ展開も限られている。
警視庁の運転免許統計(令和3年版)より、男女別の大型二輪と普通二輪の運転免許現在数。この統計自体が男・女のみの記載なので、ジェンダー平等的には……ということは置いておいても、グラフにすると圧倒的な差が明確に。
いざバイクに乗るようになったら、例えばバイク乗る時にメイクはしている? とか、暑さや日焼け対策におすすめのアイテムが知りたいなど、同性のライダーに聞いてみたいことが出てきたのも事実。そうすると検索時に役立つキーワードが「バイク女子」だった。
これがきっかけで、4月30日にBikers Paradise 南箱根で行われたバイク女子部ミーティング2022春にも実際に足を運んでみた。当日は230名近い女性ライダーが集結し、試乗会も盛況。駐輪場をざっと眺めても多彩なバイクが並んでおり、そこには単なる「バイク女子」と一言では表せないライダーの個性がひしめきあっていた。初対面の女性ライダーに声をかけられたりもしたが、背が低いゆえの足着きの悩みやバイクの引き起こし問題などを聞かれることもあった。(私は高身長なので、そうした問題にあまり悩みなさそうねという意味で声をかけられたんだと思う)。イベントに行く前までは「バイク女子」という言葉に対してややマイナスなイメージもあったのだが、こうして同じ趣味をもった人たちが集うのってなんだかいいなと実感した次第。
近い将来、言葉として「バイク女子」は死語になる可能性もなきにしもあらずだが、同じ趣味を楽しむライダーとして悩みが共有できたり、あるいは仲間ができるきっかけになるのであれば「バイク女子」という表現も意味があるのだろう。
ここまでいろいろ考察してみたのだが、個人的に自分は「バイク女子」には年齢的に当てはまらないなと思い、試しにInstaで「#バイクおばちゃん」を検索してみた。投稿数はここには記さないが、同じことを考える人はやはりいるようだ。改めて、「バイク女子」ってなんだろう? 考えるほどに不思議なカルチャーだ。
Bikers Paradise 南箱根で行われたバイク女子部ミーティング2022春。どのバイクもピカピカきれいに磨かれていて、大切に乗っている様子が伺えた。バイクが好き、その気持ちはみんな一緒。
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