カワサキ最後の2ストレプリカ 1989年カワサキ「KR-1S/KR-1R」【柏 秀樹の昭和~平成 カタログ蔵出しコラム Vol.4】

  • 2023/12/14 17:05
  • [CREATOR POST]柏秀樹

●文/カタログ画像提供:[クリエイターチャンネル] 柏秀樹 ●外部リンク:柏秀樹ライディングスクール(KRS)

ライディングスクール講師、モータージャーナリストとして業界に貢献してきた柏秀樹さん、実は無数の蔵書を持つカタログマニアというもう一つの顔を持っています。昭和~平成と熱き時代のカタログを眺ていると、ついつい時間が過ぎ去っていき……。そんな“あの時代”を共有する連載です。第4回は、1989年にフルモデルチェンジしたカワサキ「KR-1S/KR-1R」です。

8kg重い、でもなぜか軽く感じた

跨った瞬間のこのバイクの車体の軽さに驚いたことがつい昨日のようです。今回ご紹介する1989年4月発売のKR−1SとKR-1Rはカタログ数値の乾燥重量が131kgと250ccスポーツモデルとしてかなり軽いのです。

とは言っても1980年代後期はレーサーレプリカ激戦時代だったから各社お互いをよく研究していて、ライバル他社と数値的に大差ないデータでしたが、この軽さの源は取り回しが軽いのか、走り出して軽いのか、あるいはその両方なのか。そこがまず知りたいところでした。

Eボックスフレーム、スーパーサーキットポテンシャルといった文字が目を引く。

実は低重心とマスの集中に非常にこだわったようで取り回しだけでなくコーナーで攻め込んだ時の軽さが両立していたのです。この軽さの論点は以下のようになります。

頼りないハンドリングによって感じる軽さではなく、前後輪とも接地感が強く前後サスのストローク感も掴みやすい中での凛とした車体の適切な剛性配分による軽さ。踏み固められた土台に立っているような安心感によるものでした。

タンデムツインの印象が強いかもしれないが──

そもそもカワサキの公道走行用水冷2ストローク2気筒の歴史は1984年のタンデムツインKR250(KR250A前期)から始まります。翌年1985年には低中速回転域を充実させるKVSS装備のKR250S(KR250A後期)を発売し、1988年には前後ラジアルタイヤを装備した並列2気筒のKR-1(KR250B)に。そして1989年にはKR250Cの型式を持つKR-1Sと、クロスミッション/強化クラッチスプリング/φ35mm大型キャブレター装備のスポーツプロダクション仕様車KR-1Rをリリースしました。

フロント17インチ/リヤ18インチのキャストホイールにはラジアルタイヤを組み合わせ、フロントブレーキはφ300mmダブルディスクに対向4ポットキャリパー、リヤブレーキにはフルフローティングディスクを採用。KR-1SはPWK28キャブレターだったが、KR-1RはPWK35を装備した。

前傾50度シリンダーを持つ初代KR-1の乾燥重量123kgよりもKR-1SとKR-1Rは8kg重量アップしています。それでも軽く感じてしまうのです。

この軽さを後押ししたのはもちろんエンジン系の熟成です。

ケースリードバルブ式エンジンはカーボンファイバー製リードバルブを採用してレスポンスの向上を図り、チャンバー形状の見直しなど多岐にわたる改善でサーキットでの性能向上を果たしながらワインディングや市街地での走りを容易にしています。

より低い回転からトルクが充実し、ハイペース走行には9000rpmを維持する走りが必要だった初代に対し、KR-1SとKR-1Rは8000rpm前後からパワーの伸びがさらに充実。熱対策としてデフリックコートという低フリクション化したピストンの採用や、排気デバイス(KIPS)の電子制御化など細部にわたるエンジン系の扱いやすさの充実が「軽さ」をより増強させたのです。

新型フレームやリザーバータンク付きリヤサスで刷新

初代KR-1はヤマハTZR250に似た車体レイアウト+3本スポークキャストホイールにパラレルツインという構成で登場しましたが、わずか1年少しの間に大きく成長して、まさに別物のKR-1SとKR-1Rへ生まれ変わっていたのでした。

KR-1S/KR-1R 主要諸元■全長2005 全幅695 全高1105 軸距1370 シート高755(各mm) 車重131kg(乾)■水冷2ストローク並列2気筒ケースリードバルブ 249cc 45ps/10000rpm 3.7kg-m/8000rpm 燃料タンク容量16L■タイヤサイズF=110/70R17 R=140/60R18 ●当時価格:KR-1S=55万9000円、KR-1R=59万9000円(※ちなみに同年ブランニューモデルとして登場したZXR250は64万9000円だった)

そもそも水冷2スト並列2気筒の歴史は、ヤマハではRZ250から、スズキではRG250Γから始まって、それぞれに独自の進化を遂げました。その後、ヤマハは後方排気型並列2気筒を経ていますが、最終的にヤマハとスズキの両社はNSRと同じ水冷1軸Vツインを選択しました。それが2ストVツインのTZR250RでありRGV250γだったのです。

エンジン幅はVツインより広くなるがエンジン前後長が最小となり、左右対称の吸排気配置ができるなどのメリットがある水冷2スト並列2気筒の歴史は、カワサキがこうした形で有終の美を飾りました。ネイキッドなどの派生モデルにも転用・発展することもありませんでした。

それからしばらくして、ホンダとヤマハとスズキはV型2気筒で、カワサキは並列2気筒という形で水冷2スト250ccレーサーレプリカの終焉を迎えたのです。

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