直線基調のZ1RからZ1000MkIIを経て国内で大人気に 1979年カワサキ「Z400FX」【柏 秀樹の昭和~平成 カタログ蔵出しコラム Vol.6】

  • 2024/03/28 16:11
  • [CREATOR POST]柏秀樹

●文/カタログ画像提供:[クリエイターチャンネル] 柏秀樹 ●外部リンク:柏秀樹ライディングスクール(KRS)

ライディングスクール講師、モータージャーナリストとして業界に貢献してきた柏秀樹さん、実は無数の蔵書を持つカタログマニアというもう一つの顔を持っています。昭和~平成と熱き時代のカタログを眺ていると、ついつい時間が過ぎ去っていき……。そんな“あの時代”を共有する連載です。第6回は、1979年に登場した“フェックス”ことカワサキ「Z400FX」です。

カワサキデザインのDNAそして走りはミドル級ザッパー

空冷DOHC4気筒400ccバイクの中でもっとも威風堂々としていたバイク、といえば1979年登場のカワサキZ400FXです。

俗に「フェックス」と呼ばれたZ400FXは当時、最先端のデザイントレンドというべき角張ったカフェレーサースタイルを導入しながら、同時に見た目の大きさが際立っていたことです。

まずはサイズ感。Z400FXは国内にも販売されたZ550FXと同時開発の姉妹車だったから、見た目ではなく実際のサイズの数値として400ccにしては大きかったのです。

Z400FX 主要諸元■全長2100 全幅785 全高1125 軸距1380 シート高─(各mm) 車重189kg(乾)■空冷4ストローク並列4気筒DOHC 399cc 43ps/9500rpm 3.5kg-m/7500rpm 燃料タンク容量15L■タイヤサイズF=3.25H-19 R=3.75H-18 ●当時価格:38万5000円

約2年後の1981年にホンダが肝入りで市場投入したCBX400Fに対して全長で+40mmの2100mm、全幅は+65mmの785mm、全高は+45mmの1125mmだったから大きく見えて当然。偶然にもホイールベースはCBX の1380mmと同じですがZ400FXは前輪19インチ装備だから、なおのこと前輪18インチのCBX400Fよりも車格がひとクラス上に見えたのです。

ホンダは同時開発のCBX550Fにフレームマウント型ハーフカウル装備のCBX550Fインテグラを国内にも投入しましたが、あくまでもCBX400Fインテグラとほぼ同じサイズ。なのでZ400FXのサイズ感はCBX550Fインテグラ比較でも優位でした。

400ccバイクを上限とする中型2輪免許所持のライダーにしてみれば少しでも大きく堂々と見えることは、まさに直球ストレートな正義でした。その頃は前輪19インチが次第に少数派になりつつあった時代で次は18インチとなり、さらにレーシーなバイクとして前輪16インチの技術的な流れが1980年代初頭に来ていても19インチの存在感は根強い強さを持っていました。

存在感といえば角張ったタンクデザインも大きくゴツい=力強い外観のアピールに大きく貢献したと言えるでしょう。ティアドロップ型タンクがたとえば繊細で女性的な美とすれば角形は剛直で男性的な筋肉美ともいえます。

しかもZ400FXは単独で角張ったスタイルをアピールしたのではないのです。ティアドロップ型燃料タンクを持つスポーツ車の傑作として世界的ベストセラーとなった1972年登場の傑作車Z1。カワサキはそのスタイルに固執し続けることなく新たな挑戦として直線基調のZ1Rを1970年代末期に市場投入。

これをスタディモデルとして、より多くの支持が得られるデザインへリファイン。その代表がZ1に勝るとも劣らぬ人気のZ1000MKⅡでした。国内仕様のZ750FXそしてZ400FXさらにZ250FTまで、デザイン的に統一感のある車種構成ながら、それぞれの排気量で独自の美を構成するところがいかにもZ1で絶対の自信を得たカワサキの秀作シリーズだったとも言えます。

さらにZ400FXの次世代Z400GPでは直線基調のタンクとしながらサイドカバー部にタンクからリアカウルに流れるような流麗な曲線を加味するZ400GPとし、これをベースに「ナメクジ」と呼ばれる空冷エンジン+ストリームラインのGPZシリーズへと進めていくのです。まさにカワサキのデザインには長い時間で育んできたストーリーがあるのです。

こちらは1980年モデルの車体色。タンクからシートカウルにかけての2本のストライプは、のちのZ400GPなども採用した。

400専用のボア・ストロークが与えられたZ400FX

カワサキほど、それぞれの時代ごとに明確なデザインメッセージを発信しながら、排気量の大小によるシリーズ化戦略を力強く継続展開してきたメーカーはありそうで実は存在しません。

もちろん外観だけでなく走りでもZ400FXは400ccクラス最速の「ザッパー」を目指して開発が進みました。

かつてカワサキは量産車世界最速のZ1(900cc)を国内販売しようとしたのですが、多発する交通事故が社会問題になっている国内バイク市場で排気量は750ccまでという販売自主規制の流れを受けて4気筒750の販売を止めるか、販売する場合はZ1のボアダウン版か、ボアとストロークの両方を最適化するかの選択を迫られたのです。そしてボアダウンだけの750Z2だけは絶対にやらない。やるなら750専用のボア・ストロークという開発エンジニアの意地が優先されたのです。

ボアダウンによるナナハン化はコスト削減には良いけれど、走りにメリハリがなくなるからです。

Z1とZ2の関係のように、カワサキはZ400FXの開発で400専用のボア・ストロークを採択しました。これにより、きっちり吹き上がる4気筒400のザッパー、Zの名に恥じない「フェックス」が生まれたのです。

Z400FXは今も大切に残すべきカワサキデザインのDNAそのもの。同時に、紛れもなくあの時代の先頭をいく走りの名車だったのです。

ヤングマシン 1979年5月号より。「走り、精悍──ジェットフィール」とある。カラーバリエーションは、ファイアクラッカーレッドのほか、メタリッククリスタルシルバー、エボニーが展開された。

参考: ヤングマシン1979年5月号は「特大号1979国産車オールカタログ」と銘打ち、特価450円だった。表紙を飾ったのはマチレスG80。

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