
ハーレーダビッドソンは、その黎明期から警察の公式車両(ポリスバイク)として全米で重用されてきたことご存じの通りです。ハイウェイパトロールを引き合いに出すまでもなく、タフで信頼性の高いハーレーは、法執行機関にとって最良の道具となっているのです。そんなアメリカ警察の歴史において、特異な進化を遂げたモデルが、今回紹介する3輪モデル「サービカー(Servi-Car)」。なかでも1949年式のポリス仕様は、戦後アメリカの都市風景を支えた質実剛健な1台。現代のトライクとは一線を画す、その冷徹なまでの実用主義とメカニズムをご紹介しましょう。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotherbys
道具としての高い完成度により、警察車両として採用された
世界恐慌下の1932年に誕生したこのモデルは、本来、バイク乗り向けではなく自動車ディーラーや整備工場の「出張メンテナンス(サービス)用車両」として開発されました。これこそ「サービカー」という名の由来。
当時は、整備士がこれでお客の元へ向かい、到着後は後部を乗用車のリアバンパーに特殊な牽引バーでドッキング。そのまま客のクルマを運転して工場へ持ち帰る、という運用を想定していました。そのため、3輪ならではの抜群の低速安定性と、工具を積載できる頑丈なトランクが与えられたのです。
この「駐停車しやすく、荷物が積め、転倒しない」という道具としての完成度に目をつけたのが警察組織でした。出張サービス用の3輪車は、瞬く間にアメリカの街角をパトロールするポリスカーへと採用されていきます。
3輪のサービカーは1932年に発売され、ほどなく警察が導入。こちらは1949年モデルであり、世界最古のハーレーディーラーが納入した記録が残っています。
治安維持のために最適化されたサービスカー
心臓部は、45立方インチ(約750cc)のサイドバルブVツインエンジン。最高出力を競うユニットではなく、何より堅牢であること、そして冷却フィンを大きく設計している点が特徴です。夏の炎天下でノロノロ運転やアイドリングを続けても、オーバーヒートしづらい設計で、働くバイクとしての機能美すら感じられるもの。
49年当時はすでに初のOHV(ナックルヘッド)が発売されていたものの、信頼性を重視して、1929年デビューの750ccサイドバルブエンジンを搭載。
フロントにはビンテージバイクでおなじみの「スプリンガーフォーク」を装備。そして興味深いのが、左右リアホイールのトレッドが42インチ(約106cm)に設定されているところかと。これは当時の一般的な乗用車と同じ幅で、未舗装路や雪道が多かった時代、先行するクルマが作った“轍(わだち)”にぴったりはめてスムーズに走破するための、秀逸なアイデアとされました。
リヤトレッドを一般的なクルマと等しく42インチにして、積雪や悪路で轍を利用した走行ができるという実にスマートなアイデアを採用。
ポリス仕様のサービカーでは、スロットルグリップが左側に装備されています。すなわち、巡査たちはこれにまたがり、速度を微調整しながら、右手に持った長いチョーク棒で駐車車両のタイヤにマーク(駐車違反の取り締まり)をつけて回ったためです。あるいは、右手で素早く拳銃を抜くためとも言われており、それにともなってハンドシフトのレバーも右側に移設されました。また、サドル後方の大型スチールボックスには、違反切符や無線機を収納。フロントの赤色灯と機械式サイレンを含め、すべてが都市の治安維持という目的のために最適化されたガジェットです。
今なお、ビンテージ市場で高値を維持
1973年まで生産されたサービカーは、今なおビンテージ市場で高い価値を維持している模様。現代の最新バイクのような絶対的なスピードも、バンク角もありません。が、手動の進角レバーを調整し、キックペダルを踏み抜いて目覚めさせ、ハンドシフトをガチャンと入れて走り出す――その一連の儀式と、サイドバルブが奏でるのどかな鼓動には、現代の乗り物が失った「濃厚な機械との対話」が凝縮されているはず。
警察車両とはいえ、ディテールはハーレーダビッドソンらしいデコレーションが施され、独特な雰囲気を醸しています。
こうしたアナクロな魅力、そして警察車両として実際に使い込まれたというポイントから、オークションでは5万4000ドル(約830万円)という高値で落札されています。効率や速さの追求から敢えて距離を置いたとき、この1949年式ポリスサービカーが持つ剥き出しの機能美は、メカニズムの本質を私たちに教えてくれるのではないでしょうか。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
初期型ゼファーの第一印象は「遅い!」だった 1989年に発売されたカワサキ・ゼファーは、レーサーレプリカ全盛期にデビューし、その後の「ネイキッドバイクブーム」の立役者となった一台です。 ちなみに「ゼフ[…]
Z1から11年、新基準を打ち立てた カワサキが水冷6気筒のZ1300を発売したのは’79年だったが、この頃からすでにZ1系に代わる次世代フラッグシップが模索されていた。Zに改良を加えて世代交代を進めて[…]
スペックで勝負する時代の終焉 “スペックの高さこそがスポーツバイクの存在意義”と、多くのライダーが疑わなかったレーサーレプリカブーム。その全盛期ともいえる1989年に、カワサキが発表した「ゼファー」は[…]
サーキットも峠でも“勝ち”に行く! ’80年代初頭からの空前のバイクブームとシンクロするように、400cc4気筒が一気に出揃った。そしてその性能を競うべく、TT-F3やSS400といったレースが盛り上[…]
ズバ抜けた速さとピーキーさにシビレタ ’70年代、国内における250㏄クラスの人気は低迷していた。車検がないためコスト的に有利だが、当時は車体設計が400㏄と共通化されるのが普通で、多くのモデルに35[…]
最新の関連記事(ハーレーダビッドソン)
Where West Coast Style Meets Harley Soul. カスタム車両の販売とFXR/ダイナなどのクラブスタイル&フリスコスタイルを最も得意とする同店らしく、その空間[…]
VIPパスがもたらす上質なひととき グランドスタンド頂上にあるホスピタリティエリアへ足を踏み入れると、外の喧騒とは一線を画す、洗練された大人のための空間。眼下にサーキットのストレートやピットレーンを一[…]
KLOCK WERKS|機能とデザインを両立したFlareシリーズ ツーリングモデルやクラブスタイルで人気を集めるKlock Werks(クロックワークス)の“Flare”シリーズに、ハンドガードが全[…]
最新ハーレーにカスタム&グルメも! ブルースカイミーティングの魅力は、ハーレーを中心に、モーターサイクルやライフスタイル、地域ならではの食やカルチャーまで幅広く楽しめること。ライダーはもちろん、家族連[…]
ハーレーが仕掛ける異色の世界選手権 ハーレーダビッドソンは2024年から3年連続で、MotoGP日本グランプリに出展している。世界最高峰のロードレースに、なぜハーレーが? そもそもMotoGPのレース[…]
人気記事ランキング(全体)
水平対向6気筒とダブルウィッシュボーンサスがもたらす独創の走り ホンダのプレミアムツアラーとして君臨するゴールドウイングの2027年モデルが北米で発表された。日本国内で展開されるモデル同様に低重心設計[…]
ZGMF-X10Aを再現!フリーダムガンダムのグラフィックワーク 新大洲ホンダの原付二種スクーターラインナップに加わった「NS125FX フリーダムガンダムコラボ限定版」は、劇中機体の配色とメカニカル[…]
Z1から11年、新基準を打ち立てた カワサキが水冷6気筒のZ1300を発売したのは’79年だったが、この頃からすでにZ1系に代わる次世代フラッグシップが模索されていた。Zに改良を加えて世代交代を進めて[…]
机上航続距離 354.57㎞にどこまで迫れるか !? ワンタンクチャレンジのルール!●完全ガス欠するまでツーリング!●燃費走行&アイドリングストップなし!●一般的なツーリングペースで検証!●マシンのキ[…]
エントリーライダーも意識した軽量スリムなシングルスポーツ インドで先行発売されたモデルに仕様変更を加え、ʼ20年4月に新発売されたのが、ネイキッドのジクサー250と基本構造を共有するフルカウルスポーツ[…]
最新の投稿記事(全体)
直線基調のデザインが映える王道的グラフィックモデル 『Z-9 LEAN ANGLE』は、ホワイトをベースとしてグリーンまたはブルーをメインカラー、レッドをアクセントのサブカラーとして配したグラフィック[…]
デザインだけじゃない!極上の打感と耐フェード性を生むモノ創り 「デザインが全てであり、それに見合った品質を実現する」──。シンプルかつ骨太な理念を掲げるモートーンカスタムズ。 今回登場したブレーキディ[…]
初期型ゼファーの第一印象は「遅い!」だった 1989年に発売されたカワサキ・ゼファーは、レーサーレプリカ全盛期にデビューし、その後の「ネイキッドバイクブーム」の立役者となった一台です。 ちなみに「ゼフ[…]
中部地方初の拠点「名古屋BASE」が庄内通にオープン 地下鉄鶴舞線の庄内通駅エレベーター口から徒歩5分というアクセスしやすい場所に、ビークルファンの新拠点「名古屋BASE」が開設された。関東や関西、九[…]
ハンドルブレースは何のためにある? ハンドルブレースとは、バーハンドルの左右をつなぐように取り付けるパーツである。もともとはハンドルの剛性を高める目的で使われてきたが、最近ではスマートフォンホルダーな[…]
- 1
- 2












































