![「そんなことってあるんだ…」解体予定の車両を極秘保管。数十年後、オークションの場に姿を現したモンスターモデル。激しい争奪戦が展開された[アウディ 5000CS]](https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2026/08/1986-Audi-5000-CS-Quattro_A.jpg)
1980年代半ば、欧州のラリー界を席巻していたアウディ・クワトロ。しかし、広大な北米市場において、その「4WD=安全だが重く、退屈な実用システム」という先入観を打破するのは容易ではなかった模様。そこで、アウディの首脳陣は「アメリカ人が大好きな高速オーバルで、4WDの絶対的な優位性を見せつける」というアイデアを実行したのでした。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotherbys
直列5気筒、25バルブの咆哮と650馬力の衝撃
舞台に選ばれたのは、NASCARの聖地であり、世界一危険な超高速バンクを持つタラデガ・スーパースピードウェイ。そして、この過酷なプロジェクトのために用意された実験車両こそが、「アウディ5000 CS クワトロ スピードレコード プロトタイプ」でした。
一見すると当時のおとなしい高級セダンですが、中身はインゴルシュタットの技術者たちの執念がみっちり詰まったモンスターマシン。心臓部は、当時のアウディの代名詞とも言える2.2リッター直列5気筒ターボエンジンを縦置き搭載。
しかし、このプロトタイプには市販車と全く異なる「1気筒あたり5バルブ(合計25バルブ)」という最先端のシリンダーヘッドを採用。さらに過給圧は、当時の常識を打ち破る2.0バール。最高出力は実に650馬力にまで向上したといいます。テスト走行でクワトロシステムが働いているにもかかわらず、4本のタイヤすべてが猛然と白煙を上げたという逸話も大いに頷けます。 とはいえ、外観はNASCARの厳格なレギュレーションに即したもので、車高こそ低められたものの、ノーマルのシルエットをキープ。むしろ、それが本物の迫力を生み出しているといえるのではないでしょうか。
伝説の「黒い刺客」、タラデガを揺るがす
1986年3月24日、テスト走行のステアリングを託されたのは、インディ500で3度の栄冠に輝いたボビー・アンサー。超高速域でのマシンの挙動を熟知する彼にとっても、4WDのセダンで300km/hオーバーの世界へ飛び込むのは未知の挑戦だったといいます。
ノーマル然としたインパネながら、どういうわけかブーストメーターは左右にふたつ追加されています。
タラデガの悪名高き巨大なバンクに車体が吸い込まれていくと、直5エンジンが7200rpmオーバーの鋭い咆哮をあげたとか。また、ストレートでの最高速度は時速350kmを突破して、居合わせたエンジニアたちは安堵の息。そして、1周2.6マイルのオーバルコースをわずか46秒で駆け抜けると、記録された平均周回速度は時速332km。当時の4WD世界最高速記録を含む、合計16個の国際速度記録を瞬時に塗り替えた瞬間でした。
走行後、マシンを降りたボビー・アンサーは、「時速200マイル(約322km/h)を超えても、この5000 CSはまるで路面に瞬間接着剤で貼り付いているかのように安定していたよ。信じられないトラクションだ」と、興奮を隠せない様子で語ったとされています。このタラデガでの成功に確信を得たアンサーは、同年、アウディと共に「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」へも挑戦し、そこでも歴史的な最速記録を樹立しています。
歴史の闇から、再び光の当たる場所へ
この歴史的快挙を成し遂げたプロトタイプ(シャシーNo. WAUZZZ44ZGA000023)は、通常であればお役御免となり解体される運命でした。が、アウディのファクトリーを訪れた熱狂的なドイツ人コレクターとローレンツ技師の深い友情により、数十年の間、極秘保管されることになりました。
センターロックのBBS製ホイール。記録に挑戦した際は、空力性能を考慮してセンタープレートが用いられたはず。
その後、2025年になってオークションハウスの手によって市場に姿を現すと、世界中のアウディ・マニアの間で激しい争奪戦が勃発。さらにRM Sotheby’sのモントレー・オークションでも、リザーブ(最低落札価格)なしの目玉出品として大きな注目を集めることに。 控えめなセダンの皮を被りながら、アメリカのモータースポーツ史に大きな爪痕を残したアウディ5000 CS。それは、技術者たちの執念と、クワトロというテクノロジーが起こした、1980年代最高の「高速革命」にほかなりません。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(自動車/クルマ)
三輪ソーラーEV「スリールオータ」 スリールオータは、電気だけで動く極めて実用的な小型三輪モビリティだ。ドアがない仕様は「側車付き軽二輪車登録」、ハードドアを装備した仕様は「ミニカー登録」と、ユーザー[…]
「稲妻の閃光」と偉大なる総帥へのオマージュ カウンタックから連綿と続くウェッジシェイプは、誰がどう見てもランボルギーニそのもの。社内のスタイリスト、ミティア・ポルケルトによると「もちろん、ガンディーニ[…]
7.0リッターV8ツインターボ×軽量カーボンボディ まずは、750馬力を絞り出すエンジンこそサリーンの真骨頂かと。フォード製の巨大な7.0リッターV8エンジンに、ギャレット製のターボをツイン装備。しか[…]
打倒BMWを掲げ、レース仕様の190Eの開発がスタート 1980年代、ハコ車のレースでヨーロッパを席巻していたのはM3を投入したBMWでした。2.3リッターの直4から2.5リッターへと進化させるなど「[…]
アイコンの影にあった、レーシングカーゆえの苦悩 そもそも、なぜクーペ版はあの特徴的なガルウィングドアを採用しなければならなかったのか。それは、軽量かつ強固な「スペースフレーム構造」という、当時の最先端[…]
人気記事ランキング(全体)
三輪ソーラーEV「スリールオータ」 スリールオータは、電気だけで動く極めて実用的な小型三輪モビリティだ。ドアがない仕様は「側車付き軽二輪車登録」、ハードドアを装備した仕様は「ミニカー登録」と、ユーザー[…]
大人気バイクが8年目のフルチェンジ。ルックスからは解らない進化とは ──2017年の東京モーターショーで世界初公開されたZ900RS。名車Z1をイメージさせるティーザー動画なども相まって、登場前から鳴[…]
アドベンチャースクーターというジャンルを確立したホンダ「X-ADV」 平日の通勤ラッシュを快適にすり抜け、週末はそのまま林道ダートへと滑り込む。そんな贅沢な夢をこれ以上ない形で具現化したのが、2017[…]
樹脂カバーとは一線を画すスチール製12Lタンクの実用性 1970年代から多くのレジャーバイクファンに愛されながらも、絶版して久しいホンダの名ファンバイク「ゴリラ」。その独特な塊感と愛らしい佇まいを、現[…]
フェラーリF1直系の超軽量カーボン構造。先入観は今すぐ捨てるべし このマシンを開発したのは、元フェラーリF1のエンジニア、ヴィンセンツォ・マッティア。2017年にVINS社を立ち上げつつ、すでに201[…]
最新の投稿記事(全体)
空冷4気筒の限界に挑戦 CB1000Rを大別すると前期/後期の2種で、もう少し細かく分類すると、RB1/RB/RC/RDの4種。ただし、各モデルのおもな相違点は足まわりと外装類で、フレームとパワーユニ[…]
鉄は錆で崩れゆくのが宿命か 古いバイクの部品、そのほとんどは鉄でできています。であるがゆえに錆びやすく、そしてレストアともなると出くわすのがこれ。 サビが進行すると腐食で穴が開いてしまったり(↑)極め[…]
直列5気筒、25バルブの咆哮と650馬力の衝撃 舞台に選ばれたのは、NASCARの聖地であり、世界一危険な超高速バンクを持つタラデガ・スーパースピードウェイ。そして、この過酷なプロジェクトのために用意[…]
スポーツ向きのハンドル剛性 ビキニカウルと段付きのシングル風シートを装備した正統派カフェレーサースタイルのZ900RS CAFE。SEやBBのハンドルがナロー化してライダーに近づいた分、ワイドで低いC[…]
SUGOMI溢れるスタイルとジェントルな走りの両立 国内では2022年モデルを最後に姿を消したスーパーネイキッドのZ1000が、排気量を拡大したZ1100として復活。先の欧州発売からJMS2025での[…]
- 1
- 2

![1988年製のアウディ5000 CS クワトロ スピードレコード プロトタイプを斜め前から撮影した写真|「そんなことってあるんだ…」解体予定の車両を極秘保管。数十年後、オークションの場に姿を現したモンスターモデル。激しい争奪戦が展開された[アウディ 5000CS]](https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2026/08/1986-Audi-5000-CS-Quattro_1-768x479.jpg?v=1787253575)
![1988年製のアウディ5000 CS クワトロ スピードレコード プロトタイプを斜め後ろから撮影した写真|「そんなことってあるんだ…」解体予定の車両を極秘保管。数十年後、オークションの場に姿を現したモンスターモデル。激しい争奪戦が展開された[アウディ 5000CS]](https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2026/08/1986-Audi-5000-CS-Quattro_2-768x458.jpg?v=1787253668)
![1988年製のアウディ5000 CS クワトロ スピードレコード プロトタイプのエンジンルーム|「そんなことってあるんだ…」解体予定の車両を極秘保管。数十年後、オークションの場に姿を現したモンスターモデル。激しい争奪戦が展開された[アウディ 5000CS]](https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2026/08/1986-Audi-5000-CS-Quattro_3-768x512.jpg?v=1787253968)
![1988年製のアウディ5000 CS クワトロ スピードレコード プロトタイプに搭載された、KKK製の過給器|「そんなことってあるんだ…」解体予定の車両を極秘保管。数十年後、オークションの場に姿を現したモンスターモデル。激しい争奪戦が展開された[アウディ 5000CS]](https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2026/08/1986-Audi-5000-CS-Quattro_4-768x512.jpg?v=1787254054)
![1988年製のアウディ5000 CS クワトロ スピードレコード プロトタイプのコックピット|「そんなことってあるんだ…」解体予定の車両を極秘保管。数十年後、オークションの場に姿を現したモンスターモデル。激しい争奪戦が展開された[アウディ 5000CS]](https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2026/08/1986-Audi-5000-CS-Quattro_5-768x512.jpg?v=1787254281)
![1988年製のアウディ5000 CS クワトロ スピードレコード プロトタイプに搭載されたデフロック調整ダイヤル|「そんなことってあるんだ…」解体予定の車両を極秘保管。数十年後、オークションの場に姿を現したモンスターモデル。激しい争奪戦が展開された[アウディ 5000CS]](https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2026/08/1986-Audi-5000-CS-Quattro_6-768x512.jpg?v=1787254375)
![1988年製のアウディ5000 CS クワトロ スピードレコード プロトタイプの車内、ロールゲージ|「そんなことってあるんだ…」解体予定の車両を極秘保管。数十年後、オークションの場に姿を現したモンスターモデル。激しい争奪戦が展開された[アウディ 5000CS]](https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2026/08/1986-Audi-5000-CS-Quattro_7-768x512.jpg?v=1787254379)
![1988年製のアウディ5000 CS クワトロ スピードレコード プロトタイプの左後輪|「そんなことってあるんだ…」解体予定の車両を極秘保管。数十年後、オークションの場に姿を現したモンスターモデル。激しい争奪戦が展開された[アウディ 5000CS]](https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2026/08/1986-Audi-5000-CS-Quattro_8-768x512.jpg?v=1787254713)
![1988年製のアウディ5000 CS クワトロ スピードレコード プロトタイプのエンブレム|「そんなことってあるんだ…」解体予定の車両を極秘保管。数十年後、オークションの場に姿を現したモンスターモデル。激しい争奪戦が展開された[アウディ 5000CS]](https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2026/08/1986-Audi-5000-CS-Quattro-Speed-Record-Prototype_1463803-768x512.jpg?v=1787254807)
![1988年製のアウディ5000 CS クワトロ スピードレコード プロトタイプの右側面|「そんなことってあるんだ…」解体予定の車両を極秘保管。数十年後、オークションの場に姿を現したモンスターモデル。激しい争奪戦が展開された[アウディ 5000CS]](https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2026/08/1986-Audi-5000-CS-Quattro-Speed-Record-Prototype_1463802-768x487.jpg?v=1787254821)
![1988年製のアウディ5000 CS クワトロ スピードレコード プロトタイプのフロントマスク|「そんなことってあるんだ…」解体予定の車両を極秘保管。数十年後、オークションの場に姿を現したモンスターモデル。激しい争奪戦が展開された[アウディ 5000CS]](https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2026/08/1986-Audi-5000-CS-Quattro-Speed-Record-Prototype_1463804-768x514.jpg?v=1787254823)





























