
空冷直列4気筒。その言葉の響きだけで胸が熱くなるバイク乗りは多いはずだ。平成の終わりにかけて姿を消していった空冷エンジンの、カワサキにおける最後の血脈が「ゼファーχファイナルエディション」だ。2009年に発売されたこのモデルは、伝説の名車「Z1」を彷彿とさせる火の玉カラーを身に纏い、有終の美を飾った。この記事では、今なお色褪せない魅力を持つこの名車を振り返る。
●文:ヤングマシン編集部 ●写真:坂上修造 ●外部リンク:カワサキ
最新バイクにはない「味」と「所有感」。なぜ今、空冷直4を語るのか
現代のバイクは確かに高性能で壊れない。水冷エンジンは夏場の渋滞でも安心だし、電子制御のおかげで雨の日だって不安はほぼなく走れる。だが、ふとガレージに置かれた愛車を見たとき「どこか物足りない」と感じることはないだろうか。効率を突き詰めた結果、失われてしまった機械としての温もりや、所有する悦び。それらを満たしてくれるのが、空冷エンジンを搭載した名車たちだ。
そのひとつであり、カワサキが最後に放った空冷4バルブ直列4気筒が「ゼファーχファイナルエディション」だ。1996年にデビューしたゼファーχの、正真正銘の最終形態。平成19年の排ガス規制により、空冷4気筒ユニットはその歴史に幕を下ろすことになった。
【KAWASAKI ZEPHYR χ FINAL EDITION】’07年のゼファー750/1100に続いて、’09年に発売されたゼファーχのファイナルエディション。750/1100と同じ火の玉カラーで有終の美を飾った。●当時価格:65万5000円 ●発売日:’09年4月10日
息を呑むほど美しい。熟練工が手掛けた伝説の「火の玉カラー」
このバイク最大の魅力は、なんといってもその外装にある。初期型Z1のイメージを取り込んだ「キャンディダイヤモンドブラウン×キャンディダイヤモンドオレンジ」、通称”火の玉カラー”だ。
最終型に採用される専用色は、茶をベースにオレンジのグラフィックをあしらったいわゆる”火の玉カラー”1色のみ。初期型Z1のイメージ取り込んだ象徴的なカラーと言える。なお’07年型の火の玉は黒×赤でこれとは別物。
【KAWASAKI 900 SUPER FOUR Z1】タイヤまでオリジナルで逆輸入された初期型Z1。こちらの正式な色名はキャンディトーンブラウンと言い、’73年型のみこの曲線基調のグラフィックを採用。
特筆すべきは、その製造工程の凄まじさ。転写デカールでお茶を濁すようなことは一切していない。ゼファー750/1100のファイナルエディションと同じく、熟練の職人が手作業で4度も塗料を重ね上げているのだ。
機会があれば、タンクの表面を指でスーッと撫でてみてほしい。色の境目に、あの嫌な「段差」が全く存在しないことに驚かされるはずだ。さらにパール、キャンディ、UVクリア塗装が施され、太陽の下に引っ張り出せば、ため息が出るほど深いツヤを放つ。この圧倒的な美しさを前にすれば、休日の洗車の時間すら極上の喜びに変わるだろう。
タンクの塗装は職人の手作業により4度塗り重ね、色の境目に段差のない仕上がりを実現。さらにパール、キャンディ、UVクリア塗装を施し対候性を高めている。シート表皮は、STDはメッシュ調だがファイナルエディションではプレーンなものに改められた。パターン自体は同じだ。
’07年発売のゼファー1100/750最終型のカタログで、色名はキャンディダイヤモンドブラウン×キャンディダイヤモンドオレンジ。Z1のタンクと同じ手法を採り、転写ではなく塗りで仕上げられた燃料タンクが自慢だ。
たった2万円で手に入った究極のプレミアム感
外装の塗装だけでも相当なコストがかかっているはずだが、カワサキのこだわりはそれだけにとどまらない。
シートに目を向ければ、スタンダードモデルのメッシュ調とは一線を画す、上質でプレーンな表皮に変更されている。跨った瞬間、しっとりと馴染む座り心地がライダーを優しく包み込む。さらに、誇らしげに輝くゴールドエンブレムが特別感を限界まで引き上げているのだ。
これだけの専用装備と職人技が注ぎ込まれていながら、当時の価格はスタンダードモデルからわずか2万円高の65万5000円。現代の感覚からすれば、あまりにも安い。まさに「買わなきゃ損」と言えるほどの、圧倒的にお得なパッケージだった。
テールカウルを備えたスタイリングデザインは’70年代以降にカワサキがマッハシリーズで先鞭をつけ、現代のネイキッドへと連なる。高級感のあるメタリックのツートーンカラーと合わせ、Z1の復刻版を印象付ける。
丸目ヘッドライトに砲弾型メーターもネイキッドのお手本のようなデザインで、Z1からの伝統様式と言える。テールランプは台形だが、ウインカーやメーターなどは丸型基調でZ1を思わせる。
受け継がれた38年の歴史。永遠に色褪せない空冷Zの魂
丸目ヘッドライトに砲弾型メーター、そしてマッハシリーズから受け継がれたテールカウル。どこから見ても「バイクらしいバイク」の王道を行くスタイリングだ。
1972年秋にデリバリーが開始されたZ1から始まり、1979年のZ400FX、そしてゼファーへと受け継がれてきたカワサキ空冷直4の系譜。足掛け38年にも及ぶ長い歴史の重みが、この1台に凝縮されている。二度と新車で手に入れることはできないからこそ、ゼファーχファイナルエディションの輝きは、時が経つほどに増していくのだ。
KAWASAKI ZEPHYR χ FINAL EDITION SPECS
| 項目 | スペック詳細 |
|---|---|
| 正式製品名 | KAWASAKI ZEPHYR χ FINAL EDITION |
| 発売日 | 2009年4月10日 |
| 当時価格 | 65万5000円 |
| エンジン | 空冷4バルブ直列4気筒 |
| 専用カラー | キャンディダイヤモンドブラウン×キャンディダイヤモンドオレンジ |
| 特別装備 | 熟練工による4度塗り塗装(段差なし)、プレーンシート表皮、ゴールドエンブレム |
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