
交通安全条例を制定し2015年に三ない運動を廃止。アクションプログラムを策定して、全年代への交通安全教育に取り組んできた群馬県。高校生へのバイク免許取得も届け出制で認められ、免許取得生徒に向けた二輪車安全運転者講習会も県教育委員会により継続開催されている。前編では、その背景と三ない運動撤廃に至る経緯を振り返り、現状についてもお伝えする。
●文と写真:田中淳麿(ヤングマシン編集部)
【背景】三ない運動が交通事故の要因になっていた!?
二輪車安全運転者講習会が開催されている群馬県総合交通センター(運転免許試験場)の運転免許二輪車試験コース。
公共交通が不便な地域が多いこともあって1世帯あたり約1.5台以上のマイカーを保有し、またスバルの工場も点在することから自他ともに認める“車王国”というイメージが強い群馬県。
こうした背景もあって、当時の群馬県は、人口10万人あたりの人身事故発生件数、全自転車事故に占める高校生の割合、初心運転者(免許取得後1年間)の事故率が全国ワースト常連となってしまっていた。
「このままではいけない」と改善に動いたのが当時県議会議員だった須藤昭男さん(現みどり市長)。交通安全対策特別委員会(2014年3月)を立ち上げて、県の交通政策課、群馬県警本部と共にこれらの事故要因について調査・分析し「要因として三ない運動がかなりのウェイトを占めている」との共通見解を得た。
「第5回 BIKE LOVE FORUM(BLF)in群馬・前橋」(2017年9月・前橋テルサ)で群馬県交通安全条例に向けた取り組みについて講演する須藤昭男さん。
当時の群馬県では三ない運動が徹底して実施されていたが、これが交通安全教育から結果的に高校生を遠ざけ、運転マナーの悪化や交通事故発生の要因となっていた。
須藤議員は条例(県による自主法)の策定が必要と考え、委員会と共に条例制定に向けて活動していく。
2. 【手法】群馬県交通安全条例を制定し三ない運動を撤廃
群馬県議会のある群馬県庁舎(前橋市)と周辺の街並み
その後、交通安全対策特別委員会において質疑や勉強会、関係団体との意見交換会、交通事故分析専門家による講演会などが行われ、条例案に関する協議を重ねていった。
当事者へのアンケート調査も行われ、「免許が必要」な家庭が一定数あるなかで、生徒や保護者の25.4%が「現状を見直すべき」という回答を寄せている。
データやアンケートによる裏付けも得たことで、交通安全対策特別委員会は県議会で「群馬県交通安全条例」を発議し、全会一致で可決された(2014年12月22日施行)。
群馬県交通安全条例の制定を周知するチラシ
群馬県交通安全条例は、高校生だけでなく、幼児から高齢者まで幅広い年齢層を対象に交通安全教育を実施し、生涯にわたって車社会で生きる力を育成していくことを目的としており、前文には以下の文章が明記されている。
—-<前文より抜粋>—–
群馬県では、これまで高校生に対して「三ない運動」を推奨してきました。しかしながら、一方では自転車事故の多さやマナーの悪化が問題となっております。また、四輪の普通免許取得後一年以内の事故発生率は、全国的にも高い水準で推移しております。
交通安全は、県民一人一人が真剣に取り組むべき重要課題であります。子どもから高齢者まで幅広い年齢層を対象に、交通安全教育を実施していくことが必要であり、交通事故の被害者にも加害者にもならないよう努め、生涯にわたって「車社会」で生きる力を育成していくことが大切です。
ここに、県民の安心安全と幸せを願い、人命尊重の理念のもとに悲惨な交通事故を撲滅するために「交通安全県・群馬」の確立を目指し、群馬県交通安全条例を制定します。
—–<抜粋ここまで>—–
3. 【手法】アクション・プログラムで計画的に推進
二輪車安全運転者講習会で群馬県警本部から座学講義を受ける生徒と担当教員。
これにより三ない運動は撤廃され、以降は「群馬県交通安全教育アクション・プログラム」(2016年12月公表)という行動計画のもと交通安全教育の実現と充実に向かうことになる。
アクション・プログラムには年代別目標と主な施策が明記され、高校生でいうと、自転車とバイクの運転者として安全運転のための技能と知識を身につけ、交通社会の一員として責任を持って行動できる社会人の育成が目標とされた。また交通事故発生件数の具体的な削減数値目標なども盛り込まれていた。
<主な施策>
アクション・プログラムに基づいた高校生への交通安全教育は主にホームルームや特別活動(生徒会活動や学校行事等)で実施されている。
〇警察・交通安全協会による交通安全教室の開催
〇高校生自転車安全運転啓発チラシの作成・配付
〇自転車検定(ミニテスト)の実施
〇免許取得者対象の二輪車マナーアップ講習会(各地域で開催)の実施
〇教員向けの交通安全指導者養成講習会(群馬県総合交通センターで開催)
太字部の講習会は、関係機関と連携して行われ、現在の「公立高等学校・中等教育学校(後期)二輪車安全運転者講習会」(内容は後編に掲載)へと引き継がれている。
二輪車安全運転者講習会で配布されていた一般社団法人日本二輪車普及安全協会による小冊子「グッドライダーになるために バイクの安全な乗り方」。本冊子は同協会のホームページからPDFで入手可能だ。
また、アクション・プログラムは、群馬県交通安全条例の一部改正と第11次群馬県交通安全計画の策定に伴って「第2次 群馬県交通安全教育アクション・プログラム」(2021年3月)として見直し、リニューアルされている。
これは(第1次)アクション・プログラム(2015~2020年度)の実施下において、中学生の自転車事故発生件数では目標を達成したが高校生の自転車事故発生件数については達成できず、通学時1万人あたりの自転車事故件数が6年連続で全国ワースト1位となるといった課題も踏まえてのもの。
第2次アクション・プログラム(2021~2025年度)の高校生を対象として施策では、ヘルメット着用の定着化など自転車の安全運転・意識に関して新規施策が盛り込まれ、二輪車については継続的な内容となっている。
4. 【現状】講習会参加者数と事故件数
三ない運動から“乗せて教える”交通安全教育へと転換を図った群馬県を数字で振り返ってみたい。講習会の参加者人数と事故報告件数から見ても、三ない運動を廃止したからといって高校生の免許取得者やバイク事故が急に増えるといったことはなかった。
<講習会参加者の人数と推移>
講習会参加者の人数と推移 ※群馬県教育委員会提供
なお、2019年度、2020年度のコロナ禍は開催が見送られている。また2024年度はインフルエンザの影響により当日欠席があった。講習会には参加校から1名の職員(教員)が参加しているので、職員数と校数は同数となっている。
<事故報告の件数と推移>
高校生の二輪車事故報告の件数と推移 ※群馬県教育委員会提供
2025年度は1学期末現在の数字となっている。事故件数は各校からの報告により集計されているため、群馬県警察本部による集計とは差異がある。この差異は、学校から県教育委員会に報告される数字が事故による欠席や入院といった場合に限られるためであり、他の地方公共団体でも同様であることを付け加えておく。
【私感】「必要となれば免許を取れる」環境の大切さ
群馬県二輪車安全運転推進委員会の二輪車安全運転指導員から実技講習の総評を聞く参加生徒と教員。
車王国の群馬県では、長年、普通免許の保有率が全国トップクラスで推移しており、社会に出ると同時に「移動は車で」という人が多い。今回取材した令和7年度の二輪車安全運転者講習会でも「通学で必要だから乗っている」という話を複数の生徒から聞いた。
講習会でちらほら見受けられた、フルフェイスヘルメットのグラフィックモデルをかぶっているような生徒は普段からスポーツ走行やツーリングを楽しんでいるのかもしれないが、大半の生徒はそうではない。
そもそも交通安全条例では、同時に公共交通の利用推進もうたわれており、条例ができて講習会が受けられるから積極的にバイクに乗りましょうというものでもない。
通いたい学校までの通学事情や家庭の諸事情などにより「バイク通学をしたい、せざるを得ない」、そういった時に、三ない運動が校則に残ったままだと、生徒や保護者のQOL(生活の質)は望むべくもないのだ。
「必要となれば免許を取れる」環境の大切さ、そして群馬県のように、県をあげてそうした生徒の安全運転を大人がサポートする体制を維持していくことが、移動課題が大きくなるなかで今後ますます重要になるだろう。
後編では、二輪車安全運転者講習会の模様をレポートする。
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