
元MotoGPライダーの青木宣篤さんがお届けするマニアックなレース記事が上毛グランプリ新聞。1997年にGP500でルーキーイヤーながらランキング3位に入ったほか、プロトンKRやスズキでモトGPマシンの開発ライダーとして長年にわたって知見を蓄えてきたのがノブ青木こと青木宣篤さんだ。WEBヤングマシンで監修を務める「上毛GP新聞」。第37回は、マレーシア・セパンサーキットで行われたMotoGP公式テストを現地からのナマ情報たっぷりでお届け!
●監修:青木宣篤 ●まとめ:高橋剛 ●写真:Michelin
派手なタイムからは見えないファクトリーチームの“本気”
今年も行ってまいりました、マレーシア公式テスト! 現地ナマ情報第1弾のしょっぱなからナンですが、今年もマルク・マルケス(ドゥカティ・レノボ・チーム)が強そう……。3日間の総合結果では4番手だったが、粛々と、淡々と、プログラムをこなしていく様子は非常に落ち着き払っていて、かえって凄味があった。
彼と、チームメイトのフランチェスコ・バニャイアが走らせていたドゥカティ・デスモスディチは、今の時点で’26年型と呼んでいいのか分からない。この後のタイでのテストを含めて、仕様が決まっていくはずだ。
ただ、当然のように空力パーツはアップデートされていて、目立ったところではサイドカウルがアプリリアと似た形状になっていた。コーナリング中にバンクしてイン側のサイドカウルが路面に近付いた時、路面に吸い付くような効果を発揮させることが狙いだろう。
四輪レーシングマシンでは、よく「グランドエフェクト」という言葉が使われるが、まさにアレ。路面とサイドカウルの隙間を狭くすることでベンチュリー効果が発生し、空気の流れが速くなり、結果的にダウンフォースが生まれるような形状にしている、というわけだ。
もうひとつ、ライドハイトデバイスも細かなチューニングをしているようだった。ライドハイトデバイスは、ざっくり言えば車高を下げるシステムだが、車高を戻す時の速さを調整していたようだ。
ドゥカティのファクトリーチームであるドゥカティ・レボノ・チームのマルクとバニャイアは、コツコツと走っていた。これがまた、底知れぬ怖さを感じるコツコツ度合いだ。派手なことをせず、様子を見ながら地道に実直に走り込む姿には、ファクトリーチームの本気が伺える。
昨年の’25年型は合うコース・合わないコースがハッキリと分かれるピーキーな特性だった。そしてマレーシア公式テストが行われたセパンサーキットは、本来なら「合うコース」のはずだ。にも関わらず、コツコツと走り込むふたり。得手不得手の波をなくすために、セパンではあえて「合わない何か」を探していたのだろう。これは怖い……。
兄マルケスとバニャイアのライディングを様々なアングルから!
リラックスして乗れている弟マルケス
マルクの弟であり、同じくドゥカティのアレックス・マルケス(BK8 Gresini Racing MotoGP)も、ちょっと怖い(笑)。3日間総合でトップタイムを出したアレックスだが、妙に脱力していたのだ。走りを見ていて、「うん、肩の力が抜けてて、いいネ!(でもそんなに速くはなさそう)」と思っていたら、しっかりタイムが出ている。速そうに見えないのにタイムが出ているのは、本当にリラックスして乗れていることの証だが、レーシングマシンでコレはかなり難しい。
A.マルケス
皆さん公道でバイクに乗る時は「リラックスして」と言われることも多いだろう。実際、ある程度の真実でもある。ところが300km/h以上の超高速でカッ飛ぶMotoGPともなると、話はだいぶ異なる。
前回のコラムに書いたが、緊張や恐怖を強いられる上に脳ミソはフル回転で、なおかつ加減速Gや遠心力に打ち勝ちながら細かい操作を強いられるのだから、とてもではないがリラックスなどしていられないのだ。
もちろん、ガチガチに強ばっているだけではダメだ。少し話は逸れるが、オランダのジャーナリストと話していたらライダーの体の話題になった。「MotoGPでもトップ5のライダーたちの筋肉は、しなやかで柔らかいんだ」と言っていたが、確かにその通りだとワタシも思う。
ライディングは想像以上にムズカシイ。力を入れるべき時と場所ではガッツリと力を入れながらも、力を抜くべき時と場所では抜かなければ、マシン本来の旋回力を引き出せない。だから最近のMotoGPライダーの体は、そんなにムッキムキではないし、トップライダーほど柔らかい筋肉をまとっている。今のMotoGPは、意外と繊細に乗らなければならないことがよく分かる。
そんな中でも、アレックスのリラックス度合いはズバ抜けていた。力の入れ所と抜き所のバランスが素晴らしく、理想的な状態でライディングできている。しかもトップタイムという成果につながっているのだから、言うことはない。
落ち着き払っていたマルク。リラックスしていたアレックス。ワタシの見立てではやはりまだマルクに分があるように感じているが、今年はマルケス兄弟によるチャンピオン争いが繰り広げられそうだ。
弟マルケスのライディング
火のない所に煙は立たぬ? 2027年に向けて様々なウワサ
ところで、早くもストーブリーグが盛り上がっている……って、さすがに早すぎる……。もともと「ストーブリーグ」という言葉は、シーズンが終わって寒い時期に、ファンがストーブにあたりながら翌年の動向をあれこれ語り合う様子からできたもの。シーズンが終わるどころか、始まる前の寒い時期とは……。来年はMotoGPマシンの排気量が1000cc→850ccに変更されることもあり、各ライダーの動きがとにかく早い。
ウワサでは、バニャイアがドゥカティ→アプリリア、ホルヘ・マルティンがアプリリア→ヤマハ、ファビオ・クアルタラロがヤマハ→ホンダ、ペドロ・アコスタがKTM→ドゥカティ、そしてアレックス・マルケスがドゥカティ→KTMということで、この通りの移籍が行われたら大シャッフルである。
もちろん今の段階ではウワサレベルではあるが、火のないところに煙は立たないもの。これもウワサだが、年が明けてKTMのスタッフがマシンの新組みのためにファクトリーに行ったら、そこにアレックス・マルケスがいた……とかなんとか(笑)。そりゃ、煙が立つというものだ。
個人的には、どの移籍も面白いのではないかと思う。特に相性がよさそうなのは、バニャイアのアプリリア、アコスタのドゥカティだろう。バニャイアはどのマシンでも乗りこなせるタイプだし、コーナリングマシンであるアプリリアと合いそう。アコスタがドゥカティに乗れば、いよいよ持ち前のブレーキング技術が生かせるはずだ。ま、いずれにしても、早すぎるストーブリーグの話なのだが……。
次回も引き続きマレーシア公式テストから、新型V4エンジンとトプラック・ラズガットリオグルの走りが気になるヤマハを中心に、ホンダ、アプリリア、KTMについてレポート。採れたての現地ナマ情報、お楽しみに!
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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