
ビッグツイン以外はハーレーと認めん、そんなこだわりも結構ですが、今やハーレーダビッドソンも中型免許で乗れるモデルや電動バイクをリリースする時代。もっとも、今から半世紀ほど前にもハーレーブランドは小型でビュンビュン走ってくれるスポーツモデルを作っていました。2ストのツインエンジン、フルカウルのレーサーなんてゴリゴリのハーレーユーザーにしてみたら違和感しかありませんよね(笑)
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
売上げ増大のためにあえて小型マシンを発売
ハーレーダビッドソンは1969年に経営難から株式を公開し、AMFという機械メーカーの傘下に入ったことがあります。ハーレー/AMF時代が1984年まで続いたこと、熱烈なファンならご存じかと。この間、AMFの潤沢な予算でもってハーレーはイタリアの元飛行機メーカーで、バイクも作っていたアエルマッキ社を買収しました。ビッグツインモデルだけでなく、若者にも手が届きやすい小型モデルの導入で市場開拓、売り上げの増大を狙ったわけです。
実際、アエルマッキはアメリカで好評を博しました。空冷2ストローク、250から350ccほどのエンジンを搭載し、軽々と、そしてパワフルに走るバイクは新鮮味もあったに違いありません。そこでハーレー首脳陣はアエルマッキをレースシーンに投入することで、より宣伝効果をあげようと目論んだのでした。そして、イタリア人が作ったマシンこそ、2ストレーサー、RR250というハーレー印のチョッ速マシンだったのです。
かつてハーレーがAMF傘下だった頃、イタリアのアエルマッキとともに作り上げた2ストレーサー、RR250(1974)
イタリアン2ストエンジンながらヤマハ製パーツを多用
アエルマッキのチーフエンジニア、ウィリアム・ソンチーニが作り上げた2ストロークの空冷パラツインは、同社の伝説的なエンジン「アラ・ド・オロ(Ala d’Oro=黄金の翼)」単気筒125ccを連結することから生まれています。この際、整備性や耐久性を向上させるため、ヤマハ製パーツが多用されていたことは有名なエピソード。おかげで、今でも現役で走っている個体が少なくないのだとか。
最初の空冷仕様では車重108kgに対し50ps/10000rpmというパワーを絞り出し、最高速はおよそ240km/hといいますから、当時の専門誌が「ハーレーの弾丸」と評したのも大いに納得です。さらに、後に水冷化されると58ps/12000rpmへと飛躍的なパワーアップを達成。レースデビュー(AMAクラスC)した1972年には名手レンツォ・パゾリーニによってシリーズ2位を獲得し、パゾリーニ亡きあとはウォルター・ヴィラが74/75/76年の3連覇を成し遂げるという大活躍。ちなみに、ヴィラはかのエンツォ・フェラーリをして「バイク界のニキ・ラウダ!」とまで大絶賛されています。
74/75/76年の3年連続でAMAチャンピオンとなったウォルター・ヴィラとRR250。エンツォ・フェラーリが大絶賛したライダーです。
ハーレーディーラーで普通に買えた250レーサー
北米のハーレーディーラーで購入可能だったというRR250ですが、生産台数は180台とも、250台ともされており、正確なところは定かではありません。が、残されている個体を見れば、F/Rともにチェリアーニのショック、スカラブのフロントディスク、デロルト、またはミクニのキャブ(北米仕様はほとんどミクニとのこと)といった共通項が見られます。77年にはビモータのフレームが、78年にはロータリーディスクバルブが用意されるなど、開発はバリバリ進んだのですが、ハーレーは1978年にアエルマッキを手放すことに。後の活躍はカジバグループへと引き継がれていったのでした。
さて、ご紹介の個体は1974年の北米モデル。プライベーター向けに販売された1台で、現在はカナダでプリペアを受けています。レース歴は不明ながら、完璧にオリジナルパーツで構成された車体のコンディションは最上級。オークションで2万5000ドル(約376万円)での落札というのはかなりのお買い得だったかと。実際、レース歴やレストアに優れたポイントがあると、500万円オーバーという個体も珍しくありません。いずれにしろ、ハーレー/AMF時代のマシンは低評価されがちですが、レーサー、とりわけRR250についてはまったく別の視点を持つべきでしょう。
黄金の翼の異名をとるエンジンを始祖とした空冷2ストロークのパラツイン。ハーレーブランドとはにわかには信じがたいルックスです。
あくまでハーレーダビッドソンが自社のマシンとして作り上げたので、アエルマッキのロゴなどはどこにも見当たりません。
AMAシリーズチャンピオンの証しとなるビクトリーサークル。カストロールによるスポンサーシップが見て取れます。
ヴェリア製メーターというところがイタリア製レーサーを感じさせます。隣は水温計。
前後ショックとリヤドラムはチェリアーニ、フロントディスクはスカラベと、当時イケイケだったパーツが盛りだくさん。
ワールドチャンピオンのバッジを付けたハーレーなんて、RR250以外は滅多に見られないはず。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(ハーレーダビッドソン)
BLESS CREATIONのカーボン外装をまとう カーボン外装メーカー・ブレスクリエイションの高い質感と造形の美しさのX350専用外装に惚れ、編集部号にも装着することにした。フロントフェンダー/ラジ[…]
THUNDERBIKE|Satin ミニフロアボード サンダーバイクのスタイリングと乗車時の快適性を両立したミニフロアボード。サンダーバイクはドイツのハーレーディーラーでありながら、さまざまなパーツを[…]
ライディングポジションに不満を抱えているナイトスタースペシャルオーナーに朗報 最新のシャーシ設計によるアイコニックなスポーツスターのデザインの車体に、強力な水冷レボリューションマックスエンジンを搭載す[…]
ロードグライド131RRか? いいや違う、 さらに上回る143だ クラッチミートするや否や、極低回転域から図太いトルクでロードグライドの巨体が力強く押し出される。クイックシフターのアシストもあり、ス[…]
ハーレー乗りじゃなくても大歓迎! ブルースカイミーティングは、ハーレーオーナーのみならず、ライダー/ノンライダーに関わらずどなたでも大歓迎のカルチャーイベント。 北陸初の開催となる今回は、景勝地の東尋[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
250でもビッグバイクと同じレベルのクオリティを! ヤマハは1988年に250ccのアメリカンクルーザー、空冷60°VツインのXV250 Viragoをリリースした。 それは250ccの片側125cc[…]
〈1978年3月〉SR400[2H6]/500[2J3]:ロードスポーツの原点 1976年に発売したオフロードモデルのXT500のエンジンとフレームをベースに、トラディショナルなロードスポーツとして登[…]
テールデザインでトラディショナルから新世代を意識させる! 1992年に発表後、実に30年間という史上まれにみるロングセラーだったCB400 SUPER FOUR。 その経緯にはいくつか節目となるモデル[…]
過渡期に生まれながらもマシン全体の完成度は抜群 ’59年にCB92を発売して以来、各時代の旗艦を含めたロードスポーツの多くに、ホンダはCBという車名を使用してきた。そして昨今では、ネイキッド:CB、カ[…]
レプリカに手を出していなかったカワサキがワークスマシンZXR-7から製品化! 1988年、秋のIFMAケルンショーでカワサキのZXR750がセンセーショナルなデビューを飾った。 なぜ衝撃的だったかとい[…]
人気記事ランキング(全体)
悪質な交通違反の一つ、「無免許運転」 今回は無免許運転をして捕まってしまったときに、軽微な違反とはどのような違いがあるのか紹介していきます。 ■違反内容により異なる処理無免許運転の人が違反で捕まった場[…]
6999ドルで入手したバイク「VOGER」、ハーレーよりでっかい箱で到着! タンクの中が明るいぞ! 彼女を乗せたらどこに足を置けばいいんだ? ヘッドカバーがプラスチック?! アメリカの人気YouTub[…]
充実してきた普通二輪クラスの輸入モデル この記事で取り上げるのは、日本に本格上陸を果たす注目の輸入ネオクラシックモデルばかりだ。それが、中国のVツインクルーザー「ベンダ ナポレオンボブ250」、英国老[…]
進化した単気筒TRエンジンは5%パワーアップの42psを発揮! トライアンフは、2026年モデルとして400シリーズの最新作×2を発表した。すでにインドで先行発表されていたカフェレーサースタイルの「ス[…]
バッテリーで発熱する「着るコタツ」で冬を快適に ワークマンの「ヒーターウエア」シリーズは、ウエア内に電熱ヒーターを内蔵した防寒アイテム。スイッチひとつで温まることから「着るコタツ」として人気が拡大し、[…]
最新の投稿記事(全体)
経済性と耐久性に優れた素性はそのままに、ブレーキ性能を向上 ホンダはタイで、日本仕様のキャストホイール+ABSとは別ラインになっているスーパーカブ110(現地名:スーパーカブ)をマイナーチェンジ。新た[…]
売上げ増大のためにあえて小型マシンを発売 ハーレーダビッドソンは1969年に経営難から株式を公開し、AMFという機械メーカーの傘下に入ったことがあります。ハーレー/AMF時代が1984年まで続いたこと[…]
250でもビッグバイクと同じレベルのクオリティを! ヤマハは1988年に250ccのアメリカンクルーザー、空冷60°VツインのXV250 Viragoをリリースした。 それは250ccの片側125cc[…]
航続距離はなんと362km! ヤマハは、2025春に開催された大阪モーターサイクルショーにて「オフロードカスタマイズコンセプト」なる謎のコンセプトモデルをサプライズ展示。従来型のWR155R(海外モデ[…]
〈1978年3月〉SR400[2H6]/500[2J3]:ロードスポーツの原点 1976年に発売したオフロードモデルのXT500のエンジンとフレームをベースに、トラディショナルなロードスポーツとして登[…]
- 1
- 2









































