新生CBは、見る者によってその印象を変える

新旗艦の誕生に昂ぶる!「ホンダCB1000Fコンセプト」詳細解説(1)〈プロローグ編〉

2025年3月の大阪モーターサイクルショーで世界初公開された「ホンダCB1000Fコンセプト」。往年の名車CB-Fを想起させるだけでなく、新たなスタンダードバイクとしての役割を併せ持つ、ホンダ入魂の1台だ。今年最大の注目機種と言っていいコイツの全貌を、どこよりも詳しい連続記事でお届けする。まずはその概要からだ。


●文:沼尾宏明(ヤングマシン編集部) ●写真:真弓悟史

見る者で印象が違う? 絶妙なカタチとストーリー

プレス向けの事前撮影会場に訪れたヤングマシンの取材スタッフ。興奮しながら、眩しいライトに照らされて佇むCB1000Fコンセプトの実車を目にした。しかし、そのマシンから受ける印象は三者三様。ある者は「1980年代を席巻したCB-Fの再来」、ある者は「普通のバイク」、ある者は「新しいCB」として目に映った。そんな面白い現象が起きたのだ。

どうやら、この現象はホンダの狙いどおりのようだ。CB1000Fコンセプトの詳細はまだ明かされていないが、リリースによると、ホンダを代表するブランドであるCBとして「進化するスポーツバイクの基準を具現化」し、「“CBの物語”を想起させるスタイリング」を与えたとある。車名のFに関しては何ら説明がなく、単純なエフのオマージュではないことを切々と訴えている。

コンパクト/スポーティー/スタンダード。そんな印象を漂わせるが、決して軽々しくはなく、背後の歴史を想起させるオーラを放つ。まさに新旗艦。

ーーそもそもの発端は5年前に遡る。2020年春にホンダは「CB-Fコンセプト」を発表。これは直4モダンカフェのCB1000R(現在は絶版)をベースに、往年のCB750F/900Fイメージのスタイルを与えた現代版「エフ」だった。

すぐに市販化されると思いきや、2022年に開催されたCB1300シリーズの30周年イベントで関係者から突如「開発中止」が告げられる。とはいえ次世代CBを巡る動きは継続されており、ホンダ社内でさまざまな議論が交わされていたと聞く。

そして2025年2月、33年にわたってCBのシンボルとして君臨してきたCB1300スーパーフォア/スーパーボルドールのファイナルエディションが発表。このタイミングで公開されたCB1000Fコンセプトは、単純に“エフの現代版”であるだけでなく、“次世代CBの新旗艦”として重大な使命を与えられたマシンでもあるのだ。

CB1000Fのベースは、152psのハイパワーと車重211kgの軽さを融合した最新のCB1000ホーネット。従来の旗艦CB1300SFと比べ、38ps上回り、55kgも軽い。車体のサイズ感もまったく異なる。

ホンダが導き出した、CB像へのひとつの回答

ホンダの関係者によると、2020年に発表したCB-Fコンセプトは実動せず、あくまでデザインスタディとして“エフの現代版”であることを前面に押し出していた。一方、今回は「CBが主題」と話す。

ーー何やらややこしいが、CB1000Fコンセプトはホンダが描く“CB像”を考え抜いた結果と言える。ホンダのCBは1959年のCB92以来、多種多彩なマシンがある。当初は最先端スーパースポーツの役割を担い、実質的に世界初の直4市販車となったCB750フォア、次世代ヨーロピアンスポーツの CB750F/900F、空冷レーサーの究極形態であるCB1100Rらが生まれた。

1979 HONDA CB750F】「無敵艦隊」と呼ばれたワークスレーサーの技術を還元したDOHC4バルブ空冷直4と流麗なデザインが衝撃だった。海外にはCB900Fを導入。

1982 HONDA CB750F改】後のWGP王者F.スペンサーが駆り、AMAスーパーバイクレースのデイトナで初優勝を果たした伝説のマシン。北米向けの純正カラーで、CB1000Fもこれがモチーフだ。

1980年代に入ると、よりレース志向の「CBR」ブランドが誕生。CBはストリート向けのネイキッドという位置付けに落ち着く。こうした経緯を辿っただけに、人々が思い描く“CB像”は千差万別。次世代のCB開発にあたり、ホンダ社内においてもエフ路線のほか、CB750フォア路線やスーパーフォア路線といった複数のアイデアがあったようだ。

これをまとめたCB1000Fコンセプトの開発チームは、以前のCB-Fコンセプトとはメンバーがまったく異なり、若いスタッフの意見も尊重したという。エフからは適度な距離を置き、新しいCBとは何か真摯に向き合った。

正直、もっとエフに似せることもできたハズだが、CBR1000RR(SC77)譲りの水冷直4にモノショック、あえて2眼メーターではなく、角型の液晶メーターという先進性を選択。それでいて、世界を震撼させた直列4気筒をはじめ、流麗なデザインと軽量ハイパワーで世界を魅了したCB-Fら歴代CBの物語も息づく。そこには、伝統と先進性が同居する“新時代のCB像”という最適解を、苦心しながら、熱量をもって導き出した姿が窺える。

もちろん往事を知るライダーにとって車名とこのカタチ、色を見せられたら「現代版エフだ!」としか思えない(筆者もそのひとり)。

だが、それでいい。冒頭のように、見る者によってイメージが変わる。私のようにエフに憧れた世代にも、エフを知らず普通のバイクらしさを求める世代にも、先進的なネイキッドが欲しい世代にも刺さる。多彩なキャラクターを内包しながら新しい王道を築く。これぞ歴史を創ってきた元来のCBそのものではないか?

ーーCB1000Fコンセプトがそんなバイクになる予感が早くもしている。

見る人によってその印象を変える新生エフ。歴代が紡いだ物語を凝縮したかのような多様性。それがCBというブランドを如実に表している。

※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。