
CB1300SF/SBの生産終了に伴い、国内CBブランドの旗艦も担うことになる新生CB1000F コンセプト。往年のCB750Fを彷彿させつつ、あくまでも次世代のCB像を追求したというこの1台。開発に携わったおふたりにじっくりと話を聞いた。
●文:ヤングマシン編集部(マツ) ●写真:真弓悟史、編集部、ホンダ ●外部リンク:ホンダ
本田技研工業 二輪・パワープロダクツ事業本部
二輪事業統括部 CB1000FコンセプトLPL(開発責任者)
原本貴之さん
2006年入社。CB400SF/SBやNC700系、CB750ホーネット系、CBR400R系など、大型FUNモデルの完成車設計を中心に担当。CB1000Fコンセプトでは初の開発責任者を務める。愛車は自身が開発に携わったNM4。
本田技研工業 二輪・パワープロダクツ事業本部
二輪事業統括部 大型FUNカテゴリーGM
坂本順一さん
2001年入社。コミューターからスポーツバイクまで幅広い機種の完成車設計/開発責任者を歴任し、現在は大型FUNモデルの企画/開発を統括する立場。学生時代には桜井ホンダからNK4に参戦した経験も。愛車はCB1300SFとモンキー125。
“エフ”にとらわれず、新世代のCBをゼロベースで追求
YM:まずはCB1000Fコンセプトの狙いどころや、車両のコンセプトを教えて下さい。
坂本:“CB”はレースと共に育ってきたブランドですが、その役割をV4系に渡して以降は官能性能を追求し続けてきました。現在のフラッグシップCBの原点と言える1992年のCB1000スーパーフォアは、大きなバイクを乗りこなす喜びを感じていただくモデルで、それが1300cc化などを経て進化してきたわけですが、やはり、ちょっと時代が変わってきたよね…と。
【CB1000スーパーフォア】1991年秋の東京モーターショーで初披露。CBR1000F由来の水冷999cc直4を、CB1100Rがモチーフの巨大な燃料タンクを持つ車体に搭載。堂々たる体躯でフラッグシップCBの方向性を決定づけた。
【CB1300SF・SC40(左)/CB1300SF・SC54(右)】1998年にモデルチェンジしたSC40は、1284ccの水冷直4をモノバックボーンの車体に搭載。ダブルプロリンクのリヤショックなど革新メカも搭載し、車重は増えたものの扱いやすさを増した。2003年のSC54では完全刷新で20kgのダイエットを敢行、スポーツ性を大幅に強化した。
バイクを乗りこなす喜びは依然存在しますが、それよりも美味しいものを食べに行く、景色を見に行くなど、バイクを手段として使うお客様が、特にコロナ禍を経て圧倒的に増えています。となると“乗れるものなら乗ってみろ”というコンセプトより、気軽に乗れる車重やサイズ感が求められているのでは…という考えが、まずはCB1000F コンセプトの土台にあります。
原本:その上で、最新の性能を広く、様々なシチュエーションで、様々なライダーの方々に味わって頂ける、そんなバランス感を追求しています。
YM:坂本さんは諸説あるCBの意味を“クリエイティブ・ベンチマーク”と解釈しているとお話しされています。現代のベンチマークたる存在とは何かを考え抜いたのがCB1000F コンセプトと捉えていいですか?
坂本:はい。開発チームは若手が多いのですが、ホンダの次世代を背負う彼らを中心に我々が考え出した、これからのCBの回答だと考えています。
YM:このバイクを見て2020 年のスタディモデル「CB-Fコンセプト」を想起するユーザーも多いと思います。あれは1979年登場のCB750F/900Fにかなり寄せたデザインでしたが、関係性を教えていただけますか?
坂本:2019年に各地でCBの60周年イベントを開催した中で、お客様から次のCBへのリクエストを沢山頂きました。すぐに社内に持ち帰り、私含むデザインメンバー中心で考え抜いた回答として、2020年にお披露目したのがCB-Fコンセプトでした。
YM:反響はとにかく凄かったですよね。
坂本:はい。大きな反響をいただいたんですけど、実は今回のCB1000F コンセプトは、CB-Fコンセプトから継続検討して生まれた機種ではないんです。プロジェクトのキックオフ時に開発メンバーに伝えたのは「CB-F系のデザインに引っ張られなくてもいい。これからのCBを、10年、15年と愛されるCBを考えて欲しい」ということでした。
YM:なるほど。CB-Fコンセプトもあの時点での次世代 CB像の模索でしたが、それがコロナ禍などの諸事情で中止となり、ゼロベースで次世代CB を模索したのがCB1000F コンセプトというわけですね。
原本:はい。次世代のCB像を模索し、様々な方向性を検討する中で、CB-F系のデザインはあくまでも選択肢のひとつでした。
YM:他の方向性にはどんなものがありましたか?
坂本:ストリートファイターまではいかないものの、かなりスポーティなものから、スーパーフォアの後継に近いもの、CB1000Rのネオスポーツカフェに近いコンセプトなど、5 種類ぐらいの方向性を考えました。
YM:その5案に共通するエレメントはありましたか?
坂本:基本は丸目ヘッドライトのネイキッドスタイルです。その中には最終型CB1000Rや現行CB650Rのように、ライトが傾斜しているものもありましたが。
汎用性や多用途性を重視し、CB-F系デザインを選択
YM:丸目ネイキッドを基本形態に検討を重ねた結果、CB-F系を彷彿させるスタイルにたどり着いたのはなぜですか?
坂本:開発チームはもちろん、日本やヨーロッパのお客様にも調査したのですが、いちばん票が集まったのがCB-F系のスタイルだったんです。中でも多かったのが、パートナーとしっかりタンデムできそうなリヤまわりの要望でした。
ライダー側にはCB750Fを想起させる模様を入れつつ、タンデム側はプレーンな表皮で構成。タンデムシートの座面はフラットで広く、2人乗りや積載能力も高そうだ。
YM:バイクを手段として使うには、積載性や汎用性が重要ですよね。となるとストリートファイターのようなお尻が短いデザインは難しい。
坂本:はい。CB-F系はリヤまわりがすごく力強く、それが汎用性の高そうなイメージに繋がっている。それをお客様も感じていらっしゃるんだなと。後ろに乗せても大丈夫、遠くにも行ける、通勤にも使える。そんな多用途を求めたことがこの形の理由です。ちなみに…今だから言いますけど、僕個人はCB-F系のデザインに落ち着いて欲しかった(笑)。チーム員には言いませんでしたが。
YM:なるほど(笑)。選ばれたデザインは昔のFの匂いは漂わせつつ、現代的に処理されていると感じます。
原本: ストリームラインなどCB-F系の匂いは残しつつ、風格・凝縮感と軽さの抜け感に注力し、現代的なメリハリを付けることを意識しています。燃料タンクの造形で言うと硬さと柔らかさのバランスです。肩の部分とか、フューエルキャップを中心に峰を立てていますが、あのあたりのエッジを均しすぎると印象が柔らかくなり過ぎるため、アールの付け方などにかなりこだわりました。
坂本:タンクの前後長にもこだわっています。CB-Fコンセプトは見た目を重視してライダーを後方に座らせたため、ライディングポジションがかなりキツかった。快適に気軽にというコンセプトのCB1000F コンセプトでそれはNGです。そんな中で、タンクの前後長は特別長くはありませんが、それでもあのスタイルをしっかり表現してくれている。
CB1300SFとのライポジ比較。両車ともに上体がしっかり起きるライポジだが、ステップが前方のCB1000Fコンセプトは膝の曲がりがゆるくより安楽。車重の軽さもあって、取り回しの良さや気軽さも軍配が上がる。
後のWGP王者・F.スペンサーがAMAスーパーバイクで駆ったCB750F改のカラーだったことで「スペンサーカラー」と通称されるように。元々は北米仕様CB750F/900Fの純正カラーだ。
YM:ライポジの要求など様々な制約の中で、極力ロングタンクに見えるシルエットを追求した…ということですね。ちなみに、カラーリングにいわゆるスペンサーカラーを採用したのはなぜですか? 新世代のCBならば、むしろCB-F系ではない車体色の方がコンセプトに合うと思うのですが。
原本:CBのレガシーを強く感じさせるカラーだからです。CB-F系でも象徴的で、当時を知る方はもちろん、若い方もCBを想起しやすいと考えました。
坂本:加えて、CB1000F コンセプトの初お披露目にスペンサーカラーを選ぶことで、ホンダがCBを大事にしていることをしっかりと伝えたかった…という意思もあります。
YM:なるほど。意地の悪い質問に聞こえてしまったら申し訳ありません。ただ、我々はどうしてもこのバイクにCB750Fを重ねてしまうので…。
坂本:もちろんです。でもCB750Fが登場した1979年って…生まれてないよね?
原本:生まれていないです(編集部注:原本さんは1984年生まれの41歳)。
坂本:そうした世代のチームなので、本当にまっさらな気持ちでCBに向かい合っている。CB750Fをただオマージュするのではなく、これからの CBに対する答えを、すごくいい感じで表現してくれたと考えています。
エンジンや足は専用セッティング。価格も身近に?!
YM:ゼロベースで次世代CBを考えていく中で、ベースがCB1000ホーネットなのは最初から決まっていたのですか?
坂本:いろいろな選択肢がある中で、これは企画を担当する僕の部門で迷いに迷った結果、この 4 気筒の1000ccでやってくれと。CB1000ホーネットの最大の特徴は軽さ。それを手に入れないと新世代のCBとは名乗れないと思ったので。
YM:原本さんがLPLに就任した際にはホーネットベースと決まっていたわけですね。そのホーネットと比較して、ライポジは快適方向とされていますが、音や鼓動感にも拘っているとの話がありました。エンジンのセッティングも変更されていますか?
坂本:ホーネットはスーパースポーツの素性を活かした、回して気持ちいいエンジンですが、そのままだとCB1000 F コンセプトとの相性は良くないので、そこは開発陣がしっかりやってくれると信じています。
YM:となると、足まわりにもCB1000F コンセプトに最適なセッティングがありますよね?
坂本:ホイールやサスペンションのハードは共通部品が多いですが、セッティングは違うように作るべきと思っています。
CB1000ホーネット(左)とCB1000Fコンセプト(右)のエンジン。右側ラジエターホースの取り回しが違う程度で、外見的には違いは見いだせない。エキパイもほぼ同形状に見える。
YM:セッティングは変えつつハードは共有する。これは価格をかなり意識している作り方ですよね?
坂本:おっしゃる通りです。ホーネットは世界中でご支持いただいているので、比較的コストは安く作れる。そこは最大限、活用する方向です。
YM:ホーネットはSTDで 134万2000円ですが、近しいところに?
坂本:近しいところを頑張りたいと。
YM:134万円以下のセンはありますか?
坂本:そこは…(笑)
YM:このジャンルにはカワサキZ900RS(148万5000円〜)という、強力なライバルが居ます。
坂本:そこは意識せざるを得ませんし、しっかり見ながら開発側に頑張ってもらっていて、すごくいいバランスを見つけてくれています。気軽に乗るには、気軽に買えるのも重要と思いますので。
YM:若いライダーも意識したバイクですから、手の届く価格は大事ですよね。高級なバージョンが欲しいのなら、いずれホーネットSPのブレンボとオーリンズを持ってくることも出来ますし。
坂本/原本:(笑)。
実際に比べるユーザーは多くないかもしれないが、戦い方として価格戦略は重要なはず。最強のライバル・Z900RSにどんなスタンスで立ち向かうのか要注目!!(画像はCG)
CBの世界観を広げる“素材”を提供する
YM:今回のMCショーでは世界観を広げる仕掛けにも積極的です。
原本:伝統的な、よくバイクをご存知の方へのリーチをモリワキさんに、逆に“MCショーって何?”っていうような方々へのアプローチをビームスさんに、それぞれご協力いただいています。
大阪MCショーに展示された「CB1000Fコンセプト モリワキエンジニアリング」と、ビームスカルチュアート(BEAMS CALTuART)とのコラボ車「CB1000F meets GUCCIMAZE」。ゴリゴリのバイク好きからライト層まで幅広く訴求を目論む。
YM:となると、CB1000F コンセプトはカスタム性も重視していると考えていいですか?
原本:いい素材となればと思っています。
YM:軽いし、エンジンはSC77のCBR1000RR由来ですから、その気になれば200ps近くまで上げられるポテンシャルもあります。テイスト・オブ・ツクバなど、鉄フレームが前提のレースにも合致しますね。
原本:はい。テイストもそうですし、HSR九州で開催されている鉄馬なども。
YM:カスタムを意識されているのなら、ホンダさんからなにか提案があっても面白いですし、CB1000F コンセプトが重視する汎用性で言うと、CB1300スーパーボルドールのようなカウル付きがあってもいいと思います。
原本:いいですね。検討します(笑)。
YM:気の早すぎるお願いですが、ぜひ(笑)。とはいえ、その前にCB1000F コンセプトがいつ発売されるかですよね、国内販売を担当されるホンダモーターサイクルジャパン(HMJ)さん?
HMJ内山:それは近い将来に乞うご期待ということで…。
YM:承知しました(笑)。ありがとうございました。
(終)
[動画]【ホンダCB1000F・開発者トークショー】現代版エフは「次世代CB像」を示すホンダ入魂モデルだ!!
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(ホンダ [HONDA])
名称も一新したフルモデルチェンジ 17年ぶりにフルモデルチェンジを実施した2018年モデルは、2018年4月2日発売。新たに「ゴールドウイング・ツアー」とトランクレスの「ゴールドウイング」の2種類をラ[…]
遊び心と楽しさをアップデートした初代125 発売は2018年7月12日。開発コンセプトは、楽しさをスケールアップし、遊び心で自分らしさを演出する“アソビの達人”だった。124ccエンジン搭載となったこ[…]
125ccのMTバイクは16歳から取得可能な“小型限定普通二輪免許”で運転できる バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)[…]
利便性そのままにさらにスタイリッシュに 2025年モデルが発売されたのは、2025年2月6日のこと。おもな変更点は外観デザインで、前まわりでは新形状のヘッドライトの採用やメーターの装飾変更、シルバーの[…]
初代はスポーツモデル:1975年ゴールドウイング(GL1000) 1970年代当時、巨大なアメリカ市場を独り占めしていた英国車をCB750フォアで一蹴したホンダだったが、Z1とそれに続く競合車の登場で[…]
最新の関連記事(モーターサイクルショー/モーターショー)
2005年に新しいフラッグシップとして東京モーターショーに出現! 2005年の東京モーターショーに、スズキは突如6気筒のコンセプトモデルをリリースした。 その名はSTRATOSPHERE(ストラトスフ[…]
大盛況だったサイン・ハウスブース 今年もモーターサイクルショーに登場した「サイン・ハウス」のブース。 ブースはシンプルで洗練されたデザインながらも、ひと目でギア好きの心をくすぐる雰囲気。 各製品に触れ[…]
英国生まれインド育ち:クラシック風味に全振りしたモデル 現存するオートバイブランドでは最古(大元のジョージ・タウンゼンド・アンド・カンパニーの創業は1851年! )と呼ばれ、1901年にオートバイの生[…]
XSR900GPとの組み合わせでよみがえる”フォーサイト” ベテラン、若手を問わずモリワキのブースで注目したのは、1980年代のモリワキを代表するマフラー、「FORESIGHT(フォーサイト)」の復活[…]
2007年に「感動創造」をテーマにプレミアムなモーターサイクルを提案! 2007年の東京モーターショーに、ヤマハは異彩を放つショーモデルをローンチ。 その名もXS-V1 Sakuraと、和をアピールす[…]
人気記事ランキング(全体)
2005年に新しいフラッグシップとして東京モーターショーに出現! 2005年の東京モーターショーに、スズキは突如6気筒のコンセプトモデルをリリースした。 その名はSTRATOSPHERE(ストラトスフ[…]
フルフェイスが万能というわけでもない ライダーにとって必需品であるヘルメット。みなさんは、どういった基準でヘルメットを選んでいますか。安全性やデザイン、機能性等、選ぶポイントはいろいろありますよね。 […]
Mio MiVue M802WD:記録に特化したベーシックモデル 「いつも安全運転に徹しているし、自分が事故やアクシデントに遭遇することはない」と信じていられるほど、現実世界は甘いものではない。万が一[…]
日本に存在する色とりどりの特殊車両たち 警察車両である白バイ以外にも取締りや犯罪抑止のためのオートバイが存在しています。それは、黒バイ、青バイ、赤バイ、黄バイと言われる4種のオートバイたち。意外と知ら[…]
Z1から11年を経た”新基準”【カワサキGPz900R】 カワサキが水冷6気筒のZ1300を発売したのは1979年だったが、この頃からすでにZ1系に代わる次世代フラッグシップが模索されていた。 Zに改[…]
最新の投稿記事(全体)
昭和レトロな芳香剤に新作が登場 株式会社ダイヤケミカルが製造/販売する、長年愛され続けている芳香剤「くるまにポピー」。中高年世代にとっては「く〜るまにポピー♪」のフレーズでおなじみであろう。1978年[…]
『バリバリ伝説』魂を身につける! 名場面アクリルキーホルダー、CAMSHOP.JPに登場 1983年から1991年まで『週刊少年マガジン』に連載された伝説的バイク漫画『バリバリ伝説』は、1980年代の[…]
名称も一新したフルモデルチェンジ 17年ぶりにフルモデルチェンジを実施した2018年モデルは、2018年4月2日発売。新たに「ゴールドウイング・ツアー」とトランクレスの「ゴールドウイング」の2種類をラ[…]
『頭文字D THE ARCADE』に『カイジ』コラボアイテムが続々登場! 全国のゲームセンターで好評稼働中のアーケードゲーム『頭文字D THE ARCADE』は、人気ギャンブル漫画[…]
4WDマニアたちのコラボから生まれたファンイベント 「LAND CRUISER FES JAPAN 2025」は、四輪駆動専門誌「レッツゴー4WD」と日本を代表するモータースポーツの聖地「富士スピード[…]
- 1
- 2