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違和感が仕事しない?! ヤマハ「MT-09 Y-AMT」速攻インプレ! ペダル操作の省略で得るものと失うもの、変わらないもの

ヤマハ「MT-09 Y-AMT」のメディア向け試乗会が開催されたので参加してきた。スポーツライディングの重要パートであるクラッチ操作とシフト操作を機械任せにできる新技術のY-AMTを搭載している。すでに海外では価格やスペックも発表済みで、国内の正式発表もカウントダウン状態だ。


●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真:真弓悟史 ●外部リンク:ヤマハ

多少は違和感あると思ってたんだけどなぁ……

あっという間に馴染んでしまった。クローズドコースのピットから発進し、最初の1周を終えた頃には、久しぶりのサーキット走行でどんなラインを通るか、ブレーキングは……という走りを考えることに没頭していた。

ヤマハの新技術『Y-AMT(ヤマハ オートメイテッド マニュアルトランスミッション)』を搭載した新型モデル「MT-09 Y-AMT」のメディア向け試乗会が袖ヶ浦フォレストレースウェイ(千葉県)で開催されたので参加してきた。限られた時間での試乗だったが、まず心配だったのは、クラッチ操作を完全に機械任せにし、クラッチレバーが省略されていること。さらにシフトペダルも存在せず、オートマチック任せのシフトあるいは手元のスイッチレバーでのマニュアルシフト操作を行なうという、慣れ親しんだマニュアルトランスミッションの操作方法とは異なったものだということ。これらに違和感を持ってしまうのでは……と思っていたのだ。

ところが、である。違和感が仕事をしない。

ウデは一般ライダーだがキャリアだけは長いので、嫌な挙動や違和感にはわりと敏感なほうだと自負している筆者だが、困ったことに何も指摘するような部分が見いだせないのだ。

走行を終え、開発者陣に「どうでしたか?」と聞かれても、「いや、自然すぎてすぐに慣れちゃいました。サーキット走行はやっぱり楽しいですね」と間抜けな答弁を繰り返す始末。これじゃまともなインプレッションが書けないのでは……と不安がよぎる。

その後、もうひとつの時間枠でマニュアルトランスミッション仕様のMT-09 SPに試乗したことで、パズルが解けていくように自身が感じていたことの正体が掴めていった。以下、順を追って説明したい。

参考にならないとコメントを戴くことが多い筆者(身長183cm)のライディングポジションは割愛し、谷田貝洋暁さんのライポジを掲載する。従来型よりもハンドルグリップ位置が約30mm下がり、わずかに手前へ移動。同時に開き角と垂れ角は起こし気味になったことで、従来のモタード系の雰囲気のあったポジションから正調ロードスポーツと言っていいものになった。シートは幅広で体重を受け止めてくれるが、前方はスリムに絞り込まれているので足着き性は良好。ステップは自然な位置にある。【身長172cm/体重75kg】

気になる低速域での扱いには不満なし

まず乗り始めだが、コース走行の前にはパドックに設けられたパイロンスラロームのコースで低速時の特性を体感した。このときには、ホンダEクラッチや最新世代のDCTと同じように極めてスムーズな発進と、自動変速の違和感の少なさが味わえた。低いギヤでは各ギヤ間がやや離れているものの、うまく半クラッチで変速ショックも逃がしてくれているようだ。

かなり低回転までクラッチが切れずに粘ってくれるので、急激に駆動力が途切れてフラつくということもなく、また極低速で車体を直立させてゆっくり進むことも問題なくできる。しいていうなら、極低速と低速の中間、クラッチが切れるか切れないかの領域を使って探り探り走るような場面は特性を掴むまで慣れが必要そうだ。ほぼ完全に直立させて走るか、ある程度は車体が傾斜するように速度を落とし切らずターンするような乗り方のほうが安心感はある。とはいえ、急激にクラッチが繋がって前に進んでしまうようなこともなく、クラッチレバーがないことによる不自由さは思ったほど感じない。

ひとつ気になったのは、オフ車育ち、かつ自他ともに認める座高キング(約1m)の筆者が上半身を起こした姿勢で乗ると、左手の親指で操作するシフトダウンレバーが奥まって遠く感じられたこと。ただ、この速度域で頻繁にマニュアルシフトすることもないだろうとは思うので、特に問題とは感じない。

探り探り乗るとクラッチレバーが欲しくなる時もあるが、特性に慣れれば問題なく乗れそうだ。

“マニュアル感ありき”で造られていることがわかる

そして冒頭のようにコースイン。ピットロード出口でいったん停止して全開発進すると、しっかりとトルクの乗った回転域をキープしながらスムーズに加速していく。最初の1周はオートマチック変速に任せながら走るが、すぐに任意のタイミングでシフトダウンしたくなったので親指レバーを活用する。サーキット走行のように上半身を前傾させるシーンでは前述のレバー位置は全く気にならず、むしろベストポジションだ。

さっそく走りに没頭しはじめると、前述のようにあっという間に慣れてしまった。本当になにも引っかかるものがないのだ。多くのクイックシフター装着車と同じくサーキット走行中にクラッチレバーを触るようなことはなく、シフト操作が足から指に移っただけ……ではあるのだが、この違和感のなさこそがY-AMTの凄さなんだと思う。

ペダル操作が必要ないことによってステップワークや下半身でのホールドがしやすいことはすぐにわかる。そしてまず違和感がない理由のひとつは、明確なギヤシフト感があることだろう。同じく自動変速が可能なホンダDCTは、各ギヤ間のシフトショックをなくす方向で設定されているためかギヤチェンジの実感が薄い(それが悪いというわけではない)のだが、Y-AMTは極めて出来のいいクイックシフターのような感覚で、シフトを送り込む感触が明瞭に体感できる。

これによってわかったのは、シフト操作の実感は足でペダルを動かすことによるものではなく、回転域によって異なるトルクの出方をギヤ選択によって『ライダー自身がコントロールしていると思えること』が大切なのだということ。シフティングのレスポンスや、ギヤが変わることによるトルク変動、また適度に残されたシフトショックなどを全身で感じ取っており、それが指による操作であっても、同じように『コントロールしている実感』は得られたのだ。

シフトダウンは親指で押し、シフトアップは人差し指で引く。また、『+』側のレバースイッチを人差し指で前方に弾くようにしてシフトダウンすることも可能だ。

ちなみに、クルマのAT車でも一部はマニュアル操作をすることが可能だが、それがシフトレバーによるものでもハンドルに取り付けられたパドルシフトであってもコントロール性に大した違いはなく、むしろハンドルから手を離さずに操作できるパドルシフトのほうが扱いやすく余計な動作に気を取られることもない。それと同じように、手元で操作できるY-AMTも操る実感を阻害しないどころか、むしろ少ない動作でコントロールできることのメリットが大きいと感じられた。

ホンダEクラッチがマニュアルトランスミッションのアップグレードだとしたら、Y-AMTは操作を省力化したマニュアルトランスミッションであり、かつオートマチック走行もできるというもの。いずれも“マニュアル感”を大切にしていることが印象的だ。最小限の重量増にとどめていることも、スポーツ性を維持するためには大事な要素だろう。

ブレーキングに集中できる! コーナリング中にできることが増える!

次の時間枠でマニュアル仕様(しか設定されていない)MT-09 SPに乗り換えて気づいたのは、『マニュアル操作ではコーナー手前でこんなにいろいろ考えて計画していたのか!』ということ。先に試乗したY-AMTのおかげで走行ラインはだんだん定まってきていたのだが、マニュアル仕様ではコーナー手前で適切なギヤを選んで準備すると同時に、エンジンブレーキと進入のラインの兼ね合い、ステップワーク、前後ブレーキの操作など考えるべきことが多い。クイックシフターがあるのでクラッチ操作がないぶんマシだが、とにかく計画的に走りながら、どうせ筆者レベルでは完璧になどなりっこないコーナリングを、少しでもうまくこなせるように常時修正していくことになる。

オーリンズ製リヤショックと専用設定のKYB製フロントフォーク、ブレンボ製Stylemaモノブロックキャリパーで足まわりを強化しているMT-09 SPは、144万1000円で7月24日に発売されたばかり。スマートキーも装備する。MT-09がステップを擦るようなバンク角でもSPは接地しない、スポーティな味付けだ。

ところがMT-09 Y-AMTで走ると、ギヤシフトの操作が簡単になったことで、ブレーキ操作により集中できるようになる。よりブレーキレバーの感触に集中できるので走行ラインは安定するし、ブレーキをコーナーのどのあたりまで残すかという操作にもトライできる。左足が解放されたことでステップワークは安定しているし、ハンドルに添えているだけの左手でリズムよくシフトダウンすればいい。

言ってみれば、Y-AMTがいついかなる時でもプロライダーレベルの正確無比なギヤシフトを再現してくれることによって、ライダーは他のことに集中でき、ブレーキングや走行ラインの選択といったスキルを向上するチャンスが得られるわけだ。

もうひとつ面白かったのは、コーナーにギヤ比が合わないとか、ギヤ選択をミスったときのリカバリーが簡単ということだ。たとえばコーナーの立ち上がりで、スロットルを開けたいがトルクが出過ぎて外側に膨らんでいってしまいそうなとき。もう1つ高いギヤであれば旋回力をある程度キープしたまま加速できるのに……と思うような場面だ。

Y-AMTはステップを路面に擦りそうなほどバンクしていても簡単にシフトアップでき、パワーバンドを少し外したところから加速することで立ち上がりの走行ラインを修正できる。また、トルクが足りなければ全開加速中でもシフトダウンできる。

こんな体勢のときでもシフトアップ/ダウンは任意かつ簡単にできる。

同時進行でしなければならないことが減り、それぞれの操作がもたらす効果を掴みやすくなる。そしてコーナリングの途中からでもリカバリーが利くし、なんならコーナー中でのギヤシフトを前提とした新しい走りの組み立てにもトライできそう。左側のレバーとペダルがなくなったことで、フィジカルな意味での操作感は失われたかもしれないが、操る実感や醍醐味はマニュアルと変わらないどころか、より没頭できるようになるのがY-AMTなのだ。

まとめ

Y-AMTで得たものと失ったもの、変わらないものを整理すると、下記のようになる。

得たもの

  • ブレーキングやコーナリングのスキルアップのチャンス
  • 安定したステップワーク
  • ギヤ選択のリカバリーの容易さ
  • 新しい走りの組み立てを考えるチャンス
  • シフト操作以外に向けられる集中力や注意力
  • 街乗りなどでのイージーな走りと快適さ

失ったもの

  • レバーとペダルのフィジカルな操作感

変わらないもの

  • マニュアルトランスミッションのダイレクト感
  • ギヤシフトを駆使して走る醍醐味

以上をどう捉えるかはユーザー次第。マニュアル好きがよく言う『めんどくさいほうが面白い』という気持ちもよくわかるし、筆者もどちらかというとそちら寄りだが、“めんどくさい”と感じる境界線は本当に人それぞれ。でも、Y-AMTなら今までと違う走り方を考えて没頭するという新しい“沼”が待っている。これはこれで『めんどくさくて面白い』んじゃないだろうか。

どんな方におすすめかと言われると……悩むところではあるが、AT限定免許の方や初心者の方、またペダル操作やレバー操作が怪我などの理由でしにくい方といったあたりはもちろんだが、ある程度バイクに乗り慣れてスキル向上の途上のある方にはちょっと強めにすすめたい。前述のような理由で新しい楽しみ方を見つけることができそうだし、スキルアップのチャンスも得られるからだ。エキスパートの方は……ご自身の趣味趣向でお好きにどうぞ。快適なスポーツバイクが欲しいという方もぜひご検討あれ。

ひたすら走りに没頭するの図。猛暑の中を気持ちよく走ったわりに疲れは少なかったように思う。最後には『リヤブレーキも足で操作しなくて済むならステップワーク的な意味でそのほうがいいかも』と思ってしまった。

Y-AMT仕様はクランクアッパーケースを専用設計。シフトドラムも専用設計としてボトムニュートラルにしている。電子制御によって走行中にニュートラルに入る心配がないからだろう。クラッチとシフトがアクチュエータによって駆動される。シフト側のロッドにはスプリングを内蔵し、瞬間的にプリロードをかけることによって素早いシフティングを可能にしているという。クラッチ側のアクチュエータの軸がやや傾いているのは、スペース効率の向上だけでなくレリーズ操作のレバー比をバリアブルに設計したから、という理由があるそうだ。

ヤマハ MT-09 Y-AMTのスペックと予想価格

国内仕様は正式発表前なのでデータがないものの、欧州ではすでにスペックも価格も発表されているので以下に記載したい。参考までに英国における価格は、スタンダードのMT-09が1万106ポンド(日本円換算約192万8000円・8/24時点)なのに対し、MT-09 Y-AMTは1万656ポンド(約203万3000円)となっており、Y-AMT仕様はスタンダードの1.054倍。これを日本仕様のMT-09の125万4000円に掛け合わせると、MT-09 Y-AMT日本仕様の暫定予想価格は約132万2000円になる。その差は7万円以下だ。これ、期待していいのでは?!

ちなみにスペックは車重がノーマル仕様から3kg違うだけ。メーカー発表のリリースによれば、Y-AMT機構の導入による車重増は2.8kgだというから、そのまま反映した数値だ。

車名MT-09 Y-AMT
全長×全幅×全高2090×800mm×1145mm
軸距1430mm
最低地上高140mm
シート高825mm
キャスター/トレール24°40′/108mm
装備重量196kg(STD=193kg)
エンジン型式水冷4ストローク並列3気筒DOHC4バルブ
総排気量890cc
内径×行程78.0×62.1mm
圧縮比11.5:1
最高出力119ps/10000rpm
最大トルク9.5kg-m/7000rpm
始動方式セルフスターター
変速機常時噛合式6段リターン
燃料タンク容量14L
WMTCモード燃費20.0km/L
タイヤサイズ前120/70ZR17
タイヤサイズ後180/55ZR17
ブレーキ前φ298mmダブルディスク+4ポットキャリパー
ブレーキ後φ245mmディスク+1ポットキャリパー
英国参考価格1万656ポンド(STD=1万106ポンド)
黒、灰、青
発売時期未発表
※諸元等は全て英国仕様

MT-09 Y-AMTのスタイリング

YAMAHA MT-09 Y-AMT

YAMAHA MT-09 Y-AMT

YAMAHA MT-09 Y-AMT

YAMAHA MT-09 Y-AMT

YAMAHA MT-09 Y-AMT

Y-AMTあり/なしのディテール比較

エンジン右側のクラッチカバー上に、Y-AMTあり(左)はアクチュエータ、Y-AMTなし(右)はクラッチケーブルがある。

車体左側を見ると、Y-AMTあり(左)はアクチュエータがあってシフトペダルなし、Y-AMTなし(右)はクイックシフター付きのチェンジペダルを装備する。

Y-AMTあり(左)はクラッチレバーがなく、代わりにシフト操作用のスイッチレバーを装備。Y-AMTなし(右)は通常のクラッチレバーを備える。

Y-AMTあり(左)はブレーキ側スイッチボックス前方にAT/MT切替ボタンを装備。Y-AMTなし(右)は省略されている。

Y-AMTあり(左)スマートキーを採用、Y-AMTなし(右)は通常のキータイプだ。

MT-09 Y-AMTのディテール

中央にヘッドライト、その下方に吊り目のポジションライトを備える。

5インチTFTディスプレイに各種項目を見やすく表示。スマートフォン連携機能も採用している。

ATモードでは『D』および『D+』の走行モードが選べる。シフトスケジュールだけでなくパワー特性も変わるという。

MTモードではプリセット3種=ストリート、スポーツ、レイン、2種のカスタム(任意設定)が選べる。

フロントにはφ41mm倒立フォークとモノブロックキャリパーを装備。タイヤはブリヂストン最新のバトラックスハイパースポーツS23を採用する。

前後ホイールにスピンフォージド製法を採用。軽量かつ剛性に優れる。水平近くに寝かされたリヤショックはリンク式マウントだ。

※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。