
●文/写真:ヤングマシン編集部(山下剛)
6月1日(現地時間)から決勝レースがはじまった2024年のマン島TTレース、決勝ウィーク3日目となる6月5日に行われたスーパーツインTT(650㏄2気筒 ※1)で、マイケル・ダンロップ選手がTT最多記録となる27勝目を挙げて新記録を打ち立てた。
これまでのレコードホルダーは、彼の伯父にあたるジョイ・ダンロップが持っていた26勝で、マイケルは昨年までに24勝して今年は記録更新が確実視され注目を集めていた。そして決勝ウィーク初日に行われたスーパースポーツTT(600㏄4気筒 ※2)でトップフィニッシュして26勝目を挙げて記録に並んだ。そして翌日に行われたスーパーバイクTT(1000㏄4気筒)での新記録樹立に期待がかかる中、ピットインを終えた5周目にヘルメットのバイザーが外れるアクシデントに見舞われ、すぐに停車してバイザーを直したために順位を落としてしまい、記録更新はならなかった。
そして迎えた6月5日のスーパーツインTT決勝レース1で、マイケルは3周のレースを見事にトップフィニッシュして27勝という前人未踏の新記録を打ち立てたのだった。
マン島TTの勝利記録数は、これによってマイケル・ダンロップ27勝(現役)、ジョイ・ダンロップ26勝、ジョン・マクギネス23勝、デイブ・モリニュー17勝(サイドカー)、イアン・ハッチンソン16勝、ベン・バーチャル/トム・バーチャル14勝(サイドカー)、マイク・ヘイルウッド14勝、ピーター・ヒックマン14勝となっている。このうち、ジョイ・ダンロップとマイク・ヘイルウッドは故人のため、マイケルに続くのは、ジョン・マクギネス、イアン・ハッチンソン、ピーター・ヒックマンの3人だ。
マイケル・ダンロップは、前述したとおり伝説的ライダーであるジョイ・ダンロップを伯父に持つ。マン島TTのコースで観戦客も多く訪れるバンガローと呼ばれる場所には、コースを見つめるジョイ・ダンロップの銅像があるほど、マン島をはじめとしてヨーロッパで尊敬されているライダーである。それほどまでに強さと速さを見せつけたライダーだったが、2000年に参戦したエストニアでのロードレースで事故死した。
ジョイの弟であり、マイケルの父であるロバート・ダンロップもマン島TTで5勝を挙げている名ライダーだ。しかし2007年にマイケルがレースデビューした翌年、ノースウェスト200(北アイルランドで開催される公道レースで、最高速はマン島TTを上回る)に参戦した際に事故死してしまう。このレースにはマイケルのほか、彼の兄であるウィリアムも参戦しており、レース関係者たちは兄弟にレースをキャンセルするよう勧めた。ウィリアムはアドバイスに従ったが、マイケルは反対を押し切ってレースに出場し、父の死を乗り越えて見事に優勝を果たした。
その後、マイケルはマン島TTで次々とラップレコードを更新する速さと強さを見せつけ、チャンピオンとしてのキャリアを積みかさねた。しかしマイケルを再び悲劇が襲う。2018年、兄のウィリアムまでもレース中に事故死してしまうのだ。伯父、父、兄をレースで亡くしたマイケルは、翌年のマン島TTで未勝利に終わる。しかし新型コロナ禍による2年のマン島TT中止を経た2022年には2勝、2023年は4勝と快挙を果たし、チャンピオンとしての風格を見せつけたのだ。
そして今年、彼は偉大な伯父の記録を塗り替える歴史的勝利を挙げた。現段階でも今年のレースはまだ残っているし、彼のキャリアや35歳という年齢を考えれば、勝利数記録はまだまだ伸び続けるはずだ。
幾多の悲運を乗り越え、そして偉業を成し遂げた彼の速さと強さはいったいどこまで伸びるのか。勝利数記録だけでなく、最速ラップ記録更新も含め、まだまだTTファンに奇跡のような出来事を見せてくれそうだ。
スーパーツイン決勝レース1、ジェイミー・カワード選手(#2)と接戦を繰り広げるマイケル・ダンロップ選手。
撮影場所のクレッグ・ニー・バー・は、マウンテン区間の終点で、およそ700mの急な下りストレートを駆け下りてくる。その先は90度に曲がる右コーナーが待ち受けているため、かなりのハードブレーキが必要だ。そのためブレーキをミスするライダーも多い。
スーパーツインTT決勝レース1を制して27勝目を挙げたマイケル・ダンロップ選手。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(レース)
決勝で100%の走りはしない 前回、僕が現役時代にもっとも意識していたのは転ばないこと、100%の走りをすることで転倒のリスクが高まるなら、90%の走りで転倒のリスクをできるだけ抑えたいと考えていたこ[…]
電子制御スロットルにアナログなワイヤーを遣うベテラン勢 最近のMotoGPでちょっと話題になったのが、電子制御スロットルだ。電制スロットルは、もはやスイッチ。スロットルレバーの開け閉めを角度センサーが[…]
伊藤真一さんが代表兼監督を務める『Astemo Pro Honda SI Racing』は、、FIM世界耐久選手権第3戦”コカ・コーラ”鈴鹿8時間耐久ロードレース第46回大会(8月3日決勝)のチーム参[…]
φ355mmとφ340mmのブレーキディスクで何が違ったのか 行ってまいりました、イタリア・ムジェロサーキット。第9戦イタリアGPの視察はもちろんだが、併催して行われるレッドブル・ルーキーズカップに参[…]
ブレーキディスクの大径化が効いたのはメンタルかもしれない 第8戦アラゴンGPでも、第9戦イタリアGPでも、マルク・マルケスが勝ち続けています。とにかく速い。そして強い。誰が今のマルケスを止められるのか[…]
最新の関連記事(ニュース&トピックス)
7月中旬発売:Arai「ASTRO-GX BEYOND」 アライヘルメットの街乗りからツーリング、サーキット走行まで幅広くカバーするオールラウンドフルフェイスヘルメット「ASTRO-GX(アストロGX[…]
【特集】黙ってZ/Ninjaに乗れ!!(動画付き) 1970~80年代直4カワサキイズム 屹立したシリンダーヘッドから連なる4本のエキゾーストパイプ。 いつの時代もライダーの心を熱くする“カワサキの直[…]
ニューカラーをまとった2026年最新トラをチェック プレミアム志向の輸入ブランドとしても、国内でも地位を確立した感のあるトライアンフ。その2026年モデルが、ニューカラーをまとって出そろった。 話題の[…]
1位:ワークマン「ペルチェベストPRO2」使用レビュー ワークマンの「ペルチェベストPRO2」を猛暑日で徹底検証。最新モデルはペルチェデバイスの数が昨年モデルの3個から合計5個に増加し、バッテリーもコ[…]
7月上旬発売:ヒョースン「GV125Xロードスター」 ヒョースンモーター・ジャパンから、原付二種クラスに新型クルーザー「GV125Xロードスター」が投入される。発売は2025年7月上旬から日本国内向け[…]
人気記事ランキング(全体)
電子制御スロットルにアナログなワイヤーを遣うベテラン勢 最近のMotoGPでちょっと話題になったのが、電子制御スロットルだ。電制スロットルは、もはやスイッチ。スロットルレバーの開け閉めを角度センサーが[…]
勝手に妄想、クーリーレプリカ! スズキの『8』プラットフォームに新顔の「GSX-8T」と「GSX-8TT」が登場した。まずは欧州や北米で発売され、順次日本にも導入の見込みだ。 この新型については以前ヤ[…]
美しい孔雀の羽根の色味が変わる特殊ペイントで仕上げた新グラフィック 『エクシード-2』は、カブトがラインナップするオープンフェイスの上級モデルで、赤外線(IR)と紫外線(UV)を大幅にカットしつつ、空[…]
ホンダのスポーツバイク原点、CB72とマン島T.T.イメージを詰め込んだクラブマンだった! ご存じGB250クラブマンは1983年の12月にリリース。同じ年の4月にデビューしたベースモデルのCBX25[…]
手軽な快速ファイター 1989年以降、400ccを中心にネイキッドブームが到来。250でもレプリカの直4エンジンを活用した数々のモデルが生み出された。中低速寄りに調教した心臓を専用フレームに積み、扱い[…]
最新の投稿記事(全体)
決勝で100%の走りはしない 前回、僕が現役時代にもっとも意識していたのは転ばないこと、100%の走りをすることで転倒のリスクが高まるなら、90%の走りで転倒のリスクをできるだけ抑えたいと考えていたこ[…]
ホンダ・スズキと同じく、浜松で創業した丸正自動車製造 中京地区と同様に、戦後間もなくからオートバイメーカーが乱立した浜松とその周辺。世界的メーカーに飛躍して今に続くホンダ、スズキ、ヤマハの3社が生まれ[…]
先の道行きが想定しやすい縦型モニター 2023年発売のAIO-5を皮切りに、だんだんと普及しつつあるバイク用スマートモニター。これまでは横型の表示が多かったが、このたびMAXWINから縦型モニタータイ[…]
輝く青と深緑、艶消し黒の3色に刷新 スズキは、400ccクラスのビッグスクーター「バーグマン400」にニューカラーを導入、2025年7月18日に発売する。 深緑の『パールマットシャドウグリーン』にはゴ[…]
7月中旬発売:Arai「ASTRO-GX BEYOND」 アライヘルメットの街乗りからツーリング、サーキット走行まで幅広くカバーするオールラウンドフルフェイスヘルメット「ASTRO-GX(アストロGX[…]
- 1
- 2