
近年の125ccクラスでは、ホンダのクラシックウイングマークシリーズが大人気を獲得している。当記事ではその理由に注目しつつ、かつてのレジャーバイク市場を牽引したモンキー&ゴリラとダックスの素性を振り返ってみたい。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 ●外部リンク:ホンダコレクションホール ※記事内の展示内容はリニューアル前のもの
長い歴史と抜群の知名度
日本の2輪業界では、ある分野でエポックメイキングなモデルが登場すると、他メーカーが似て非なる車両で追随・対抗するのが昔から通例になっている。もっとも一昔前と比べれば、最近は明らかな追随・対抗を感じる車両は少なくなったのだけれど、例えば2010年以降のホンダCBR250R/RR、ヤマハYZF-R25、スズキGSX250Rは、2008年からカワサキが発売したニンジャ250/Rの大成功を抜きにして語れないモデルだろう。
スーパーカブの原点にして、ホンダ製水平(実際のシリンダー前傾角は80度)単気筒の第1号車。現代のスーパーカブC125は、このモデルをモチーフにしている。
そしてそういう視点で考えてみると、なかなか興味深いのが現代の125ccネオクラシック・レジャーバイク市場だ。2023年末にヤマハが東南アジア市場向けとして、どことなくクラシックテイストのPG-1を発売したものの、このジャンルはモンキーやダックス、スーパーカブC125、CT125ハンターカブを擁する、ホンダのほぼ独壇場になっているのだから。ではどうして、他メーカーがこのジャンルに積極的な姿勢を示さないのかと言うと……。
1961年型C100Tに端を発するハンターカブシリーズには、さまざまな仕様が存在する。現代のCT125のルーツは、1981~2012年に生産されたCT110。
ネームバリューという面で、ホンダに太刀打ちできないからではないだろうか。何と言っても、モンキーとスーパーカブシリーズは60年以上も生産が続いているし、かつてのダックスはトータルで約15年、ハンターカブには約50年に及ぶ歴史があるのだから。つまり、大昔から長きに渡って力を入れ続けてきたぶん、ホンダのレジャーバイクとスーパーカブシリーズの知名度は抜群で、そういったモデルが財産になっているからこそ、近年の同社は125ccクラスで我が世の春を謳歌しているのだ。
ライバル勢のレジャーバイク
1970~1980年代初頭のヤマハは、DTシリーズの縮小版と言うべき2スト単気筒トレール車のミニトレシリーズを展開。初期のFTのタイヤサイズは前後15インチだったものの、1972年以降のGTはF:15/R:14インチ。
もっともかつてのレジャーバイク市場を振り返れば、ヤマハにはミニトレシリーズやジッピイ、ボビー、ポッケ、フォーゲルなどが存在したし、スズキはバンバンやホッパー、エポ、マメタン、ミニタン、カワサキはKV75やAV50などを販売していた。とはいえ、それらの知名度がどのくらいか、復活を待ち望んでいる人がどのくらいいるのかと言うと、なかなか微妙なところだと思う。あえて言うなら、生産期間が長かったミニトレシリーズとバンバンには可能性がありそうだけれど、それでも前述したホンダ車ほどの人気を獲得するのは難しそうである。
スズキが1971年から発売を開始したバンバンシリーズの特徴は、前後とも同サイズの低圧バルーンタイヤ(50のサイズは5.40-10)。50/75/90ccモデルの2スト単気筒エンジンは、ビジネス車のK90をベースとしていた。
さて、前フリが長くなったが、当記事ではホンダ製レジャーバイクの黎明期を支えたモデルを中心にして、2023年夏の取材時にモビリティリゾートもてぎ内のホンダコレクションホールに展示されていた6台を紹介しよう。
モンキーZ100[1961]
モンキーZ100[1961]
1961年に登場したZ100は、ホンダ製レジャーバイクの原点にしてモンキーシリーズの第1号車。ただし当時の車名はモンキーではなく、モンキーオート、モンキーバイクなどと呼ばれていたため、Z100はあくまでもルーツという見方が昨今では一般的になっている。基本的には東京都日野市に存在した遊園地、多摩テックの遊具として開発されたものの、1962年末からは海外への輸出を開始。4ストOHV単気筒エンジンと自動遠心クラッチ+3段ミッションはスーパーカブC100がベースで、フレームは専用設計。前後タイヤは5インチで、サスペンションは装備しない。三角形の燃料タンクは樹脂製だ。
モンキーZ100[1961]
モンキーCZ100[1963]
モンキーCZ100[1963]
スポーツカブC111/115から転用した容量6ℓのガソリンタンクが目を引くCZ100だが、フレームやライポジ関連パーツなども新規開発で、アップマフラーの排気口はZ100と同様に左に設置。気化器はスーパーカブの構造を転用する形で、シリーズ唯一のダウンドラフト式キャブレターを採用。海外では公道走行可能なモデルとして販売されたが、日本では依然として遊戯用。ただし多摩テックに加えて、生駒テックや鈴鹿サーキット内の遊園地でも活躍した。
モンキーCZ100[1963]
モンキーZ50M[1967]
モンキーZ50M[1967]
1967年にデビューしたZ50Mは、日本でも公道走行を前提としたモデルとして販売。ハンドルが折りたためることは既存のモデルと同様でも、Z100とCZ100が左右幅しか短縮できなかったのとは異なり、4輪車への積載性を重視するZ50M以降は上下寸法も短縮することが可能になった。容量2.5ℓのガソリンタンクは新規開発で、エンジンは同時代のスーパーカブC65系に準じる形で動弁系をOHC化。前後5インチのタイヤはブロックパターンを採用。なおモンキーは後に〇周年モデルが数多く登場するが、ホンダがその起点としているのはZ50Mである。
モンキーZ50M[1967]
ダックスST50[1967]
ダックスST50[1967]
Z50Mでライポジの大柄化を図りつつも、当初の子供用という発想からなかなか脱却できなかったモンキーとは異なり、ホンダのレジャーバイク第2弾となるダックスは、大人も楽しめることを前提に開発。フレームはプレスバックボーンで、エンジンはスーパーカブC65系がベース。組み立て式ホイールは前後10インチ(同年のモンキーZ50Aは前後8インチ)。なおモンキーがサスペンションを導入するのは、フロント:1970年型、リア:1974年型からだが、ダックスは当初からテレスコピック式フォークとスイングアーム+ツインショックを採用していた。ハンドルの折りたたみ機構はZ50Mの手法を踏襲。
ダックスST50[1967]
ゴリラZ50J-Z-3[1978]
ゴリラZ50J-Z-3[1978]
容量9ℓのガソリンタンクや前後に長いシート、リアに加えてフロントにもキャリアを装備する一方で、ハンドルの折りたたみ機構を省略したゴリラは、モンキーのツーリング仕様。ただし、同年のモンキーZ50J-Zがティアドロッップタンク(容量5ℓ)+サドルシートのアメリカンスタイルに舵を切ったことを考えると、ゴリラはヨーロピアン仕様と言えなくもない。1977年以前のモンキーが自動遠心クラッチ+3速ミッションだったのに対して、ゴリラはマニュアル式+クラッチ+4速ミッションで、後にモンキーもゴリラと同形式が選択できるようになった。
モンキーZ50J-Z[1978]
モンキーR[1987]
モンキーR[1987]
1987年3月にデビューしたモンキーRは、モンキーの派生機種と言うより、同年6月に登場したNSR50の4スト仕様?と言いたくなる構成。フレームはスチール製ツインスパーで、ホンダ独自のコムキャストホイールは前後10インチ。フロントブレーキは油圧式ディスク、ハンドルはスワロータイプを採用。スーパーカブC50E系がベースのエンジンは、同時代のモンキー+1.4psとなる4.5psを発揮。1988年にはオフロード指向のRTが追加された。
モンキーR[1987]
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