
モビリティリゾートもてぎ内のホンダコレクションホールでは、2023年7月22日からMotoGP日本グランプリの決勝レース日となる10月1日まで、「二輪世界グランプリ Garage Collection」を開催している。今回はその特別展示の中から、1986~2002年のNSR500を紹介しよう。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 ●取材協力:ホンダコレクションホール
驚異の6連覇と全戦全勝
デビューイヤーの1984年こそ王座を逃したものの、以後は10回のチャンピオンを獲得し、1994~1999年にはシリーズ6連覇、1997年には全15戦全勝という偉業を成し遂げたNSR500。18年に渡って活躍したこのモデルは、アップサイドダウンレイアウトの初代(1984年)、オーソドックスな構成となった2代目(1985~1986年)、2ストV4エンジンのシリンダー挟み角を90→112度に改めた3代目(1987年~)、という3種に大別できるのだが……。
1991 NV0K ミック・ドゥーハン
1989年にロスマンズホンダに加入したミック・ドゥーハンは、1990年第14戦で初優勝を飾り、1991年は3勝を挙げてシリーズランキング2位を獲得。
1987年以降の2スト112度V4は、吸排気系のレイアウトがYZR500やRGV-Γと同様になったものの(キャブレターはVバンク間に配置)、ライバル勢の2軸クランクに対して、NSR500は一貫して1軸クランクを採用。
もちろんその分類は大雑把すぎで、1988年以降も数限りない改良が行われている。中でも画期的だったのは、当初の90度等間隔爆発から、1990~1991年の180度等間隔同爆を経て、1992年から採用された68度不等間隔近接同爆で、“ビッグバン”と命名されたこの爆発タイミングは、後に他メーカーのGP500マシンも追随することとなった。
2000 NV0Z アレックス・クリビーレ
1999年に世界GP500チャンピオンとなったアレックス・クリビーレだが、翌2000年は1勝しか挙げることができず、シリーズランキングは9位に低迷。
なお「二輪世界グランプリ Garage Collection」の特別展示は7台のみだが、一般展示スペースには1985年のフレディ・スペンサー車や1987年のワイン・ガードーナー車、1989年のエディ・ローソン車、1995/1997年のミック・ドゥーハン車などを含めて、常時10台前後のNSR500が並んでいる(ただし、展示車両は定期的に入れ替え)。
1990 NV0H ワイン・ガードナー
同時代のGP500マシンでは貴重だった90度等間隔爆発を止め、ライバル勢と同じ180度等間隔同爆を採用した1990年型NSR500は、最高出力が前年の165→174psに向上。ただしこの年の世界GP500の主役は、ウェインレイニー+YZR500とケビン・シュワンツ+RGV-Γで、ホンダ勢のシリーズランキングは、エースのワイン・ガードナーが5位、ワークス2年目のミック・ドゥーハンが3位だった。
耐久レーサーRVFの技術を転用する形で、1990年型は穴開きカウルを導入。ただしGP500ではメリットがあまり感じられなかったようで、使用は限定的だった。
長きに渡ってニッシンのブレーキキャリパーを使用してきたホンダのGP500レーサーだが、1990年型のフロント用は、APロッキード、HRC、ブレンボの3種を使用。翌年からはブレンボが定番になった。
1994 NV0S ミック・ドゥーハン
ロスマンズのスポンサードを失った1994年のホンダワークスは、HRCカラーで参戦(レプソルとの契約は1995年から)。1992年型を起点にして堅実な熟成を続けてきたNSR500を駆るミック・ドゥーハンが、2位のルカ・カダローラ+YZR500に143ポイントもの大差をつけ、自身にとって初となる世界GP500チャンピオンを獲得した。
1992年の転倒・負傷で右足の自由が利かなくなったため、1993年以降のミック・ドゥーハン車はクラッチレバーの下に、左手親指でリアブレーキを操作するレバーを設置。
1994年以降のミック・ドゥーハン車は、リアブレーキペダルを撤去。なお左右非対称スイングアームの採用は1988年からで、フロントバンクのチャンバーが右2本出しになったのは1989年から。
1999 NV0Z アレックス・クリビーレ
絶対的王者のミック・ドゥーハンが不確定要素を嫌う慎重派だったため、1997年に爆発タイミングをビッグバンからスクリーマー:180度等間隔同爆に戻したこと以外は、1995~1999年のNSR500には大きな進化が無かった。ただし20世紀末になっても戦闘力の高さは健在で、ミック・ドゥーハンが第4戦以降を欠場した1999年は、アレックス・クリビーレがスぺイン人初の世界GP500王座を獲得。
2001 NV4B バレンティーノ・ロッシ
アルミツインスパーフレーム+1軸2スト112度V4という構成に変化はなかったものの、GP500最終年のNSR500は全面的な改革を敢行。骨格はしなやかさを意識した設計で、NSR250の技術を転用したエンジンは182.2psをマーク。そしてこのマシンを王座に導いたのは、アプリリアから移籍して2年目のバレンティーロ・ロッシだった。
ガソリンタンク上面の前部に描かれたプレイステーション用のDUALSHOCKコントローラーからは、ロッシの遊び心が伝わって来る。この時代のグリップラバーは、いわゆる“ロッシグリップ”ではなく、細身のTZタイプ。
2000年型以前ではメインラジエターの下に間隔を開けて設置していたサブラジエターは、2001年型でエンジン下部に移設。
2002 NV4C 加藤大治郎
MotoGP初年度となる2002年、言うまでもなくホンダワークスのメイン機種は4ストV型5気筒のRC211Vだった。とはいえ、NSR500の開発も継続。フレーム+スイングアームは剛性バランスを改めた新作で、加藤大治郎に供給した特別仕様のエンジンは195ps前後を発揮。
外装類はすべて新作で、ラムエアダクトはM字型に変更。なお2002年のNSR500のベストリザルトは、加藤大治郎が記録した第3戦の2位。
2001年型のスイングアーム左側が角パイプ+プレス成型材だったのに対して、2002年型はほぼすべてをプレス成型材で構成。
二輪世界グランプリ Garage Collection 開催概要
開催日時 | 2023年7/22(土)~10/1(日) |
開催場所 | ホンダコレクションホール 2階・3階中央エリア(モビリティリゾートもてぎ内) |
開館時間 | 9:30~18:00(季節や曜日によって異なる場合があります) |
料金 | 無料(モビリティリゾートもてぎの入場料・駐車料は別途かかります) |
モビリティリゾートもてぎ ■〒321-3597 栃木県芳賀郡茂木町桧山120-1 ■Tel: 0285-64-0001(代表)
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
あなたにおすすめの関連記事
取材を忘れて、見入ってしまう迫力 モビリティリゾートもてぎ内のホンダコレクションホールでは、2023年7月22日からMotoGP日本グランプリの決勝レース日となる10月1日まで、「二輪世界グランプリ […]
前代未聞の機構が満載だった4ストロークV4エンジン 1970年代中盤以降の世界GP500では、長きに渡って王座に君臨してきた4スト3/4気筒のMVアグスタを退け、ヤマハとスズキの2スト4気筒が主役にな[…]
サイクロン号の写真をまとめて見る(東京MCショー展示車両アリ・全15点) モビリティリゾートもてぎは、同施設(栃木県・茂木町)内のホンダコレクションホールで、 2023年7月15日~9月3日の期間中、[…]
歴史的なモデルを眺めるだけでも楽しい!ヤマハ「コミュニケーションプラザ」 ヤマハの企業ミュージアム、「コミュニケーションプラザ」は、東京から240km、静岡県磐田市にある発動機二輪開発部門の建物に隣接[…]
テストできる機会をつくらなきゃ! "We need to organise a test" @marcmarquez93 on the NSR500, what do you think? そんな短い[…]
最新の関連記事(モトGP)
欲をかきすぎると自滅する 快進撃を続けている、ドゥカティ・レノボチームのマルク・マルケス。最強のライダーに最強のマシンを与えてしまったのですから、誰もが「こうなるだろうな……」と予想した通りのシーズン[…]
2ストGPマシン開発を決断、その僅か9ヶ月後にプロトは走り出した! ホンダは1967年に50cc、125cc、250cc、350cc、そして500ccクラスの5クラスでメーカータイトル全制覇の後、FI[…]
タイヤの内圧規定ってなんだ? 今シーズン、MotoGPクラスでたびたび話題になっているタイヤの「内圧規定」。MotoGPをTV観戦しているファンの方なら、この言葉を耳にしたことがあるでしょう。 ときに[…]
2009年に移籍したのに「GP8」にも乗っていた?! 2003年にホンダからモトGPにデビューしたニッキーでしたが、2009年にはドゥカティ・コルセへと移籍。2007年にケイシー・ストーナーがデスモセ[…]
「自分には自分にやり方がある」だけじゃない 前回に続き、MotoGP前半戦の振り返りです。今年、MotoGPにステップアップした小椋藍くんは、「あれ? 前からいたんだっけ?」と感じるぐらい、MotoG[…]
最新の関連記事(ホンダ [HONDA])
車重217kgに600ccクラスの動力性能 2週間前の9月2日に、欧州で「EV FUN Concept」の走行テスト映像を公開したばかりのホンダが、その量産バージョンのブランニューモデルを発表した。ホ[…]
日本仕様が出れば車名はスーパーフォアになるか ホンダの名車CB400スーパーフォアが生産終了になって今年ではや3年目。入れ替わるようにカワサキから直列4気筒を搭載する「Ninja ZX-4R」が登場し[…]
125ccクラス 軽さランキングTOP10 原付二種は免許取得のハードルも低く、手軽に楽しめる最高の相棒だ。とくに重要なのは「軽さ」だろう。軽ければ軽いほど、街中での取り回しは楽になるし、タイトなワイ[…]
両手を自由に使うことができる、新パーソナルモビリティ ホンダが2025年9月24日より、法人向けに販売を開始したのがパーソナルモビリティの「UNI-ONE(ユニワン)」です。 法律的には「移動用小型車[…]
新型CL500の進化が! 気がつけば長距離を走っているスクランブラー「CL500」がマイナーチェンジを果たして新登場します! ご存じかと思いますが、CLシリーズには250ccの「CL250」も存在しま[…]
人気記事ランキング(全体)
125ccクラス 軽さランキングTOP10 原付二種は免許取得のハードルも低く、手軽に楽しめる最高の相棒だ。とくに重要なのは「軽さ」だろう。軽ければ軽いほど、街中での取り回しは楽になるし、タイトなワイ[…]
コンパクトで使いやすいワイヤーロック ヘンリービギンズの「デイトナ ワイヤーロック DLK120」は、質量約90gの軽量設計で、ツーリング時の携行に適したポータブルロックです。ダイヤルロック式のため鍵[…]
日本仕様が出れば車名はスーパーフォアになるか ホンダの名車CB400スーパーフォアが生産終了になって今年ではや3年目。入れ替わるようにカワサキから直列4気筒を搭載する「Ninja ZX-4R」が登場し[…]
どうする? スクーターのエンジンがかからない ※これはまさに、筆者が直面した実話です。我が家のスクーター(TODAY)に乗ろうと思って、車庫から引っ張り出しました。ちょっと久しぶりですね。エンジンをか[…]
50レプリカのフルサイズからミニバイクレースを経てデフォルメフルサイズへ! VR46カラーのTZR50……実はヨーロッパで1997年から2012年まで生産されていたイタリアのミナレリ製エンジンで、現地[…]
最新の投稿記事(全体)
ライバルとは一線を画す独自の手法で効率を追求 妥協の気配が見当たらない。GS400のメカニズムを知れば、誰もがそう感じるだろう。 フレームはGS750と同様の本格的なダブルクレードルだし、気筒数が少な[…]
車重217kgに600ccクラスの動力性能 2週間前の9月2日に、欧州で「EV FUN Concept」の走行テスト映像を公開したばかりのホンダが、その量産バージョンのブランニューモデルを発表した。ホ[…]
250cc2気筒の水冷Newエンジンだけではないテクノロジーによる軽量化! 1980年、世界中を震撼させたRZ250がリリースされた。 排気ガス規制で1970年代中盤を過ぎると軽くてシンプルな高性能と[…]
PROGRIP専用の信頼接着剤 デイトナ(Daytona)の「グリップボンド PROGRIP 耐振ゲルタイプ専用 12g 93129」は、PROGRIP用に設計された専用接着剤です。容量は12gで、初[…]
日本仕様が出れば車名はスーパーフォアになるか ホンダの名車CB400スーパーフォアが生産終了になって今年ではや3年目。入れ替わるようにカワサキから直列4気筒を搭載する「Ninja ZX-4R」が登場し[…]
- 1
- 2