ブレーキングからコーナーエントリーにかけてがYZR-M1の強み。その特性を生かしながら混戦のレースを制するためには、最高速を伸ばすことが大きな課題だった。エンジンから空力パーツまで、すべてを見直した。
最高速、というひとつのキーワードだけを抽出しても、簡単に解決できる問題ではないことが分かる。現在のモトGPマシンはそれほど繊細なバランスの上に成り立っている。
しかし、「全体を見渡しながらバランスを取る」という物言いは、いかにも日本的だ。物事の安定を打ち破り、一定以上の勢いをつけて前進するためには、どうしてもバランスを崩す必要があるが、日本メーカーは「バランスを守りながらバランスを崩し、再びバランスを取る」という方策を選ぶ。つまりは慎重であり、これではどうしても時間がかかる。
ドゥカティがあれやこれやと新技術を投入し続け、短時間でものにしてしまったのとは対照的だ。
ここには、失敗をよしとしない日本人らしいメンタリティが横たわっているように見える。
スズキの佐原は、「ウチはファクトリーの2台のみでしたからね、サテライトチームを有する他メーカーのように、別の仕様を試すことはできません。だから確実にステップを踏むことはとても大事でした。
過去には十分な確認がないままにレースに新技術を投入して失敗した、というトラウマもあります。冒険をしないわけではありませんが、確実性を狙うのは確かですね。」
ホンダ・レーシング開発室長の桒田哲宏も、同じようなことを言う。「安全性や信頼性を確保するためには、どうしても時間がかかるんです。
例えば我々がいち早く採用したシームレス・トランスミッションなども、実は相当に時間をかけて開発しました。ミッションは、万一のことがあればライダーを直接的な危険にさらしてしまうものですからね。
安全を最優先する開発姿勢は、我々が決してなくしてはいけない、削ってはいけない部分だと捉えています。
安全性に関しては、過去に苦い思いもしています。そしてライダーたちは、生身で350km/hで走りながら戦ってくれている。余計な心配をかけないことも、重要な性能のひとつだと考えています。
絶対に大丈夫だというレベルまで仕上げてからレースに持ち込むから、どうしても時間がかかるんです」
過去にスズキのモトGP開発者たちが「石橋を叩いて渡らない、ということも多々ある」と話したものだが、革新的かつ独創的な技術の創出をモットーとしているホンダも、実はまったく同じ属性ということになる。
ヤマハの関も、「日本メーカーは信頼性重視、欧州メーカーはスピード重視という面は少なからずあると思います」と認める。
これはもはやレースエンジニアリングの話ではなく、メーカーとしての姿勢だ。私たちは、日本製バイクに対して揺るぎない信頼を感じる。それは日本メーカーが長年かけて培ってきたものだ。そして造るバイクが量産車だろうがモトGPマシンだろうが、まったく変わることなく適用されている。
だが、欧州メーカーの勢いに追いすがり、追い抜くためには、「レースはレース」という割り切りも必要だ。日本メーカーも、今のままでいいとは決して思っていない。
「開発スピードアップに対する意識が足りなかったのも事実。彼らが3か月で新技術を仕上げてくるなら、我々は今まで通りの信頼性や安全性を担保したうえで、同じ3か月、あるいは2か月半で仕上げるようにしなくてはいけない」とホンダの桒田。
ヤマハの関も「もう少しヨーロッパ的なアプローチをしてもいいのかもしれない。メンバーもそういうマインドになりつつあります」と言う。
レースの現場から、日本メーカーのあり方そのものが変わっていく可能性はある。
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
あなたにおすすめの関連記事
今年はシーズン前テストから快調なバニャイア ポルトガル・ポルティマオサーキットでのMotoGP公式テストが行われました。これで開幕前のテストは終了。昨年末のバレンシア、今年2月のマレーシア、そして今回[…]
いいかい? バイクには慣性モーメントが働くんだ 矢継ぎ早に放たれるフレディ・スペンサーの言葉が、 ライディングの真実を語ろうとする熱意によって華やかに彩られる。 めまぐるしく変わる表情。ノートいっぱい[…]
僕のおばあちゃんでも乗れるよ(笑) シニカルな笑顔を浮かべながら、決して多くはない言葉を放り投げてくる。 偽りのない率直な言葉は柔らかい放物線を描き、心の奥まで染み渡る。 かつて4度世界王者になったエ[…]
すごく簡単だったよ、ダートでの走行に比べればね 恐るべき精神力の持ち主。度重なる大ケガから不死鳥のように復活し、強力なライバルがひしめく中、5連覇の偉業を成し遂げた。タフな男の言葉は、意外なほど平易だ[…]
ひとたびこの乗り物を愛し、ライディングを愛してしまったら、もう戻れない この男が「キング」と称されるのは、世界GPで3連覇を達成したからではない。 ロードレースに革新的なライディングスタイルを持ち込ん[…]
最新の関連記事(モトGP)
全クラス制覇から常勝への軌跡 創業者の本田宗一郎が1954年にマン島TTレースに出場宣言。59年に125クラスに初参戦し、6位・7位・8位に入る快挙を成し遂げ、ここから世界GPに本格参戦。なんと196[…]
GPライダー×白バイチャンピオン×バイク女子 ライダーなら誰もが知る「大人のバイク時間 MOTORISE」は、元MotoGPライダーの中野真矢さんがメインパーソナリティ(ナビゲーター)を務める、BS1[…]
アラゴンGPで圧倒的な強さを見せて完全復活を果たしたマルク・マルケス選手。自身の好調さを証明しつつも、実は怪我で離脱中の小椋藍を密かにライバル視している。完全復活を遂げた王者が、若き挑戦者との直接対決[…]
欠場も焦る必要なし!年間最多レース時代に求められる戦い方 MotoGP第12戦イギリスGPで、小椋藍選手(SuperFile Trackhouse MotoGP Team)が転倒、リタイヤを喫しました[…]
まるでピットクルー。サーキットの熱気を感じる本格派:2026 MotoGP Team ポロシャツ ヤマハファクトリーチームが着用するポロシャツのレプリカモデル。「Monster Energy Yama[…]
最新の関連記事(レース)
世代交代の象徴となったロッシの優勝 ヴァレンティーノ・ロッシが17歳という若さで、初めてWGPにデビューしたのが1996年のこと。アプリリアのファクトリーライダーとして前述のRS125Rでフル参戦。マ[…]
全クラス制覇から常勝への軌跡 創業者の本田宗一郎が1954年にマン島TTレースに出場宣言。59年に125クラスに初参戦し、6位・7位・8位に入る快挙を成し遂げ、ここから世界GPに本格参戦。なんと196[…]
1ヶ月早い開催が招いた雨のドラマ。絶対王者HRCと迫るYAMAHA、BMWの表彰台争い 2026年の鈴鹿8耐(第47回大会)は、例年より約1ヶ月早い「7月上旬」という超異例のスケジュールで幕を開けた。[…]
不等間隔爆発とスロットルシンクロが生み出す極限のリニアトルク YZF-R1は、1998年に欧州仕様の販売を開始して以来、スーパースポーツカテゴリーを牽引してきたヤマハモーターサイクルのフラッグシップモ[…]
パンアメリカでのレースは今回が初参戦。それでも決勝では見事なスタートを決め、ホールショットを奪った。 ハーレーダビッドソン高崎の経営母体であるヤナセオート。そのスタッフである“抹茶いぬ”こと越山大地さ[…]
人気記事ランキング(全体)
1台を徹底して「自己管理」する過酷な現実と、新人が直面する洗車の掟 公道を颯爽と駆け抜ける白バイ。その輝くボディは、専門業者が完璧にメンテナンスしているように見えるかもしれない。しかし、その裏にあるの[…]
レーシングDNAと匠の技術革新!両社が誇る真の強みとは ドゥカティは1926年にイタリアのボローニャで創業し、MotoGPやWorldSBKといった最高峰レースで数々のタイトルを獲得してきた、モーター[…]
シリーズ累計5700万部突破!猫猫の「毒と薬」の魔力が現代の読者を惹きつける 架空の中華風帝国「茘(リー)」を舞台に、後宮の薬師・猫猫(マオマオ)が、美形の宦官・壬氏(ジンシ)に翻弄されつつ、王宮の事[…]
気が付けば18万キロ 車に使っているスパークプラグ「イリジウムプラグ」って、すっごい長寿命じゃないですか。期間が空いてしまうので、ついついチェックするのを忘れていて、車検のたびに思い出してはいたのです[…]
スズキが放つ異色のゲームコンテストが始動 スズキは、ビジュアルプログラミングアプリ「スプリンギン」を展開するしくみデザインとタッグを組み、「第3回SUZUKI×Springin’コンテスト」の開催を発[…]
最新の投稿記事(全体)
東京・大阪の主要駅に「バリ伝」巨大広告が出現! 今回のCM、ただのコラボだと高を括っていると度肝を抜かれる。なんと、作中の熱気あふれる原画カットと、筑波サーキット(コース2000)で撮影されたリアルな[…]
理想を追い続けるヒーロー。10年の歴史を紡いだ『ヒロアカ』の圧倒的な魅力 『週刊少年ジャンプ』にて2014年から2024年まで連載され、世界総人口の約8割が超常能力“個性”を持つ超人社会を描いた『僕の[…]
名神高速ICからすぐ!京都・東山の観光拠点として絶好のロケーション 高速道路を走り抜け、京都の街へ降り立つライダーにとって、宿までのアクセスの良さは重要なポイントだ。「COCO VILLA 京都清水寺[…]
XG750Rがダートラで躍動! ハーレーダビッドソンは、伝統あるダートトラック全米選手権「Mission AFT SuperTwins(ミッションAFTスーパーツインズ)」において、2026年シーズン[…]
ダカールラリー直系の設計思想!ファクトリービルドで誕生した本格ラリーマシン 世界で最も過酷なラリーレイドであるダカールラリーにおいて、数々の金字塔を打ち立ててきたKTM。これまで多くのプライベーターや[…]







































