究極のレースだからこそ安全性と信頼性が欠かせない
【2022 Yamaha YZR-M1】強みを維持しながら弱点をつぶすという難題──
2022 Yamaha Rider’s Result
ファビオ・クアルタラロ(Fabio Quartararo)予選最高位:ポールポジション/決勝最高位:優勝3回(2位4回/3位1回)/ランキング:2位
フランコ・モルビデリ(Franco Morbidelli)予選最高位:7位/決勝最高位:7位/ランキング:19位
アンドレア・ドヴィツィオーゾ(Andrea Dobizioso)予選最高位:15位/決勝最高位:11位/ランキング:21位 ※14戦出場
ダリン・ビンダー(Darryn Binder)予選最高位:18位/決勝最高位:10位/ランキング:24位
カル・クラッチロー(Cal Crutchlow)予選最高位:15位/決勝最高位:12位/ランキング:25位 ※6戦出場
’22年は、アプリリアがファクトリー参戦を開始した年でもある。これによって、ヤマハ、ホンダ、スズキの日本勢、ドゥカティ、KTM、アプリリアの欧州勢という、3対3の勢力図ができあがった。
「勢」とは言うものの、もちろん結託しているわけではない。各メーカーはそれぞれタイトルをめざして完全に独立しており、ライバル関係にある。
だが、日本という極東の島国の3メーカーのモトGPの戦い方は、やはり日本の風土、日本の文化に深く根ざしており、よくも悪くもそこから逃れることはできない。
ヤマハ、ホンダ、そしてスズキのエンジニアに’22シーズンを振り返ってもらうと、まるでひとつのメーカーに話を聞いているかのように共通したことを言う場面に遭遇する。
ヤマハ発動機 MS統括部MS開発部 フランコ・モルビデリ サポートエンジニア 星野仁氏(左)/テクニカルマネージャー 関和俊氏(中央)/ファビオ・クアルタラロ サポートエンジニア 矢田真也氏(右)
ヤマハ・モトGPプロジェクトリーダーの関和俊は、「タイトルを逃してしまった’22シーズンになりましたが、ものすごく悲惨だったというわけでもないのかな、と思っています」と言った。
ただ、クアルタラロに与えることができた勝ちパターンが、先行逃げ切りだけだったのも確かだ。その原因は、主には最高速不足とされた。
逆に、スズキGSX-RRは「最高速が伸びた」と言われた。コーナーで抜いてもストレートで抜き返されない力強さを得て、レースの組み立てに自由度を与えたし、エンジンパワーでは定評があるドゥカティをストレートでパスするシーンまでも見られた。
最高速と聞くと、シンプルにエンジンパワーの問題のようにも聞こえる。モトGPライダーも「パワー不足」という分かりやすい言い方をするし、ストレートが極端に長いサーキットでは、エンジンパワーが直接利いてくるのも事実だ。
だが、あらゆるサーキットでまんべんなく高いパフォーマンスを発揮することを狙うエンジニアの立場からすると、話はそう簡単ではない。
例えば、コーナーの脱出速度の高低はもちろん最高速に影響するが、これにはエンジン出力のみならず、過渡特性、電子制御、さらには車体によるトラクション、リヤタイヤの使いこなし、そして昨今では空力パーツやライドハイトデバイスと呼ばれる走行中に車高調整機構までもが深く関わってくる。
また、ブレーキングを奥まで突っ込むことができる強いフロントまわりを有する車体なら、それだけ加速時間を長く取れるので、最高速が高まるとも言える。
そして、ややこしくてもどかしいことに、ほとんどすべての要素は複雑に絡み合い、しかもその多くは相反するのだ。あちらを立てればこちらが立たず、という難しいイタチごっこの中で、どうにか全体的な底上げを達成しなければならない。
ここで登場するのが、「バランス」だ。これはもう金科玉条のごとく、日本人モトGPエンジニアたちの口から放たれる言葉である。
河内が、日欧メーカーの立ち位置も踏まえながら、こう説明する。「欧州メーカーはアグレッシブに開発して、日本メーカーは慎重すぎて調子を崩している……と言われることが多いんですが、今のモトGPマシンってすごく繊細なんですよね。新技術を何でもかんでも突っ込んで結果が出るような甘いものではないので、 慎重さは常に大事だと思っていました。
GSX-RRも’21年型と’22年型で見た目はほとんど変わっていませんが、見えない部分でひとつひとつバランスを見ながら検証し、アップデートされています。
何かを変えればそれに合わせて他の部分も調整しなければならない。そうやって確実に積み重ねていかないと、どこで調子を崩すか分かりません。だから、慎重すぎたという反省は、僕はありません」
’22年末にヤマハが開催した合同記者会見で、「最高速不足の具体的な原因は何か。車両の基本レイアウトなのか、エンジンそのものなのか、制御系なのか……」と問われた関も、こう答えている。
「おっしゃられたことのすべてに原因があると思います。それらひとつひとつの要素のすべてをよくしていった時に、最高速も向上する。どこかだけでクリアできる問題ではありません。
例えば、サイドポッドを取ってしまえば(空気抵抗が減って)最高速は上がりますが、失うものも多い。トータルでどうすればベストかということを考えなければなりません。単純に最高速だけでドゥカティを凌駕することをめざしても、他のバランスが崩れてしまっては意味がない。
ドゥカティだって、直線では速かったけれど勝てなかった時期を経て、彼らなりにバランスを作り込んで、今の状態になっているわけですしね」
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
あなたにおすすめの関連記事
今年はシーズン前テストから快調なバニャイア ポルトガル・ポルティマオサーキットでのMotoGP公式テストが行われました。これで開幕前のテストは終了。昨年末のバレンシア、今年2月のマレーシア、そして今回[…]
いいかい? バイクには慣性モーメントが働くんだ 矢継ぎ早に放たれるフレディ・スペンサーの言葉が、 ライディングの真実を語ろうとする熱意によって華やかに彩られる。 めまぐるしく変わる表情。ノートいっぱい[…]
僕のおばあちゃんでも乗れるよ(笑) シニカルな笑顔を浮かべながら、決して多くはない言葉を放り投げてくる。 偽りのない率直な言葉は柔らかい放物線を描き、心の奥まで染み渡る。 かつて4度世界王者になったエ[…]
すごく簡単だったよ、ダートでの走行に比べればね 恐るべき精神力の持ち主。度重なる大ケガから不死鳥のように復活し、強力なライバルがひしめく中、5連覇の偉業を成し遂げた。タフな男の言葉は、意外なほど平易だ[…]
ひとたびこの乗り物を愛し、ライディングを愛してしまったら、もう戻れない この男が「キング」と称されるのは、世界GPで3連覇を達成したからではない。 ロードレースに革新的なライディングスタイルを持ち込ん[…]
最新の関連記事(モトGP)
「なんでマルケスなの!?」「んー、あー……」 来シーズン、ドゥカティ・ファクトリー入りが確実視されていたホルヘ・マルティンがまさかのアプリリアに移籍。そのシートには、マルク・マルケスが……。 26歳で[…]
GPライダーの参戦はやっぱり盛り上がる! いよいよ鈴鹿8耐が近付いてきました! 7月19~21日に行われる国内最大の2輪レース、8耐は、今年もいろんな話題を振りまいています。 MotoGPファンの方た[…]
好不調の波も全体に底上げしたバニャイア フランチェスコ・バニャイアが、ついにゾーンに入ってしまったようだ。先だってのMotoGP第8戦オランダGPで、その印象をますます強くした。 いつも落ち着いた印象[…]
どんなことでもレースになる、あなたに競争力があるならね! レーシングスーツに着替え、ブーツとグローブ、そしてヘルメットまでフル着用。シロートライダーならのんびり5分くらいは余裕を持っておきたいところだ[…]
チャンピオンを獲る、それだけじゃない 前回のコラムで書いたマルク・マルケスに押し出される形で、来季はアプリリアに移籍することになったのが、ホルヘ・マルティンです。ここ1、2年の躍進ぶりを見れば、間違い[…]
最新の関連記事(レース)
車両メーカー ヨシムラジャパン I’ve Got The Power! 2017/18および2022年のEWCチャンピオン TSR 鈴鹿8耐17連覇を狙うブリヂストン オーヴァーレーシング 黄色いテン[…]
カーボンニュートラル時代にエンジンを残す 今回、鈴鹿で走行シーンを公開したのはニンジャH2 SXがベースの研究車両(車名は未定)。カーボンニュートラルに電動だけでなく、さまざまな選択肢を用意して対応し[…]
鈴鹿18耐、24耐、そして熾烈を極める8耐へ ライダーにとって夏の風物詩のひとつとなっている「鈴鹿8時間耐久レース」。私はもう数十年は行っていないので、思い浮かぶのは遠い日の風景ばかり。今年もウェブで[…]
現役のMotoGPトップライダーが参戦! 今年も熱い鈴鹿の時期がやってきた! 今回は観戦する際の予習として、ヤングマシン編集部が選ぶ今大会の見どころを5つピックアップしてみたぞ。これだけ知っておけば、[…]
またがりバイク展示やトークショー、グッズ販売など スズキは、鈴鹿8耐スペシャルサイトを随時更新。その中で、2024年7月19日(金)から21日(日)のレースウィークに出展されるスズキブースのコンテンツ[…]
人気記事ランキング(全体)
メーター読み145km/hが可能なYZF-R15 高速道路も走れる軽二輪クラス。排気量で余裕のあるYZF-R25が有利なのは当たり前である。ただR25とYZF-R15の比較試乗と聞いて誰もが気になるの[…]
1分でわかる記事ダイジェスト 「腐ったガソリン」とは、どんな状態のこと? 時間経過とともに燃料の品質が低下して変質したガソリン。放置すると、ドロドロを通り越してガム状の固形物へと変化。軽度の劣化であれ[…]
通勤エクスプレスには低価格も重要項目! 日常ユースに最適で、通勤/通学やちょっとした買い物、なんならツーリングも使えるのが原付二種(51~125cc)スクーター。AT小型限定普通二輪免許で運転できる気[…]
バイクに積載義務のあるものとは? 車検証や自賠責保険証等の書類 積載義務違反で重い罰則が科せられるものの代表は“書類”です。バイクには使用時に以下の書類を備え付けなくてはなりません。 車両登録書(車検[…]
アクスルシャフト位置がピタリと決まる! “お助けリフターA”はリヤタイヤ着脱の必須アイテム リンクまわりの清掃やハブダンパーのチェックなど、リヤタイヤを外せばできると分かっていても、「タイヤの着脱が面[…]
最新の投稿記事(全体)
押し引きで熱い! 座ると熱い! そんなシートの熱さをどうにかしたい… ツーリングや街乗りにかかわらず、真夏のバイクは炎天下に駐輪していた後に触るのが最初の大きな関門になる。押し引きでシートに触れば手の[…]
ポイントはリヤタイヤと床面との空間。リフト量が少ないほどスタンド操作が軽く車体も安定する ガレージやサーキットのパドックで、バイクにスタンドをかけた状態で前後左右自由に移動できるのが、ガレージREVO[…]
SHISEIDO(資生堂) クリアサンケアスティック 日焼け対策といえば、まずは日焼け止めを塗ることが何より大切です。日焼け止めと言ってもさまざまな種類がラインナップされていますが、昨今人気を集めてい[…]
サンダルでの運転はダメ…では、半袖半ズボンのようなラフな格好は? たとえば、頭の蒸れが気になったからとヘルメットを脱いでしまった場合、乗車用ヘルメット着用義務違反が適用され、違反点数1点が科されます。[…]
メーター読み145km/hが可能なYZF-R15 高速道路も走れる軽二輪クラス。排気量で余裕のあるYZF-R25が有利なのは当たり前である。ただR25とYZF-R15の比較試乗と聞いて誰もが気になるの[…]