人生論的WGP500王者インタビュー⑥総括

5人の傑物が示した指標

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5人のWGP500王者との直接インタビューを終えたライター・高橋 剛が、そこで浴びた強烈なまでのエネルギー波を、闘う漢達の明日への活力へと変換する?!


●インタビュー:高橋 剛 ●インタビュー撮影:真弓悟史/鶴身 健 ●レース写真:HRC/ヤマハ発動機/YMアーカイブス ●取材協力:株式会社モビリティランド/本田技研工業株式会社/ヤマハ発動機株式会社 ※この記事はヤングマシン’12年11月号に掲載された記事を一部再編集したものです。


濃密などという生ぬるい言葉では済まされない時間。 岩に向かって突進するかのような屈強な手応え。 単語のひとつひとつが、圧倒的な説得力で迫る。 5人の王者たちからとめどなくあふれ出るエネルギーは、 永遠に混じり合うことのない原色だった。

5人と過ごした時間は僕をぺちゃんこにした

まだ暗い早朝──。

東名高速下り線は、東京料金所の手前で車両の横転事故が発生したばかりだった。交通は完全にストップし、ヘッドライトとテールランプで賑わう本線は、まるで繁華街のように華やいでいた。

渋滞の車列をかいくぐり、サイレンを鳴らしながら緊急車両がひっきりなしに現場に向かう。いつ事故車両が処理され、いつ動き出すのかまったく分からない。

ハンドルを握る編集者が、しきりと時計に目をやる。慌てることのない彼にしては珍しく、「間に合うかなあ」「どうしよう」とつぶやいている。 目的地──王者たちが集う鈴鹿サーキットまで、まだあと400km近くあった。

僕は彼が運転するプリウスの後部座席で、「このまま渋滞が続けばいい」と思っていた。

世界の頂点に立った男たちに直接話を聞ける機会など、そうめったにあるものではない。本来であれば、「ライター冥利に尽きる」と小躍りのひとつでもするべきなのかもしれない。

しかし、気が重い。

僕は知っていた。彼らの恐ろしいまでの威圧感を。人の心の奥底まで見透かすような鋭く冷徹な視線を。とめどなく流れ出る破壊力のある言葉を。

許されていた各人30分のインタビュー時間を、僕は生き残る自信がなかった。

非情にも事故処理はスムーズに終了し、東名はほどなく流れ始めた。そして約束の時間より前に、僕たちは鈴鹿サーキットに到着した。

あらかじめ用意しておいた質問項目とデータを見直しているうちに、心の準備を整える間もないままに、彼らチャンピオンたちへのインタビューが始まった。

「さて、何を話せばいいんだい?」

言葉にしないものの、彼らの鋭い目は僕にそう問いかける。そして最初の質問を投げかけると、後は笑いたくなるほど強力な彼らのペースで、時間が進んだ。

僕の大まかな意図をつかむと、彼らは自分の話したいことを話した。僕はすぐに、想定していた質問を諦めた。想定は想定だ。今、この場で、僕を媒介にして彼らが話したいことがあるなら、それを話してもらった方がいい。バイクについて、レースについて、人生について、彼らは熱を込めて語った。

ワイン・ガードナーはとても鷹揚だった。愛するふたりの息子を軸に、「良識」という単語を多用しながら、レース業界の未来について語った。

エディ・ローソンが絶やすことのない微笑には、いたずらっ子のような純粋さとそこはかとないシニカルさが入り交じっていた。彼は自分自身の考え方を奔放に言葉にした。

フレディ・スペンサーは大きな目を見開きながら、自分のつかんだバイクの真理を伝えようと懸命だった。僕のノートとボールペンを奪い取り、高い筆圧でライン取りを書き殴る。そして何度も僕を覗き込みながら「分かるかい?」と尋ねた。

ケニー・ロバーツの眼球は1mmたりとも動くことなく、僕を見据え続けた。まったくぶれない強固な確信が、彼の背骨を貫いている。

別の日にインタビューをしたマイケル・ドゥーハンは20年近く前のレースを鮮やかに振り返りながら、肝心なところも鮮やかに煙に巻いた。

5人の王者たちと過ごしたのべ3時間以上の時は、僕をひどく疲弊させた。ぺちゃんこに押しつぶされ、カラカラになった。

彼らのバイクへの情熱、レースに対する取り組み、ライディングに関する方法論、そして王者たることへの思いは、相似しているところもあれば、まったく異なるところもあった。平たく言えば、バラバラだった。

ただ、徹底的に共通していたのは、恐ろしいまでに頑なな「自分」というものだった。彼らは僕に向けるのと同じ鋭い眼差しを自分自身に向け、自分は何者であるのか、何をしたいのか、何をすべきか、どこに行こうとしているのか、それらを冷徹に見据え、確とした答えを得て、それを揺るぎない基盤にしていた。

答えは、何でもいいわけではない。彼らははっきりと、王者になりたかったのだ。行く先を決めることは、他の可能性をすべて捨てる覚悟ととともに、自分の未来をただ1点に限定することだ。世界に1脚しかない王座への道を、彼らは歩んだ。彼らは神に選ばれたのではない。自分で自分を選んだのだ──。

帰りの東名高速は、25kmの自然渋滞に見舞われた。プリウスのハンドルを握った僕は、疲弊してカラカラになっていたはずなのに、休憩したいとも思わなかった。

王者たちの途方もないエネルギーが僕に激突し、奥深いところに突き刺さっていた。


※本稿は2018年4月4日公開記事を再編集したものです。 ※本記事は“ヤングマシン”が提供したものであり、文責は提供元に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。

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