ロシアによるウクライナ軍事侵攻は、世界情勢に多大な影響を与えている。それは日本人にとっても他人事ではなく、また様々な業界にも暗い影を落とし始めている。そこで、バイク&自動車関連メーカーに絞って、どのような影響があるのかを知っていきたい。身近なものに関連付けて考えることで、自分事としてとらえるきっかけにしていただけたら幸いだ。
●文: Nom(埜邑博道) ●取材協力: ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ、ハーレーダビッドソンジャパン、BMWモトラッドジャパン、ドゥカティジャパン、KTMジャパン、ブリヂストン、日本ミシュランタイヤ、ピレリジャパン、和光2りんかん
ホンダ、スズキ、ハーレーダビッドソンがロシアへの輸出等を停止
2月24日、ロシアがウクライナに軍事侵攻し、10日以上経った現在(3月8日)もその状況は続いています。
みなさんも侵攻後の経緯は各メディアの情報でご存知でしょうが、3回行われたロシアとウクライナの停戦交渉でもほとんど何も進展はなく、プーチン大統領は核攻撃もちらつかせるなど言動がどんどんエスカレート。
4日にはウクライナ南東部にある欧州最大級のザポロジエ原子力発電所を攻撃して占拠するという暴挙まで行っています。
もし、ウクライナにある15基の原発が爆発したら、ヨーロッパは壊滅状態になるとウクライナのゼレンスキー大統領は危機感を募らせています。
また、ロシアの侵攻が進むにつれ、当然、民間人にも被害が及び、ウクライナ国外に避難する人数も6日の時点で150万人以上に上っています。
侵攻が続けば続くほど、その影響はさまざまなところに出ています。
帝国データバンクによると、ロシア、ウクライナ地域に進出している日系企業は370社超で、製造業がそのうちの4割超を占め、自動車、自動車部品メーカーが多いと言います。
したがって、我々ライダーにとって身近な存在であるバイク/自動車業界に与える影響も、侵攻が長期化すればするほど多大なものになりそうです。
たとえば、3月2日にホンダがロシアへの二輪・四輪の輸出を停止。続いてスズキも4日に同様の処置を発表し、同日夜にはヤマハ発動機もバイクなどの輸出を当面停止することを発表しました。
また、ハーレーダビッドソンも1日にロシア事業とロシアへの輸出を停止したと発表しました。
このほかの二輪関係の日系メーカー、欧州メーカーにはこれといって大きな動きはまだないようで、ロシアに製造工場があるピレリ、ミシュラン、ブリヂストン等のタイヤメーカーも現時点では影響は限定的、あるいは特にないけれど、状況を注視していきたいとのことでした。
そもそもロシアの二輪マーケットは、年間販売台数が1万台程度とかなり小さいもので、今回の事態が二輪メーカーに与える影響は大きくはないようです。
ただ、ロシアへ中古バイクを輸出している大手中古車会社は、対ロシアの年間売上が20億円あるそうですが、昨今のロシアの不穏な動きを察して昨年の12月にロシアへの輸出をすべて停止したそうです。
このようにメディアには出てきませんが、日系企業にもさまざまなところで今回の事態の影響がでているという事実があるのです。
ロシア人にとって生活必需品である自動車を生産する四輪メーカーには、二輪メーカーとは比較にならないくらいの影響が出ていて、日系、欧米系の多くのメーカーが輸出停止や、ロシア、ウクライナ国内の自動車や関連パーツの製造を停止しています。
したがって、前述のように長引けば長引くほど、世界の自動車生産にも大きな影響が生じてくるでしょう。せっかくコロナ禍による生産減少が底を打ち、上昇傾向にあったというのに……。
希少資源の調達が困難になり、半導体不足に拍車がかかる
そして、ロシア、ウクライナにある希少資源の調達危機がこの先、バイク/クルマの生産に大きな影響を与える可能性があります。
現在、半導体製造に不可欠なネオンの7割をウクライナ、自動車の排ガス触媒に使用されるパラジウムの4割をロシアに依存しており、戦闘が長引いて生産に遅滞が生じれば当然、大きな影響が出てくるでしょう。
特に半導体は、ご存知のようにここのところずっと供給不足に陥っていて、日本国内でも新車が足りない、人気車が買えない状況が続いています。
ある日系メーカーは、そもそも半導体の不足で現在も車両をフル生産できていないので、ロシア侵攻による大きな影響はすぐには出ないと考えているとのことですが、あくまで短期的な観測で、希少資源の調達が長期的に困難になれば生産への影響は当然出てくるはずです。
また、いつ、どれほどの影響があるかは分かりませんが、リプレイス用マフラーにも必要な排ガス触媒の原料であるパラジウム不足は、この先のリプレイスマフラーの値上げに結び付いてしまう可能性も否定できません。
そして、ロシアが生産する原油(2020年世界シェア11.4%)、天然ガス(2020年世界シェア16.6%)の西側のロシアへの制裁によって生じている供給(輸出)の滞りも世界経済に大きな打撃を与え始めています。
原油に関しては、米欧がロシア産原油の輸入禁止の検討に入り、世界供給が不足するとの懸念が台頭。 7日に原油の国際価格は、1バレル140ドル台に迫る約13年8カ月ぶりの高値 (史上最高値は08年7月の147.5ドル) となりました。
この状態が続くと、高止まりしたままの日本のガソリン代もさらに上がることは避けられないでしょう。
日本政府がガソリン補助金を3月10日から25円に引き上げることを発表していますが、以前ここで書いたように補助金額がそのままガソリン代の値下がりに結びついていない現状があります。
筆者が5日に東名高速道路を利用した際、下り海老名サービスエリアのガソリン代はレギュラー193円、ハイオク204円で、上り海老名サービスエリアではレギュラー190円、ハイオク201円となっていて、レギュラーでさえリッター200円が目前に迫っていました。
もちろんこの価格には、今回のロシア侵攻の影響はまだ及んでいないでしょうから、ロシアからの原油輸入が減少すれば、さらにガソリン代が値上がりする可能性があります。
そして、ガスの4割をロシアに依存しているヨーロッパ諸国には、ロシアからの天然ガス輸出の停止による影響がすでに出ています。
多くの自動車関連メーカーがあるイタリアでは、ガス代が3倍になり市民生活に多大な影響を及ぼしているようです。
同じくロシアからの天然ガスのパイプライン「サウス・ストリーム」によるガス供給をウクライナ侵攻への制裁処置としてストップしたドイツでも、同様のことが起こっています。
さらにイタリアでは、ロシア、ウクライナから小麦を大量に輸入しており、今回の事態で輸入がストップしてイタリア人の主食であるパン、パスタ、ピッツァの価格が高騰。ある自動車パーツメーカーは社員食堂が閉鎖されてしまったそうです。
ガスや食料と言った生活必需品に多大な影響が長期に及んだ場合は、当然、市民の生活や企業活動にも多大なしわ寄せがきて、イタリア、そしてドイツのメーカーのバイクやパーツの製造にも影響が出てくるはず。
そして、その影響は我々のバイクライフにも及んでくる可能性があるのです。
あらためて書きますが、みなさんも今回のロシアによるウクライナ侵攻の情報を、各メディアの報道でご存知でしょうけれど、より身近な物事にも多大なる影響が出ていることを知って、自分事として今回の事態をお考えになっていただき、1日も早い事態収束へご自分に何ができるかを考えていただきたいと思っています。
「BikeJIN」(実業之日本社発行)に連載記事を持ち、ラジオのマリンFMで「Weekend Garagehouse」のパーソナリティを務めているマヒトさんは、「ウクライナの子供たちのことを考えたら、いても立ってもいられなくなった」と、バイク用品販売店の2りんかんの石渡社長に相談して、6日に和光店で募金活動を行いました。
和光店には朝イチから多くの人が集まって募金をしてくださり、集まった23万7000円の募金はしかるべきところに寄付する予定だそうです。
反対の声、支援の声が世界中で多くなればなるほど、事態解決の兆しが生じてくるかもしれません。
「やったってムダ」、「どうせ声なんか届かない」と思わずに、ぜひみなさんもご自分のSNSで#stopwarや#戦争反対などのハッシュタグを付けた投稿をして、戦争反対、早期解決を訴えていただきたいと思います。
これ以上、ウクライナ国民の被害が広がらないことを切に願います。
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