
’21年のモトGPにおいて、ホルヘ・ロレンソ以来6年ぶりのライダータイトルを獲得したヤマハ。チャンピオンマシンの座を奪還したYZR-M1は、強さと速さの両方を安定して発揮することを目標に開発された。果たして、狙い通りのマシンに仕上がっていたのか。新たなチャンピオンとなったファビオ・クアルタラロと、その他のライダーの明暗差は、なぜ生じたのか──。本記事ではプロジェクトリーダー・鷲見崇宏氏へのインタビューをもとに、元GPライダー・青木宣篤氏がYZR-M1の車体に注目して分析する。
【解説:青木宣篤】2ストのGP500ccクラスと4ストのモトGPクラス両方を戦い、ブリヂストンやスズキの開発ライダーも務めた。モトGPを心から愛するライディングオタク。
王座獲得はライダー×チーム×マシンの三拍子が揃った成果
’15年以来、6年ぶりにライダーズタイトルを獲得したヤマハ。大変おめでたい。’19年にモトGPライダーになって以降、他を寄せ付けない速さを見せていたファビオ・クアルタラロは、フランス人では初の最高峰クラスチャンピオンとなった。22歳のヤングライダーが素晴らしい成果を挙げたものだ。
ただし、ヤマハYZR-M1に目を向けると、あまり印象に残っていないファンも多いのではないだろうか。ちょっと厳しい言い方になってしまうが、「前半戦に稼いだ貯金を切り崩しながら、どうにか逃げ切った」という印象が否めないのだ。
「’21年はコロナ禍での開発が続き、制限はありましたが、その中でもできるだけのことはやりました」と、ヤマハの鷲見崇宏氏。ワタシが注目するのは、YZR‐M1の車体作りに関して鷲見氏が言及した以下のコメントだ。
「ファビオ(クアルタラロ)の強みは、ブレーキングからコーナーエントリーのエリア。彼は’19年型のフィーリングを気に入っていましたが、’20年型は『フィーリングが変わってしまった』と指摘していました。それを受け、’21年型は新しいシャーシを投入し、狙い通りのコンフィデンスを得ることができた。ファビオも『タイヤとマシンの限界が分かりやすくなった』と評価してくれました」
鷲見氏の言葉通り、クアルタラロはブレーキングを武器にしている。だが、ホンダのマルク・マルケスのような強烈なハードブレーカーとはちょっと違う。今のモトGPライダーの中でも随一と言っていい絶妙なコントロール技術で、フロントブレーキを使いこなし切っているのだ。
車体作りの一番のキモは、ヘッドパイプまわりの剛性バランスの調整だったと思われる。クアルタラロが「’19年型の方がイイ」と評価したということは、おそらく’19年型は縦剛性重視だったのだろう。そして’20年型はヘッドパイプまわりの縦剛性を下げたか、あるいは横剛性が上がったことで縦剛性が低く感じたのか、どちらかの要因でクアルタラロは不満を感じたに違いない。
そして’21年型は再び縦剛性が高められた(あるいは横剛性が下げられた)ことで、好みのフィーリングに戻った。「限界が分かりやすくなった」というクアルタラロの評価、そして鷲見氏の「コンフィデンス(自信)が得られた」というコメントが、すべてを物語っている。
ここでいう”縦剛性/横剛性”は、すっぱりと切り分けられるほど単純なものではないし、相対的なものでもある。縦剛性を高めれば相対的に横剛性が弱まったような印象になるし、逆もしかりだ。だからヤマハがどちらの方策を採ったのかは分からない。
いずれにしても重要なのは、「ライダーが安心して限界域に放り込めるマシンになっているか」 クアルタラロが得意としているブレーキングからコーナーエントリーのエリアでは、フロントが大なり小なりスライドしているのだが、その少ないスライドをどれだけ鮮やかに感じられるかが重要だ。
なかなか想像しにくいかもしれないが、フレーム性能の限界に近いところで走るほどに、フロントタイヤからの情報は得やすくなる。だからこそライダーは限界に近付こうとするし、限界に近付くための”自信”を求める。
’21年型YZR-M1の車体は、クアルタラロに自信を取り戻させる仕様になったのだろうし、クアルタラロ自身もそのパフォーマンスを引き出すだけの成長っぷりを見せたわけだ。
フランス人初のグランプリ最高峰クラスチャンピオンとなったファビオ・クアルタラロ。後ろにはプロジェクトリーダー・鷲見氏の笑顔も。
その一方で、クアルタラロ以外のライダーは苦戦した。ヤマハは例年、「どのライダーがどのコースで乗っても速さと強さを発揮できるマシン作り」を標榜している。そんな中、クアルタラロがひとり勝ちしてしまったことは、ヤマハにとっては忸怩たる思いがあるだろう。
気がかりなのは、チャンピオンマシンであるはずのM1に”コレ”というフィロソフィーが感じられないことだ。鷲見氏は「ライダーの成長、チームワーク、そしてマシン開発のすべてがうまく組み合わさった成果です」と言うし、実際にその通りなのだとは思う。
だが、少なくとも外から見ている限りでは明確な武器がなかったのも確かだ。それこそが、クアルタラロ以外のライダーが上位に来られなかった最大の要因ではないかと考える。
非常に厳しい言い方になってしまうが、’21年のM1を見ている限りでは、ライダーの要素が9、マシンの要素が1と感じてしまう。「やはりバイクのレースはライダーの腕で決まるんだ」と。
もちろんそれは2輪レースの醍醐味でもあるので、否定するつもりはまったくない。自分自身ライダーとして、「自分の腕でチャンピオンをもぎ獲った」と言ってみたいと思う。
でも一方で、モータースポーツは各メーカーが威信を賭けて技術力を競う場でもある。オリジナルECUが使えた時代、M1は輝いていた。共通ECUになって牙を抜かれてしまったのは不幸だが、またあの輝きを見せてもらいたいものだ。
各所で折れ曲がったフレームに苦労の跡が伺え、ヤマハとしては珍しく無骨な印象。エンジンハンガーは’20年型よりさらに大型化し、剛性は上がっただろう。功罪ありそうだが…。
メーターパネルが小型化した他は、’21年型と大きな違いは見られないコクピット。スイッチ類のレイアウトもほぼ踏襲。大きく肉抜きされたトップブリッジはM1のアイデンティティだ。
コロナ禍でのメーカーの経済的負担を軽減すべく、空力パーツの開発も凍結(シーズン中1回のみ変更可)。ここも大きな変化は見られなかった。
ひときわ厚みを増したように見えるシートカウルの中には、何が収まっているのか…。
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