前回のレポートに続いて、日本自動車工業会発行『埼玉県三ない運動見直しの記録』をひも解く。本記事では埼玉県で三ない運動が始まった経緯について紹介する。
●文:ヤングマシン編集部(田中淳磨)
三ない運動は’81年2月から
’70年代後半、高校生のバイク事故やバイクを使った暴走族の非行行為が増大し、全国的に社会問題となっていた。埼玉県では、’80年9月に県教委内に「暴走行為等防止対策連絡協議会(略称:暴防協)」が設置され、対策の検討が始まった(下表1)。なお、暴防協の会長は埼玉県高等学校PTA連合会の会長が務めた。
その検討結果を踏まえ、’81年2月には「自動二輪車等による事故/暴走行為等防止の指導要項」が制定され、公立高校には通達を行なって校則に明記させ、私立高校には周知を行なった(下図1)。この指導要項により「特別な事情による場合以外は、在学中の自動二輪車等運転免許の取得/購入/乗車を認めない」とした三ない運動が始まった。
’80年当時、埼玉県内高校生のバイク事故死傷者数は年間1557人とピークを記録していた(下グラフ)。全県的な三ない運動はその翌年から始まったが、その効果は目覚ましく、バイク事故による負傷者数はみるみる減少。それと並行するように暴走族の活動も縮小し、全国的に姿を消していった。
この旧指導要項は、’19年の3月31日まで約38年間にも渡って運用されてきたことになる。これほど長い年月が経ってしまうと、校長以下の教職員にとっても”三ない運動があることが当たり前”となってしまい、疑問も湧かなければ検討しようという機運も生まれてこない。
当時の緊急対応策として”高校生の命を守る”ことに、三ない運動がもたらしたメリットは確かに大きかったが、少子高齢化といった社会の変化の中で教育に求められる自主自律の精神、”自分の身は自分で守る”といった安全教育に対する積極的な学びの機会を阻害してきたのもまた事実だろう。PTA(保護者)の思いは踏まえつつ、時代にあった教育現場の改革が求められている。
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