埼玉県は「高校生にバイクの免許を取らせない」「バイクを買わせない」「バイクに乗せない」の“三ない運動”を2018年まで維持していた自治体だが、撤廃後は一転して、積極的に高校生への交通安全教育を行う方針を打ち出している。今回その埼玉県が実施する「高校生の自動二輪車等交通安全講習」を見学する機会に恵まれた。
●文:ヤングマシン編集部・松田大樹
的を絞った実践的な内容に好感
簡単に言えば、2輪免許を持つ埼玉県の高校生への交通安全教育の場だ。主催するのは埼玉県の教育委員会で、今回の参加者は約20名。彼らに聞くと、この講習への参加が免許取得の条件にもなっているようだ。講習に使うのは自分のバイクで、免許はあるがバイクは持っていない生徒には別途座学が行われる。
取材は7月26日と、高校生にすれば夏休みが始まったばかり。彼らにしてみれば「学校に言われたから行くけど…」といったところのようで、カリキュラム後に感想を聞いても前向きな話ばかりが出てくるわけじゃない。それはそうだろう。筆者が自分の胸に手を当てても、交通安全に積極的に取り組む高校生の姿なんて、想像するのは難しい。
となれば重要なのは「ならばどうするか」という主催者側の発想だろう。やる気あふれた生徒ばかりではないことを前提に、それでも交通社会の一員として、教えることは教えねばならない。今回の取材で感じたのは、この点において内容を精査した様子が見られたことだ。具体的には「①最低限必要な運転技術」「②危険予測の重要性」「③救急救命法」の3点に講習内容を絞り込んでいる。
たとえば①では、速度が5km/h上がっただけでカーブを曲がりきれないことを体験させたり、路上では練習しにくい急制動を反復させる。「速度を出さない」「しっかり止まれる」という、安全運転の大原則のおさらいだ。1走行ごとに指導員のアドバイスがあるのも記憶に残りやすいはず。
②は座学だが、バイクの走行シミュレーション動画を見せつつ「危険だと感じた瞬間にボタンを押す」というゲーム的要素を盛り込む。人によって危険を察知するポイントが異なること、さらに、そのポイントがほとんどの場合、事故の回避には遅すぎることを伝える。危険察知の重要性に気づいて欲しい…というメッセージを感じる内容だ。
③は人形を使った心臓マッサージとAEDの使い方。講習も終盤となり、空腹も覚える時間帯だったが“使ったことをないモノを使う”という体験は高校生の彼らにとって単純に面白いのだろうか。意外に思うほど真面目に取り組んでいる様子が印象的だった。
“誰のための講習か”が見えている
これら講習のカリキュラムは、二輪車普及安全協会と埼玉県警の交通機動隊/交通総務課が“高校生にいかに実務的な能力を身に付けてもらうか”を主旨に組んでいるそう。個人的には「誰のための講習か」という目的意識のもと、要点を絞り、彼らの目線で組まれたメニューに好印象を覚えた。強いて言えば挨拶や説明などの談話はやや長尺に感じたが、これはオトナの事情として仕方のないところ。
もともと埼玉県は2018年まで“三ない”を維持していた自治体。このように積極的な交通安全教育に舵を切ったのはやはりその廃止が転機で、2輪免許を取得する高校生が増えるのに際し、県の教育委員会として交通事故対策ができないか…ということで3年前にスタート。現在は年に1回、県内の計6箇所で開催している。
逆に、三ないを展開していなかった自治体では、こうした高校生向けの交通安全教育を行なっていないところも多いという。それを考えれば、禁止していた過去を踏まえた上で、教育へと大きく方向転換した埼玉県の現状は評価されるべきだと思う。
参加者の声
<開催概要>
- 令和3年度 高校生の自動二輪車等交通安全講習(埼玉南部)
- 日時:2021年7月26日
- 会場:レインボーモータースクール和光(埼玉県和光市)
- 主催:埼玉県教育委員会
- 共催:一般社団法人 埼玉県指定自動車講習所協会
- 後援:埼玉県警察本部/一般財団法人 埼玉県交通安全協会/埼玉県二輪車普及安全協会/埼玉県高等学校安全教育研究会/埼玉県交通安全対策協議会
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