’21年1月、自工会の二輪車委員会が『埼玉県三ない運動見直しの記録』という冊子を発行した。三ない運動を強烈に推進していた埼玉県が三ない運動を撤廃し、交通安全教育/講習を全県的に実施するに至るまでの過程が詳細にレポートされている。「この貴重な冊子をどこでどのように活用していくのか」はとても重要な視点になりそうだ。今回は、この点について考察したい。
●文:田中淳磨(輪)
冊子をどう活用するか?
三ない運動への取組みや指導方針は47都道府県の教育委員会(以降、県教委)により異なっている。’16年の自工会調査「高校生の二輪車利用に関する全国調査」によれば、高校生の原付免許取得についての指導方針について、かつての埼玉県と同じく「原則として免許取得禁止」としているのは5県(山形/愛知/滋賀/京都/広島)だ。
また、「(通学事情など)一定の条件付きで許可」としているのは8県(栃木/静岡/岐阜/石川/三重/島根/岡山/福岡)。この
13県については、県教委が何らかの形で三ない運動を推進/継続しているので、私立高校はともかく県立高校に対しては、埼玉県での三ない運動見直しに関する一連の流れが参考にしやすいと言える。
「特に方針/制限はない」としている21都道府県、「各学校の判断による」としている12県については、県教委の関わり方に違いはあれど、原付免許の取得/乗車/通学に関しては学校長に委ねられている。県教委が旗を振ることはないだろうが、埼玉県で進められている免許取得/バイク乗車生徒の把握と安全運転講習の実務的な内容は参考になるだろう。
『埼玉県 三ない運動 見直しの記録』
モデルケースとなり得るか
「三ない運動を継続する/やめる」の判断が各校に委ねられてしまうと、免許取得や事故の件数といった状況の把握はともかく、もっとも重要な交通安全教育(道交法や運転上のマナー&モラル)と安全運転講習(車両の取扱いや運転技術)を体系的に実施することが難しくなってしまう。埼玉県の検討委員会でも議論の焦点になったように、三ない運動はやめればいいというものではない。
もともと16歳になったら免許を取れることが法律上で認められているのだから、彼らがその権利をもって免許を取得し、必要とするバイクやクルマといったモビリティ(今後はもっと多様になる)を運転し、生涯にわたって交通社会人として生きていけるように必要な教育を施すのが本来のあるべき姿のはずだ。
ところが、三ない運動でフタをされていたことで、教育の機会そのものが奪われてしまっていた。それが三ない運動の大きな弊害のひとつなのだから、三ない運動をやめることと交通安全教育を施すことは、セットでなければ本来の姿ではない。文科省も「二輪車の実技指導等を含む実践的な交通安全教育の充実を図る(令和2年度文部科学省交通安全業務計画)」べきと示しているし、自工会もまた「埼玉県のケースを参考にして、安全運転教育を推進してほしい(第11次交通安全基本計画に対する要望)」と内閣府に要望している。
埼玉県の方針転換は今後も様々な場で影響を及ぼすと思われる。県教委のもと進めているモニタリングの経過報告にもよるが、数年後にこれが成功したとなれば、全体でも部分的でもモデルケースとなり得るだろう。
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