’20年、全国の交通事故は減少し死亡事故も減ったが、自動二輪乗車中の死亡事故だけは増えていた。また東京都内で見ると、奥多摩周遊道路とその周辺ではバイク事故が増え、その約半分が10〜20代だったほか、各地での都立高校生のバイク事故も少なくなかった。そこで本記事では、「三ない運動がない」とされる東京都の現状に目を向けたい。
●文:田中淳磨(輪)
三ない運動のない東京都
東京都で注目すべきは、若年層の事故状況だ。東京都は基本的に三ない運動がなく、バイク乗車生徒への対応は各校に委ねられているが、’20年の高校生の交通人身事故状況によると、”バイク乗車中”が16%も占めていた。他の道府県と比べても高い割合となっている。
東京都教育委員会の事務処理を担う教育庁では、毎年各校からの事故報告を受け、事例集としてまとめているが、都教委として運転講習会を開いたり、外部の講習会を案内するということはない。また、各校で何人の生徒が運転免許を取得しバイクに乗車しているのかといった把握もしていない。三ない運動がなくなった自治体の教育委員会には、こうした把握をする必要がないからだ。
三ない運動は、全国高等学校PTA連合会(以降、全高P連)が始めたものだ。それが教育現場に浸透していく過程で、自治体や学校によって差はあれど、指導要項や指導方針、校則などに取り入れられてきた(生徒手帳に明記)。全高P連が全国的な運動をやめた現在は、自治体により県教委の指導要項に残るところ/指導方針に残るところ/校則にだけ残っているところなど、三ない運動の形が細分化されている。概ね共通するのは、県教委や学校としては「何もなければ三ない運動には触れたくない」ということだろう。
運転講習会の場づくりを
東京都の場合、都立高校の校則に明記されているのは「学校にバイクで来てはいけない」ということだけだ。免許の取得やバイクの購入/乗車を禁じる文言はない。こうした状況は、大人の世代からするとうらやましくもあるが、前述したように都内高校生のバイク事故は少なくなく、それに対してどう対処すべきかという動きもほぼない状況にある。
警視庁は、交通安全教育を受ける機会が少ない高校生に対して、バイクの交通安全に関するチラシやポスターの掲示を学校に依頼したり、生徒指導担当に注意喚起を情報発信するなどしている。また直接的には、地域の警察署に生徒を招いてバイクの安全教育をしたり、学校や教習所に警察官が出向いて交通安全教育や安全講話を実施している。’20年は68校に対して情報発信を実施、その他6校に対して警察官が出向き、交通安全教育を実施したという。
東京都には都立高校だけで185校もある。これは公立高校の地方平均設置数の数倍にあたるが、埼玉県のように県教委の主導で安全運転講習会を開くことはできないし、各校がそれを担うことも難しい。警視庁/交通安全協会/二輪車普及安全協会といった組織は、グッドライダーミーティングやセーフティライディングスクールといったバイク運転講習会を各地で開催している。東京都のように三ない運動をやめ、各校に委ねられているような自治体では、そうした場に高校生を呼べるような体制づくりが求められるだろう。
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