ホンダの快進撃が止まらない! 2020年のヒット作「ADV150」や「CT125ハンターカブ」に続くブランニューモデル「GB350」は、インドで先行発売された「ハイネスCB350」の日本版。早くも話題のこのバイクを、普通二輪免許で乗れるクラシックスタイルの空冷単気筒マシンという共通点を持つヤマハ「SR400」と比較してみた。
車両別アーカイブ:ホンダ GB350
GB350[予想価格は実質50万円?] vs SR400[60万5000円~]
国産ヘリテイジ界隈が騒がしい。カワサキはW800をベースとしたメグロK3を発売し、200台という年間販売予定台数を瞬く間に完売。同じくカワサキのZ900RSは2018年~2020年の年間販売台数ランキングで3連覇を達成している。幅広い世代に「バイクらしいバイク」と認識される普遍的な車体構成に、シンプルな造形ながら色気のあるスタイリングが多くのライダーの心をとらえているのだろう。
そんななか、去る者もある。ヤマハSR400だ。1978年に登場したリアルヘリテイジであり、今では国産現行車で唯一となったキックスターターのみ装備の空冷単気筒エンジンを搭載し、時代によって足まわりなどの装備を少しずつ変えながらも、その美しいスタイルを維持してきた名車。しかし押し寄せる排出ガス規制の波やABS義務化といった現代のレギュレーションに適合していくことは難しく、2021年モデルとして発売されたファイナルエディションをもって生産終了が決まっている。
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当初はSR500という兄弟車とともに誕生し、2001年以降はSR400のみが生産された。両車のエンジンは、同じボア径にストローク違いで排気量を変えており、圧縮比を合わせるためにSR500の方はややトップが低いピストンを採用していた。
ややモッサリと吹け上がるSR500に対し、SR400はタタタッと軽快に回っていく感じが好ましいとされ、ハンドリングとエンジンのバランスも500より良いと評価する向きが多かったようだ。
そんなSR400のフィナーレと時を同じくして、ホンダはGB350を送り込む。GB350はインドで先行発売されているハイネスCB350の日本版で、すでに車両の姿は発表されているが、スペックや価格などの正式発表は2021年3月末を予告。ただしインドではスペックも発表済みで、日本における価格情報も聞こえてきた。そのあたりを参照しながら、GB350とSR400の比較をお届けしていきたい。
さて、さっそく気になるGB350の価格についてだが、どうやら税込み55万円に落ち着きそうだ。ただし、若いユーザーに向けたキャンペーン施策が予定されているようで、これを適用できれば実質的には50万円との情報もある。また、バリエーションモデル(インドのCB350RSの日本版)の存在も示唆されており、こちらも遠くない時期にプラス4万円程度で発表されそうだ。
一方、SR400は60万5000円(リミテッドは74万8000円)。クロームメッキ仕上げのフェンダーやステンレス2重管のエキゾーストパイプなどで質感を追求しており、またバリエーションモデルを持たないことや、ほぼ国内専用車(タイでは販売されている)という成り立ちからコストダウンは難しく、GB350との価格差については、あまり比較する意味がなさそうである。
電子制御やフルLED灯火類など、装備は現代的なGB350
SR400は1978年の誕生から姿を大きく変えておらず、ヘッドライトはハロゲン球を使用。ウインカーやテールランプも同様で、左右手元のスイッチはシンプルそのものだ。バッテリーはMFタイプに進化しているものの、エンジン始動はキックスターターのみ。ブレーキは前:ディスク/後:ドラムで、もちろんABSをはじめとする電子制御は非装備だ。プリミティブなバイクらしさを保持しており、これを古臭さのようにとらえるのは野暮というものである。
GB350のほうは、LEDヘッドライトをはじめとした現代的な灯火類をレトロな外観に融合させていて、もちろんセルフスターター完備。ブレーキはスリップを効果的に防ぐデュアルチャンネルABSを装備し、アクセル開の際に後輪のスリップを抑制するホンダセレクタブルトルクコントロール(HSTC=いわゆるトラクションコントロールシステムに相当)も備えている。これらは世界的に義務化の流れが進んでおり、最新モデルの装備としては一般的なものといえる。
また、インド仕様のハイネスCB350は、上級使用のDLX PROにスマートフォン接続機能のHSVCS(ホンダスマートフォンボイスコントロールシステム)も備えているが、公開された車両を見る限り、日本仕様のGB350にはその機能を搭載していない可能性が高い。
ほかにもGB350は、クラッチ操作力を軽減しシフトダウン時のリヤタイヤのホッピングを抑制できるアシストスリッパークラッチを採用。メインスタンドを標準装備し、この排気量帯には珍しいシーソー式チェンジペダルも採用している。
SR400にあって、GB350にないもの
エンジンのテイストについては別項で触れるとして、SR400だけが持つ魅力を掘り下げてみたい。GB350にないもの、というか他の現行市販車のほとんどが持っていないのは、キックスターターに代表される『面倒臭さ』だ。これはけっしてネガティブな意味ではなく、エンジン始動の儀式からはじまるバイクとのアナログな付き合いは、自分と愛車との濃密なコミュニケーションにほかならない。
インジェクションを装備した2010年モデル(2009年12月発売)以降は始動性がきわめて良くなり、懐かしい「ケッチン」を食らう機会も減ったようだが、それでもデコンプレバーを握ってクランクを回し、上死点を出してからキックアームを踏み下ろして始動する儀式は、今となってはSR400(や旧車)のオーナーにだけ許された特権だ。
慣れればインジケーターを覗き込まずとも上死点を出すことができるようになり、少しゆったりとキックアームを踏み下ろしたほうが“クランクを加速させる”感覚が得られる……といった、4ストローク・ビッグシングルが手の内に馴染んでいく悦びは、やはりリアルクラシックたるSR400ならでは。
ハンドルのスイッチも、エルゴノミクスを追求した現代のバイクに比べればシンプルで、どこか頼りない造形だ。今どき、ダイヤル式のキルスイッチやレバー式のハザードスイッチなど、他のバイクでは見ることもないだろう。そして“マスの集中”が促進された現代のバイクにはない、ハンドルまわりの慣性質量の重ったるさや、収まりがいいのか悪いのかわからない昔ながらのシート形状なんかも、いちいち可愛らしく思えて仕方がない。
「面倒臭ぇなあ」とニヤニヤしながら付き合える、アナログな機械としての存在感、それがSR400の個性だ。
GB350とSR400のスペックを比較!
数値からもわかるように、GB350のほうがやや大柄で本格的なバイクという感じを与える。これにはインドで求められる『立派な車格』というのも関係あるだろうが、前19/後18インチホイールによるゆったりとした操縦安定性と穏やかな旋回性、それでいて軽快な倒し込みなどが想像できる。ライディングポジションはどちらも快適なスタンダードスポーツだが、GB350のほうが現代的でエルゴノミクスに配慮した様子が随所にうかがえる。
空冷単気筒エンジンは似て非なるもの?
さあ、お待ちかねのエンジンだ。いずれも現代では稀少になってきた空冷であり、そしてSOHCヘッドを持ち、ピストン&シリンダーは1対だけというシンプルな単気筒である。
小ぶりなクランクケースの上には美しい冷却フィンが刻まれた空冷シリンダーがあり、SOHCのヘッドには1本のエキゾーストパイプが接続されている。シリンダー後方にかつてのようなキャブレターは存在しないが、FIが違和感なく収まっている。見掛け上の大きな違いといえばキックアームの有無くらいだ。
外観の特徴は似通った2車の空冷単気筒エンジン。しかし、中身はかなり異なっている。SR400はバランサーを持たないオールドスクールな造りだが、GB350は2つのバランサーを備え、さらにフリクションロスを低減するオフセットシリンダーや、レバー操作力を軽減するアシストスリッパークラッチなどを採用。トラクションコントロールもGB350だけが装備している。
では、エンジンフィーリングはどうだろうか。最も顕著な違いは、ショートストローク設定のSR400に対し、ロングストローク設定のGB350という点だ。
SR400は、ピークパワーの数値やパワーバンドの広さはともかく、ある程度回して楽しいエンジンに仕上がっている。バランサーはなくても不快な振動はさほどなく、心地よい中速トルクを使って快活に走ることができるのだ。
一方のGB350は、まだ試乗することができないのでスペックシートからの推測にはなるが、3000rpmで最大トルクを発生する低回転トルクと、ロングストロークならではの力強い鼓動感が楽しめそう。クランクの重さにもよるだろうが、ホンダが公開した先行情報サイトで聞けるサウンドからは、そのトントントンというリズムや低回転での粘りが感じられる。
おそらく1500~2000rpm程度でも十分なトルクを発生し、ピークパワーの5500rpmまで鼓動感をともないながら吹け上がるだろう。そのなかに、ビッグシングルとまでは言えない排気量ながらも、アクセル操作でリヤタイヤが路面を蹴るトラクションを感じることができ、心地よい世界観に浸ることができるのではないだろうか。
3月末とされる正式発表。答え合わせはそのあとだ。
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