新型コロナウイルスにより先が見えない2020モトGP。やきもきした状態が続くが、青木宣篤監修の「上毛GP新聞」では、こんな時こそひときわマニアック全開。2月に行われたマレーシア公式テストでの秘蔵ネタを披露する。続いてはヤマハのテストドライバーとしてのびのび走るホルヘ・ロレンソの姿について。
●監修:青木宣篤 ●写真:佐藤寿宏/高橋剛/DUCATI/MotoGP.com ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
公式テストにて生き生きとヤマハYZR-M1を走らせていたのは、ホルヘ・ロレンソ。’19年までとは別人のように楽しげに走っていたが、ホンダRC213Vとはよほど相性がよくなかったようだ。
ただ、初乗りからこんなに乗りやすそうにM1を駆るということは、「彼がヤマハにいた’16年からさほど進化していないのか?」と、うがった見方をしたくなるが……。
実際のところ、「気持ちよくスロットルを開けられる」ということは、実は「エンジンパワーがもうひとつ」ということの裏返し……の可能性もある。
そして、V型エンジンのRCVに手こずったロレンソが、直4エンジンのM1にすぐ再適応したのは、このふたつの気筒配列の特徴を端的に示している。
今のところ、「パワーを追求するならエンジンはV型」が定説だ。ドゥカティ、ホンダがパワフルなV型エンジンを武器にしているのは紛れもない事実だろう。
その一方で、V型エンジンは調教するのが難しい。どうしてもトルクの山谷が出やすく、フラットな特性にしにくい傾向にある。スロットルオンにした時のドンツキを抑えるのもなかなかの難問だ。
直4は正反対と言ってもいい。パワーを出すのが難しい反面、扱いやすい特性にしやすいのだ。そしてこれがロレンソがRCVで苦戦し、M1で復調した要因だろう。
ワンメイク化によってタイヤグリップに限りがある今のモトGPでは、パワフルさが必ずしも有利とは言えない。グリップを100%引きだそうとすれば、扱いやすさがかなり重要になってくる。
ブリヂストンのワンメイク時代に3度の世界タイトルを獲得しているロレンソ。再びM1を得て、これはもしかして……と思っても、現在の彼はテストライダー。…と思っていたら、カタルニアGPへのワイルドカード参戦が発表された(本記事公開時点では開催延期)。
新型コロナウイルスの影響でどうなるか分からない状況だけど、ロレンソの参戦はまったく不思議じゃない。というのは、’19年まで現役だった彼の本当の気持ちは、まだテストライダーではなく、レーシングライダーのはずだからだ。
速く走る気マンマンのテストライダーの存在は、ヤマハにとって決してネガティブなことじゃない。テストライダーもレーシングライダーと同等の速さを持っていた方が、マシン開発はより正しい方向に進みやすいからだ。
どんなマシンでも、気合い一発のタイム出しはできる。だがそれを「20周の最初から最後まで継続してください」となると、いきなりガーンとハードルが上がる。決勝レース中は、テスト走行の時ほど頭を使って考えていられない。それでも継続的にタイムを出すには、マシンの素性が優れていなければならないのだ。
ロレンソのワイルドカード参戦には、「決勝でも本来の速さを取り戻してくれよ」という、ヤマハの愛が込められている。もちろんただの愛じゃない。それが、よりよいマシン開発につながると見込んでの愛だ。
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