’17年のミラノショーで発表され、昨年2018年11月に発売されたBMW F 750 GS/F 850 GS。全面新設計となったミドルGSは、果たしてどんな進化を遂げているのだろうか。本稿ではオンロード重視の特性が与えられたF 750 GSの乗り味を紹介しよう。
軽快な乗り味のキモは逆回転クランク?
【TESTER:中村友彦】’08年のデビュー当初からF-GSシリーズに好感を抱き、一時は真剣に購入を考えたこともある、雑誌業界23年目のフリーランス。
新世代のF750GSを体験して、僕が思わずホッとしたのは、全面新設計にも関わらず、”らしさ”が維持されていることだった。僕が考えるF‐GSらしさとは、兄貴分のR‐GSに通じる抜群の包容力を備えながらも、兄貴分より親しみやすいことで、その印象は先代も新型もほぼ同様。とはいえ、大前提となる印象が同様でも、先代と新型のキャラクターは似て非なるモノだった。簡素で軽快だった先代と比較すると、新型は上質でやや重厚…と思える方向に舵を切っていたのである。
まずは”上質”についての説明をすると、外装部品の高級感や操作系の優しいタッチ、ほどよくダンパーを利かせながら、できるだけフラットな車体姿勢を維持しようとする前後ショックの動きは、先代とは一線を画する要素だろう。逆に言うならこれらの点に対して、先代はコスト抑制という意識を感じることがあったのだが、新型は兄貴分を思わせる上質さを身につけているのだ。
一方の”やや重厚”に関して、最初に述べたいのはエンジンである。排気量を793→853ccに拡大すると同時に、クランク位相角を360→270度に改めた新設計パラレルツインは、先代より低中速トルクが太くなっているうえに、2気筒らしいパルス感が濃厚。もっとも個人的には、牧歌的で黒子に徹する先代のエンジンフィーリングにも、捨て難い魅力があったと思うけれど、激戦区のミドルアドベンチャー界で存在感を発揮していくためには、新型の主張の強さは正解なのだろう。
ただし当初の僕は、先代より重厚、と言うより、安定指向になった車体の動きに、ちょっとした戸惑いを覚えた。もっともそれは、僕が先代の軽快さを知っているからだと思うけれど、車重が10kg以上重くなり、ガソリンタンクがシート下から一般的な位置に移動した新型の挙動は、兄貴分のR‐GSに近づいた印象なのだ。
でも意外なことに、距離が進むにつれて戸惑いは消え去り、速度の上昇と歩調を合わせるかのように、新型は先代に通じる、F‐GSならではの軽快なハンドリングを披露してくれたのである。具体的な話をするなら、高速域でのレーンチェンジは気軽かつイージーにできるし、峠道でコーナー進入時に感じるフロントまわりの舵角は、スパッとシャープでわかりやすいし、旋回姿勢に入った際のフロントからリアへの荷重移動は、実に自然に行える。
おそらくこの挙動は、フロントまわりに必要以上の荷重を与えない、逆回転クランクの恩恵だ。もちろん、大幅刷新された車体や足まわりの影響もあるはずだが、先代を上回る安定感を獲得しつつも、先代と同等の軽快さを維持するために、新型は逆回転クランクを採用したのではないだろうか。いずれにしても、以前からF‐GSに好感を抱いていた僕は、先代を否定することなく、先代の美点を巧みに継承しながらレベルアップした新型の資質に、大いに感心することとなったのである。
ちょっと妙な表現になるけれど、GSシリーズのキャラクターを30cm定規に当てはめて、兄貴分のRを30、先代Fを15、末弟のGを0とするなら、新型Fは20という印象なのだ(もちろんこの数字は、排気量の大小や面白さとは無関係)。そしてこの位置づけ変更は、多くのGSユーザーとその予備軍から、共感を集めることになると思う。
主要諸元
車名 | F 750 GS |
全長×全幅×全高(mm) | 2270×850×1250 |
軸距(mm) | 1565 |
シート高(mm) | 770/815 |
車両重量(kg) | 230 |
エンジン型式 | 水冷4スト並列2気筒DOHC4バルブ |
総排気量 (cc) | 853 |
最高出力(ps/rpm) | 77/7500 |
最大トルク(kgf・m/rpm) | 8.46/6000 |
燃料タンク容量(L) | 15 |
変速機形式 | 6段リターン |
ブレーキ前 | ダブルディスク |
ブレーキ後 | ディスク |
タイヤサイズ前 | 110/80R19 |
タイヤサイズ後 | 150/70R17 |
カラー | 白、黄、メタリックマット |
税込車両本体価格 | 129万6000円〜154万4000円 |
●文:中村友彦 ●写真:岡 拓
※ヤングマシン2019年2月号掲載記事をベースに再構成
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