
JMS2025のヤマハブースには、AIを積んで自ら起き上がり自立する実験機や、3輪のフルオープンEV、スーパースポーツEVなど魅力あふれる展示が目白押し。その中ではいささか地味ながら世界初公開の水素エンジン搭載モデルがあった。H2 Buddy Porter Concept(エイチツー バディ ポーター コンセプト)が秘めた革新性に迫る。
●文&写真:ヤングマシン編集部 ●外部リンク:ヤマハ
水素燃焼エンジンとは?
ヤマハ発動機がJMS2025で世界初公開した「H2 Buddy Porter Concept(エイチツー バディ ポーター コンセプト)」は、気体水素を燃焼して走行する水素エンジン搭載のスクーター。同社製155ccスクーターをベースに水素タンクを4本搭載し、SDGsに配慮したモデルだ。
水素燃焼エンジンは、燃料電池車とは異なり水素を用いて発電した電気を動力源とせず、ガソリンの代わりに水素を燃焼することによるピストン運動が動力になる。通常のガソリン車と同様にエンジン音は発生するし、気温が低い時はマフラーから白煙も出る(とはいえ、これは排ガスではなく水蒸気だが)。
つまり、現在のガソリン車と変わらぬ使用感で走行できるのが水素エンジン車であり、当然ながら化石燃料は消費しないので持続可能な社会環境にも適応可能。バッテリーEVほど重量増にならず、水素タンク以外はほぼ既存の技術で構築できるのもコスト面で有利だと言える。
ヤマハがJMS2025で世界初公開した水素エンジン搭載のスクーター、H2 Buddy Porter Concept。デリバリーバイクをモチーフにした水素エンジンモデルを開発したのは、現在の水素インフラに合わせた結果だ。
ヤマハのH2 Buddy Porter Conceptが目指すもの
水素タンクは、液体や水素吸蔵合金などもあるが、H2 Buddy Porter Conceptは気体タンクを採用する。このタンクはトヨタ ミライと同じ技術が投入されているため、安全面はすでに担保されていると見てよいだろう。H2 Buddy Porter Conceptには小型の水素タンクが計4本搭載され、満充填で約100kmの航続距離を記録している。
水素エンジン内での水素燃焼はガソリンエンジンの燃焼と大きく変わらず、既存のエンジン技術がそのまま活かせる。実際、H2 Buddy Porter Conceptもベース車のエンジンから大きなアップデートは施されていないという。
しかし燃料となる水素はまだインフラが脆弱なため高止まりしており、実燃費をガソリンと比較すれば後塵を拝するのは致し方ないところ。このコンセプトモデルがデリバリーバイクのカタチをしているのも、100km圏内(半径50km以内)に水素ステーションがある地域で運用せざるを得ない現状に沿ったものだ。
コンバージョンEVならぬ、コンバージョン水素の可能性
こうして見ると水素エンジンのメリットは少ないように思えるが、現在のバイク乗りにとって将来的に大きな恩恵を得られる可能性を示したい。
水素インフラが現在以上に発達した未来であることは大前提だが、既存のガソリンエンジン車を、コンバージョンEVならぬコンバージョン水素エンジンへとシフトできる可能性があるということだ。
化石燃料の運用は先行き不透明で、完全に枯渇しないまでも世界情勢を鑑みれば使用に制限が課されるのは明白であり、今後大幅に高騰する可能性は低くない。そうした場合、現在所有しているオートバイを走らせるのは非常に困難になっていくはずだ。
しかし、ガソリンの代わりに水素を燃料に使えるならどうだろう? 前述したようにガソリンエンジン車を水素エンジン車に変更することは技術的に難しくない(水素タンクの搭載場所確保は問題だが)ので、ガソリンを使わずとも愛車を走らせることができるなら大歓迎だろう。
水素を燃焼させてエンジンを動かすため、排気音やNOxも発生する。当然、マフラーや触媒も必須装備だ(ユーロ5排ガス規制対応済み)。それだけに走行フィーリングもガソリン車と同等で、既存バイクを水素にコンバージョンしてもライド感は変わらないという。
水素の時代到来という可能性を見据えた開発
世の趨勢は電気を動力とするEVシフトに傾いているものの、化石燃料を用いたエンジンだからこその楽しさや脈動感を大事にしたいライダーも少なくないはず。もちろん、現在の愛車を長く楽しみたいという要望も大きいだろう。
化石燃料エンジンと変わらぬライド感を実現できる水素エンジン車という選択肢を示したヤマハには、シティコミューターである今回のH2 Buddy Porter Conceptを皮切りに、水素エンジンのスポーツバイク開発や、ガソリンエンジンの水素エンジンコンバージョンなど、ライダーが希望をもてる未来を見せてほしい。
水素エンジンは今のところ未来の選択肢として有望とは言えないかもしれないが、バイク乗りにとっては大きな期待がかかるプロダクトのひとつだろう。ヤマハ H2 Buddy Porter Conceptが見せた可能性は大きい。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(ヤマハ [YAMAHA])
第一世代登場は20年も前! まず最初に言っておこう。”喰わず嫌いしていると時代に取り残されてしまうぞ。いずれほとんど自動クラッチに置き換わっても不思議ではないのだ”と。なぜそこまで断言できるかというと[…]
世界初公開! 3タイプのEVバイクが未来の二輪車シーンを牽引する!? 10月30日(木)から11月9日(日)まで東京ビッグサイトにて開催されている「ジャパンモビリティショー2025」。ヤマハのブースで[…]
欧州では価格未発表だが、北米では前年から200ドル増の9399ドルと発表 ヤマハは北米で新型「YZF-R7」を発表。欧州で発表された新型「R7」にモデルチェンジ内容は準じつつ、北米独自のカラーリングで[…]
2026モデルのモトクロッサーYZ450Fをベースに電動化 電動トライアルマシンの「TY-E」でFIMトライアル世界選手権EVクラスに参戦するなど、カーボンニュートラル達成に向けた取り組みにも積極的な[…]
スポーツライディングの登竜門へ、新たなる役割を得たR7が長足の進化 ミラノで開催中のEICMA 2025でヤマハの新型「YZF-R7(欧州名:R7)」が登場した。2026年から従来のワールドスーパース[…]
最新の関連記事(ヤマハ [YAMAHA] | モーターサイクルショー/モーターショー)
世界初公開! 3タイプのEVバイクが未来の二輪車シーンを牽引する!? 10月30日(木)から11月9日(日)まで東京ビッグサイトにて開催されている「ジャパンモビリティショー2025」。ヤマハのブースで[…]
2026モデルのモトクロッサーYZ450Fをベースに電動化 電動トライアルマシンの「TY-E」でFIMトライアル世界選手権EVクラスに参戦するなど、カーボンニュートラル達成に向けた取り組みにも積極的な[…]
スポーツライディングの登竜門へ、新たなる役割を得たR7が長足の進化 ミラノで開催中のEICMA 2025でヤマハの新型「YZF-R7(欧州名:R7)」が登場した。2026年から従来のワールドスーパース[…]
水素燃焼エンジンとは? ヤマハ発動機がJMS2025で世界初公開した「H2 Buddy Porter Concept(エイチツー バディ ポーター コンセプト)」は、気体水素を燃焼して走行する水素エン[…]
ヤマハブースは東京ビッグサイトの東5ホール! ヤマハブースでは世界初公開のワールドプレミア×5モデルを含むモーターサイクルや電動コミューター、eBike(電動アシスト自転車)などを出展する。また、楽器[…]
人気記事ランキング(全体)
空冷エンジンのノウハウを結集【カワサキ GPz1100[ZX1100A]】 航空機技術から生まれたハーフカウルとレース譲りのユニトラックサスを装備。デジタルフューエルインジェクション効果を高めるために[…]
月内発売:SHOEI 「GT-Air 3 AGILITY」 優れた空力特性とインナーバイザーを兼ね備えたSHOEIのフルフェイスヘルメット「GT-Air3(ジーティーエア スリー)」に、新たなグラフィ[…]
背中が出にくい設計とストレッチ素材で快適性を確保 このインナーのポイントは、ハーフジップ/長めの着丈/背面ストレッチ素材」という3点だ。防風性能に特化した前面と、可動性を損なわない背面ストレッチにより[…]
「特殊ボルト」で困ったこと、ありませんか? 今回は「でかい六角穴のボルト」を特殊工具なしで外してみようというお話。 バイクを整備していると時々変なボルトに出会うことがあります。今回は古い原付オフロード[…]
点火トラブルって多いよね 昔から「良い混合気」「良い圧縮」「良い火花」の三大要素が調子の良いエンジンの条件として言われておりますが、それはそのまま調子が悪くなったバイクのチェック項目でもあります。その[…]
最新の投稿記事(全体)
マイノリティ好きにはたまらない2スト250で3気筒、走りに刺激はなかったけれど海外でもファンが少なくなかった! カワサキが世界進出の勝負球として、500ccで2ストローク3気筒のマッハIIIをリリース[…]
プロテクター標準装備の冬用ライディングジャケット 一見するとカジュアルなパーカスタイルだが、中身は本格的なウインタージャケットである。本商品は、胸/肩/ひじ/背中の4部位にプロテクターを標準装備してお[…]
未塗装樹脂の白ボケ原因とツヤを復活させる方法 黒かったものが白っぽくなってくると古臭く見えてしまいます。…いいえ、「白髪」ではなくて「黒樹脂(未塗装樹脂)パーツ」のオハナシです。 新車の頃は真っ黒だっ[…]
第一世代登場は20年も前! まず最初に言っておこう。”喰わず嫌いしていると時代に取り残されてしまうぞ。いずれほとんど自動クラッチに置き換わっても不思議ではないのだ”と。なぜそこまで断言できるかというと[…]
原付の排気量区分は? 原付には、50ccまでの原付一種と51ccから124ccまでの原付二種があり、一般的に原付と言うと50ccまでを指すことがほとんど。今回の記事でも特に表記がないがきり原付一種を原[…]
- 1
- 2
























