乗りやすいなどとは言い難い。スムーズに走らせようとすれば、次々にハードルが待ち受けている。しかし、それらをひとつずつクリアし、思い通りに操れるようになっていくと愉快で仕方がない。この一種独特の中毒性がファンを魅了してやまない、オールドハーレーに乗る愉しみのひとつだろう。
●文:ウィズハーレー編集部(青木タカオ) ●写真:森下光紹 ●外部リンク:遠藤自動車サービス
ジョッキーシフトで操る。そこには異次元の愉しみがあった
空冷Vツインの心臓部は’51年式ハーレーダビッドソン純正のパンヘッドエンジン。ボア・ストロークは84.1×88.9mmで、排気量は61キュービックインチ=1000cc「E」のOHVエンジンだ。70年以上も前のたいへん貴重なパワーユニットだが、最初に触れておかなければならない点は、まだ他にもたくさんある。
車体構成そのものが、現代の一般的なオートバイとはかなり異なる。電子制御を満載にする最新式のバイクからすれば、あまりにもシンプルで、純然たるアナログと言えるだろう。
まず、リヤサスペンションが備わっていない。ハーレーダビッドソンがつくるビッグツインモデルは、’58年のデュオグライドが登場するまでは、リヤショック&スイングアームを持っておらず、フレーム自体がしなることで衝撃を吸収するリジッドフレームが採用されていた。
そして、メインチューブが前方に伸ばされ、ヘッドパイプを前方に突き出したグースネックフレームとしていることも見逃せない。そこにセットされるスプリンガーフォークもまたハーレーダビッドソンが純正採用していたフロントサスペンションで、’49年に油圧フォークを備えるハイドラフォークがデビューするまでは一般的であった。
そして、クラッチはレバーではなく、フットペダルで操作する。左手はトランスミッションから伸びたシフトレバーで、ギヤを切り替えるのに使う。馬にまたがって鞭を打つジョッキーのポーズを彷彿とさせることから「ジョッキーシフト」と呼ばれる。進行方向へ向かって前方へ出すとロー(1速)に入り、そこから後ろへ引いていくと、ニュートラル/2速/3速/トップ4速へと至り、当然ながらシフトダウンは逆の手順となる。
マニュアルミッションのクルマは足でクラッチを繋ぎ、手でシフトチェンジするから、それと同じ感覚と言えよう。冒頭に書いたとおり、慣れてしまうとこれが楽しくなってくるのだ。
スプリンガーフォークは角度を目一杯に寝かせて取り付けられ、低く身構えるロー&ロングスタイルを強調。前後16インチのタイヤは、収まる限界まで攻めたファットなものを履いている。
グースネックフレーム&スプリンガーフォーク。エレガントでありワイルドでもある
ハンドリングにクセがあるのは当然で、それを操るのもまた醍醐味。極低速時はヘヴィで、アクセルを開けてある程度の速度をつけてからでないとステアリングは言うことを聞いてくれない。これがわかれば、コーナーも狙ったラインで駆け抜けられ、立ち上がりでの加速も痛快だ。乗るほどに歓びが倍増してくる!
リジッドフレームは何もかもがダイレクトなフィーリングで、アクセルの開閉をリニアに感じられるのがいい。
ただし、パンヘッドエンジンがあまりにもコンディションに優れるからと、高速道路をかっ飛ばすと、そこはリヤサスペンションを持たない構造がゆえ、強い衝撃を受けたときには、安定性を損なうから無茶はできない。
オーナーになれば、こうしたこととひとつずつ丁寧に向き合い、乗る度にさまざまな発見があり、少しずつ手なづけていくことに歓びが感じられるのだろう。
もちろん、景色の中に置いて眺めるのも楽しみのうちのひとつで、グースネックフレームに積まれるパンヘッドが、なんと美しいことか。リヤフェンダーと後輪とのクリアランスを、ほとんどなくせるのもリジッドフレームならではの特権。また、フットペグやとぐろを巻いて後方へ伸びるエキゾーストのマフラーエンドなど、要所に真鍮パーツが配され、曇りのないクロームの中でアクセントとなっているのも見応えがある。
そして、プライマリーベルトを剥き出しにしたオープンプライマリーは、荒々しくワイルドだが、小振りな燃料タンクからサドルシートにかけては繊細なシルエットで優雅でもあるから、さまざまな表情を持ち合わせているのが興味深い。
つまり、見ていて飽きない。
前後ブレーキはディスク化され、ブレンボ製の2ポットキャリパーが奢られている。停止時に右足でフットブレーキを操ると、左足でのクラッチ操作ができなくなるからややこしい。信号待ちなどでは、ストップする前にギヤをニュートラルに入れることができると、最後までブレーキペダルを踏める。
ちなみに純正ノーマルでは、クラッチを切った状態を維持できるロッカークラッチが採用され、ニュートラルでなくても足を地面に下ろせた。これと区別するため、今回乗ったもののようにロック機構がないものをノンロッカーと呼ぶ。
さぁ、この未知なる奥深き世界にもし興味を持ったのなら、気軽に遠藤自動車サービス(群馬県太田市)に足を運ぶといい。初心者にも親切丁寧に対応してくれるはずだ。
※本記事は“ウィズハーレー”が提供したものであり、文責は提供元に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
動画はこちら↓
ハーレーダビッドソン専門誌『ウィズハーレー』のお買い求めはこちら↓
あなたにおすすめの関連記事
B+COM PLAY:「驚くほど軽く、そしてシンプル」 初めて手に取ったときの感想がこれ。筆者はふだん「B+COM SB6X」を使用している。比較すると、大きさはふた回り小さく、とにかく軽い。重量を公[…]
待望だったハーレーの祭典 “ブルスカ”ことブルースカイヘブンは、ハーレーダビッドソン公式の一大イベント。2018年までに20回開催され、ファンの間では毎年恒例の“祭典”として定着しているが、感染症防止[…]
スポーツスターS&ナイトスターを徹底比較【気になるライポジ&足着き】 スポーツスターS ナイトスター ミッドコントロールかフォワードコントロールか? ステップ位置の違いは、両車にとって大きなポイントと[…]
20世紀ハーレーを名作とともに振り返る! 『イージー★ライダー』のピーター・フォンダ&デニス・ホッパー、峰不二子のモデルとなった『あの胸にもういちど』のマリアンヌ・フェイスフル、伝説のバイクスタントマ[…]
唯一無二の存在感。長きに渡りフラッグシップの座を守り続けた最上級モデル 大柄で迫力のあるバットウイングフェアリングにトリプルライト、前後フェンダーはエレガントに深く長くタイヤを覆う。圧巻ともいえる堂々[…]
人気記事ランキング(全体)
私は冬用グローブを使うときにインナーグローブを併用しています。防寒目的もありますし、冬用グローブを清潔に保つ目的もあります。最近、長年使い続けたインナーグローブが破れてしまったこともあり、新品にしよう[…]
TRIJYA(トライジャ):カフェレーサースタイルのX500 パンアメリカやナイトスターなど水冷ハーレーのカスタムにも力を入れているトライジャ。以前の記事では同社のX350カスタム車を掲載したが、今回[…]
高回転のバルブ往復にスプリングが追従できないとバルブがピストンに衝突してエンジンを壊すので、赤いゾーンまで回すのは絶対に厳禁! 回転計(タコメーター)の高回転域に表示されるレッドゾーン、赤くなっている[…]
従来は縦2連だったメーターが横2連配置に ヤマハは、2004年に欧州で誕生し、2017年より日本を含むアジア市場へ(250として)導入されたスポーツスクーター「XMAX」の2025年モデルを欧州および[…]
2018 カワサキ ニンジャ400:250と共通設計としたことでツアラーから変貌(2018年8月30日公開記事より) 2018年型でフルモデルチェンジを敢行した際、従来の650共通ではなく250共通設[…]
最新の記事
- 【エンジンの気筒の数でなにがちがう?】バイクの乗り味ざっくり解説[単・2・3・4・6気筒]
- 「新型にも欲しい」650版 KATANA(カタナ)となるSV650/X 短刀(Tanto)が魅力的すぎる
- ヤマハ新型「MT-25」登場! 一部デザイン変更のほかアシスト&スリッパークラッチやスマホ連携を獲得
- ヤマハ新型「YZF-R25」登場! YZF-R9と並ぶ最新デザインの“アーバンスーパースポーツ”【海外】
- 「デカすぎ」「試作車、見たかった」〈幻名車〉2リッター「音魂(OTODAMA)」またの名をV-MAX2000
- 1
- 2