
●文:ライドハイ編集部(伊藤康司)
ワークス耐久レーサーのために開発した画期的なホイール
バイクのホイールといえば、ロードスポーツ車の多くが装備する、アルミニウムで一体成型された“キャストホイール”か、オフロード車/アメリカン/クラシックタイプが装備する“ワイヤースポークホイール”の2種類が主流だ。
そもそも車輪の歴史を簡単に振り返れば、一番最初は“木製”。次に木製車輪の外周にゴム板を貼ったモノが考案され、その後に現在のような空気入りタイヤが登場する。
そして木製のホイールは、耐久性とメンテナンス性に長けた金属のワイヤースポークホイールに変化。このワイヤースポーク時代が1900年代初頭から1970年代まで長く続き、1970年代中頃にアルミニウムを鋳造して作るキャストホイールが登場した。
この手の“最新パーツ”の多くは「レーシングマシンが装備→市販車にフィードバック」のパターンが多いが、ことキャストホイールに関しては、市販車の方が先に広まり(標準装備もカスタムも)、レーサーは依然としてワイヤースポークホイールを履いていた。その最たる理由は“重量”で、当時のキャストホイールはかなり重かったからだ。
そしてキャストホイールには、チューブレスタイヤを使える大きなメリットもある(スポークホイールはスポーク穴があるのでチューブが必要)が、当時はチューブレスのレーシングタイヤが存在しなかった、という面もある。
しかしながら、キャストホイールの普及とともにチューブレスタイヤも増え、レーシングマシンもキャストホイールを履くようになった…のだが、ここで独創性を発揮したのがホンダ。レーシングマシンで重要な“軽さ”に長け、高い剛性と強度を持ち、チューブレスタイヤも使える「コムスターホイール」を、挑戦を始めたばかりの欧州耐久レースのワークスマシンRCB1000用に開発したのだ。
【1976 HONDA RCB1000】ホンダがヨーロッパ2輪耐久ロードレース選手権に参戦するため、CB750FOURの4気筒エンジンをベースに開発したワークス耐久レーサー。このマシンのために、軽量なコムスターホイールが開発された
バイク用のチューブレスタイヤも、コムスターだから採用できた。
コムスターホイールは、車軸周りのハブとアルミ製の軽量なリムを“スポークプレート”で繋ぐ、革新的な構造を有した。
スポークホイールの“スポーク増し締め”といったメンテナンスも不要なうえに、チューブレスタイヤを履くことで、釘など異物が刺さった際も急激な空気漏れを起こさないため、安全性も増し、パンク修理も容易。そしてスポークともキャストとも異なるスタイルで独自性を主張できる。そこでホンダは、1977年発売のCB750FOUR-IIにコムスターを初採用し、その後は125クラスから輸出車のオーバー750まで、多くのロードスポーツ車に装備を広げていった。
ちなみに、コムスターとは“Composite(合成)”と“Star(星)”との合成語。ワイヤースポークホイールの軽さとキャストホイールの高い剛性など、それぞれのホイールのメリットを併せ持ち、星型をしているところから命名された。
【1977 HONDA GL500】コムスターホイールの大きなメリットのひとつが、チューブレスタイヤの装着が可能になったこと。写真のGL500(1977年12月発売)が、2輪車初のチューブレスタイヤ装着車だ。ただし市販車で最初にコムスターホイールを装備したのは、1977年4月発売のCB750FOUR-II(この時点では2輪車用チューブレスタイヤが存在しなかった)。
コムスターはデザインの自由度にも長けていた
市販車用のコムスターホイールは、登場当初はスポークプレートがスチール(鉄)製だったが、1979年のCB750F用を皮切りに、アルミ製スポークプレートの「オールアルミコムスターホイール」が登場。そしてスポークプレートのプレス加工や形状変更で、毎年のように新デザインのコムスターホイールが生まれていった……
【1979 HONDA CB750F:通称“表コムスター”】初期のコムスターはスポークプレートがスチール(鉄)製だったが、1979年発売のCB750Fや、スタイルを踏襲するHAWKⅢ(CB400N)が“総アルミ製のコムスター”を装備した。“表コムスター”は、あくまで以降のコムスターと区別するための通称。
【1981 HONDA CB750F:通称“裏コムスター”】従来のコムスターのスポークプレートを裏返したようなデザインから、こう呼ばれる(もちろん裏返したワケではない)。プレートはブラックやゴールドに塗装され、豪華な雰囲気を醸した。1980年頃のアメリカンタイプ(CB750カスタム)等から採用が始まった。
【1982 HONDA CB750F:ブーメラン型コムスター】1981年発売のCBX400Fや1982年発売のVT250Fが、ホンダ独自のフロントブレーキ・インボードベンチレーテッドディスクと組み合わせて装備。その後は通常のディスク車も多く採用した。
※本記事は2021年7月6日公開記事を再編集したものです。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
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