
有名ブランドからマニアックなメーカーまで、工具好きなら知っておきたい海外ハンドツールブランド。そのブランドの生い立ちや強みなどを紹介しよう。モトメカニック編集部が長年にわたり工具やバイク整備シーンに接してきたからこそおすすめできる海外ブランドを、ワールドインポートツールズ(神奈川県横浜市)の協力を得て掲載する。
●文/写真:モトメカニック編集部(栗田晃) ●監修:ワールドインポートツールズ
- 1 Snap-on(スナップオン):世界初のソケット工具を開発
- 2 KNIPEX(クニペックス):掴み系に特化したドイツメーカー
- 3 PB SWISS TOOLS(PBスイスツールズ):1940年代から続くドライバーブランド
- 4 Wera(ヴェラ):食いつく先端と独自のグリップ形状
- 5 HAZET(ハゼット):素材から製法まで一貫したドイツの至高
- 6 BAHCO(バーコ):アジャスタブルレンチのオーソリティ
- 7 Beta(ベータ):工具に“カラー”を持ち込んだ立役者
- 8 WORLD IMPORT TOOLS(ワールドインポートツールズ):工具を知り尽くした者が作り出す工具
- 9 SIGNET(シグネット):日本にギヤレンチを広めたメーカー
- 10 MATADOR(マタドール):ラチェットハンドルを発明したドイツブランド
- 11 LISLE(ライル):専用工具やアイデアツールを積極開発
- 12 IRWIN(アーウィン):バイスグリップのピーターセンと統合
- 13 STAHWILLE(スタビレー):世界屈指の性能を誇るスパナが代名詞
- 14 VIM TOOL(ヴィムツール):自動車系工具で長い歴史を持つブランド
- 15 LENOX(レノックス):世界初のバイメタルソーを開発
- 16 M.T.S(エムティーエス):マグネット式のソケットホルダーで有名
Snap-on(スナップオン):世界初のソケット工具を開発
1本のハンドルにソケットをかわるがわる取り付けられる構造。現在のソケットレンチを発明した創業者によって、1920年にアメリカで設立されたスナップオン。
当初、5種類のハンドルと10種類のソケットからスタートしたソケットレンチは、現在ではハンドツールのスタンダード的存在に。また、ボルトやナットを傷めず強いトルクを加えられるソケットの面接触も、元はと言えば同社が1960年代に特許を取得した発明品だった。
ユーザーの仕事場を巡回するバンセリングも、広大なアメリカを市場とするスナップオンならではの販売方法だ。人気実力ともに輸入工具を代表するブランドである。
KNIPEX(クニペックス):掴み系に特化したドイツメーカー
1973年、掴み面を平行四辺形にすることで、それまで一般的だった樽型に比べて、丸棒/パイプ/角断面の材料をしっかり保持できるウォーターポンププライヤー「アリゲーター」をリリースしたクニペックス。
1880年代にドイツで誕生した同社は、創業以来プライヤーの開発に集中し、アリゲーター以降もコブラやプライヤーレンチなど数々の革新的な製品を開発。1000種類にも及ぶ製品群は、材料から製造まですべてドイツの工場で一貫生産されており、オートモーティブはもちろん一般産業界でも、多くのプロフェショナルユーザーから「握り工具はクニペックス」と高く評価されている。
PB SWISS TOOLS(PBスイスツールズ):1940年代から続くドライバーブランド
世界中のネジの形状や特長を徹底的に調査して開発したドライバーが、世界中のユーザーに愛用されているPBスイスツールズ。1870年代に農耕機具メーカーとして創業した同社は、1940年代にドライバーメーカーに転身。
先端形状の良さに加えて、ヨーロッパの工具メーカーとして初の射出成型樹脂製グリップを1950年に製品化。そして1987年にはPBの代名詞となったマルチクラフトグリップドライバーを発売するなど、先進性を追求し続けている。ドライバー単一ブランドと思われがちだが、ヘッド内のディスクで反発を打ち消す無反動ハンマーも同社を代表する逸品工具である。
Wera(ヴェラ):食いつく先端と独自のグリップ形状
握りやすさと力の加えやすさを両立するため、人間工学を取り入れたグリップ形状を開発したのがドイツのヴェラ。1936年の創業以来ドライバー専門メーカーとして発展してきた同社は、ヨーロッパを代表する一大メーカーへと成長。
クラフトフォームと呼ばれるグリップは、意識することなく早回しと高トルク回しを使い分けられるのが特長。刃先に施されたレーザー加工はレーザーチップと呼ばれ、斜めのギザギザがネジ穴に食いつき、プラスネジの悩みであるカムアウトに対して効果を発揮。ヘックスレンチの六角軸先端を面接触形状としたヘックスプラスも、キャップボルトの六角穴に優しいと高評価だ。
HAZET(ハゼット):素材から製法まで一貫したドイツの至高
硬さとしなやかさが調和した鋼材と高い鍛造技術から生み出される製品は、ピカピカのメッキ仕上げが多いアメリカ工具とはひと味違う渋さが特徴。いかにもドイツ工具というイメージのハゼットが設立されたのは1860年代で、進化と発展の過程でヨーロッパの自動車メーカーの専用工具の開発と製造を担い、オートモーティブ系ブランドとしてのイメージを確立。
キャップボルトが普及し始めた時代には、同社のヘックスビットソケットの独壇場となったほど。爽やかなコーポレートカラーの樹脂製ツールトレイ(おかもち)が各地の工具ショップで人気となった、おかもちブームの立役者でもある。
BAHCO(バーコ):アジャスタブルレンチのオーソリティ
モンキーレンチで有名なバーコが1886年にスウェーデンで創業した際の製品は、不純物が少なく耐摩耗性に優れ、刃物に適しているというスウェーデン鋼の特性を生かした鋸刃だった。同時に当時、釣り針にも同じスウェーデン鋼を使用していたことに由来して、ロゴマークに魚と釣り針のイラストを採用。
アジャスタブルレンチと呼ばれるモンキーが主力製品となるのは、1892年に調整式スパナの特許を取得して以降で、スムーズながら遊びの少ないアゴとウォームホイールの組み合わせの信頼性は抜群。現在は、SNAヨーロッパ(スナップオン関連企業)の傘下となっている。
Beta(ベータ):工具に“カラー”を持ち込んだ立役者
F1レースへのスポンサーに参画した1970年代以降、鮮やかなオレンジカラーで世界のモータースポーツをサポートし、工具ユーザーにアピールしてきたベータ。イタリアで1924年に設立された同社は、当初は金型を製造する会社だった。そこで培った鍛造技術をベースに、1939年から工具製造に着手。現在ではハンドツールやワークスペース用のキャビネットやシステムツール、電動工具やエアーツールなどの企画開発を行っている。
製品にオレンジ色を採用したのは1969年発売のツールカートで、暗い色が主流だった工具を一新させたことでオレンジ=ベータのイメージが定着した。
WORLD IMPORT TOOLS(ワールドインポートツールズ):工具を知り尽くした者が作り出す工具
輸入工具および国産工具の専門商社として1950年に設立された喜一工具。そのグループ企業・Joyfulインポートツールズの店舗としてオープンしたのが、ワールドインポートツールズだ。
「かっこよくて・とんがった・間違いのない工具」をキーワードに、工具を知り尽くしたスタッフが企画し、大手工具メーカーのOEM工場に委託して製造されたのが、ワールドインポートツールズブランドのオリジナル工具。ポピュラーなハンドツールばかりではなく、ユニークなメカニズムや機能を持った個性的なラインナップは、プロフェショナルユーザーからの信頼も高い。
SIGNET(シグネット):日本にギヤレンチを広めたメーカー
製品企画から材料調達、製造から最終製品まですべて自社ブランドで行うという既存の工具メーカーのやり方ではく、ファブレスメーカー=製造工場を持たない工具メーカーとして1990年に設立されたシグネット。
SIGNETとは同社のコンセプトである“SIGNAL NETWORK”の略称で、レンチはレンチ、ソケット工具はソケット工具と、製品ごとにそれぞれの製造を得意とするメーカーと連携することで、アイテムごとの品質を担保しつつコストパフォーマンスの高さを実現。今では当たり前となったラチェットギヤレンチを日本で初めて市販したのがシグネットで、製品名称も「シグネットレンチ」だった。
MATADOR(マタドール):ラチェットハンドルを発明したドイツブランド
日本市場での知名度はそれほどでもないが、マタドールはドイツ工具業界のパイオニアのひとつである。創業は1900年で、独自の鍛造技術を活かしたソケット/ペンチ/ハンマー/自転車用工具の製造に着手。
1919年に発表されたリバーシブルレバーラチェットが特許登録されたことで、ラチェットハンドルを発明したメーカーとして技術力をアピールした。第二次世界大戦後の1950年代には、戦後復興の波とともに成長した自動車産業界に進出し、各自動車メーカーの特殊工具を生産することでシェアを拡大した。現行製品では90歯ギヤのZ90ラチェットハンドルシリーズの人気が高い。
LISLE(ライル):専用工具やアイデアツールを積極開発
DIYでメンテナンスを行うサンデーメカニックや、様々なメーカーの自動車を整備する街の自動車工場で愛用されるライルは、1903年にアメリカで創立された工具メーカー。
1920年代には早くもフォードモデルT(T型フォード)用の専用工具を自社開発するなど、ドライバーやレンチといったハンドツールではなく、自動車整備用専門工具分野で成長を果たしてきた。専用工具を発展させて汎用性を持たせた製品も数多く、かゆいところに手が届くアイテムはベテランメカニックにも好評。本国のホームページでは、工具のアイデアをユーザーから募集する柔軟性の高さも同社の特長だ。
IRWIN(アーウィン):バイスグリップのピーターセンと統合
1885年に創業したアーウィンは、アメリカの老舗工業用工具メーカーとして130年以上にわたって作業現場を支えてきた。そのアーウィンでもっとも有名なブランドが、ロッキングプライヤーのバイスグリップである。
バイスグリップといえば、同じくアメリカのピーターセンが製造元というイメージもあるが、1934年に設立されたピーターセンは、M&Aによって現在はアーウィンのグループ企業となっている。しかしながら、ロッキングプライヤーの代名詞であるバイスグリップのブランド名は継承され、今も製品にはピーターセン時代のロゴマークが刻印されている。バイスツールのクイックグリップも好評だ。
STAHWILLE(スタビレー):世界屈指の性能を誇るスパナが代名詞
ドイツ製工具を代表するブランドのひとつで、1862年に創業。良質な鉄鋼材と高い鍛造技術を融合させた製品作りは他のドイツメーカーにも通じるが、スパナやメガネレンチに採用されるI字断面のグリップは、軽くスリムで握りやすく強度も高い。
油が付いた手で握っても滑りにくい梨地の表面仕上げも、同社ならでは。4500種類以上に及ぶアイテムは、バイクや自動車分野だけでなく工場や航空機市場でもプロメカニックの期待に応えている。同社が初めて製造したトーションスプリング仕様のトルクレンチは、使用後に最低トルクにリセットする必要がない画期的な製品である。
VIM TOOL(ヴィムツール):自動車系工具で長い歴史を持つブランド
ソケットレンチ/メガネレンチ/ドライバー/プライヤーなどのハンドツールに加えて、工具箱で散らかりがちなソケットレンチの整理に便利な工具を販売するヴィムツール。
1930年代にアメリカで設立されて以来、独自のアイデアを盛り込んだエッジの効いたアイテムを中心として製品を構成し、かゆいところに手が届くアイテムがユーザーの心をくすぐっている。ワールドインポートツールズでは、マグネットレール/早回し用T形ハンドル/超コンパクトビットラチェット/マグネットソケットレールなどを取り扱っており、中でもHEXロングビットセットは奥深い場所のキャップボルトに重宝する。
LENOX(レノックス):世界初のバイメタルソーを開発
金ノコ/ジグソー/ホールソーなど切削工具の製造メーカー、American Saw & Mfg. Companyのブランドとして1915年に創業したレノックス。
1965年、刃先にコバルトハイス鋼、背部に特殊バネ鋼という2種類の異なる鋼材を電子ビームで溶接した、バイメタル構造のバンドソーブレードを世界で初めて開発したのが同社で、さまざまな技術革新によって、よじれや折れに強く丈夫な素材を実現。刃先の硬度はHRC66〜69と高く、ステンレスや鉄の切断もスムーズ。トレードマークの狼は、スコットランドのレノックスという町にいた伝説の狼に由来している。
M.T.S(エムティーエス):マグネット式のソケットホルダーで有名
“Mechanic’s Time Savers, Inc.”の頭文字を取ったMTS=エムティーエスは、メカニックの時短に役立つ製品を数多く製造している。同社には数多くのソケットホルダーがあるが、中でも磁石を使ったシリーズに力を入れており、フリクションを利用するクリップタイプに比べて着脱やサイズ管理が容易だ。
ツールキャビネット内が華やかになり紛失防止にも役立つ、ネオンカラーも特長のひとつである。またマグナレール/マグナパネルと呼ばれるシリーズは、強力でありながら工具を磁化したり電子回路に影響しない磁気ベースを使用することで、重量のある工具も落下させず収納できる。
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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