
ライダーの経験知やキャリア、乗っているバイクにかかわらず、サーキット走行を楽しめるイベントとして定着したアストライド。普段は街乗りやツーリングを楽しんでいるナンバー付きの市販車から、F1やF3といった1970〜80年代のレーシングマシン、さらには1972年以前に製造されたクラシックモデルまで、数々のマシンを間近に見られるのは、観覧目的としても楽しいのは間違いない。2023年は5月と10月の2度開催で、現時点では10月分のみエントリー可能だ。ぜひ一度鈴鹿ツインサーキットに足を運んでみよう。
●文/写真:モトメカニック編集部(栗田晃) ●外部リンク:オーヴァーレーシングプロジェクツ
練習走行/模擬レース/オフミーティング…。キャブレターやサスペンションのセッティングにも使える貴重な機会
全国各地のサーキットで走行会やイベントが開催されている中で、このアストライドならではの魅力は、レジャー性と競技性がほどよくミックスされていることだ。
スポーツ走行でサーキットを走る多くのライダーは、ラップタイムの短縮を目的としており、あくまで自分と向き合って走ることが多い。
これに対してアストライドは、マシンや技量に応じてクラスを分けて、同じようなバイクが一緒に走行できるので安心感がある。オフ会代わりに利用しているエントラントもいるほどだ。もちろんサーキット経験が少ないライダーも、他車に急かされず自分のペースで走行できる。
サスペンションやキャブレターのセッティングを行うのにも、サーキットは絶好の場となる。セッティングならそれこそスポーツ走行で、という意見もあるだろうが、現行のスーパースポーツ車に混ざって絶版車や旧車を走らせるのは、簡単なようで難しい。
ナンバー付きの車両で自走して来たり、関東地方からトランポにバイクを積んでやって来るなど、アストライドだからこそ参加したいというライダーによって、過去最多のエントリーとなった2022年のラウンド2。2023年は5月に開催済み。次の予定は10月なので、サーキット経験者も未経験者もカレンダーに予定を入れてみてはいかがだろうか。
SUZUKI GSX400E改:1981年鈴鹿4時間耐久レース参戦車が40年前と同じサウンドで蘇る
昔ながらのレース好きの中にはこのスタイルにピンとくる人もいるかも知れない。このマシンは1981年の鈴鹿4時間耐久レースに故・堀ひろ子さん/今里(現・腰山)峰子さんのライディングでエントリーしたスズキGSX400E改だ。
女性ライダーの草分けとして活躍した堀さんは、今里氏とともに1980年の第1回鈴鹿4時間耐久レースに出場。予選でポールポジションを獲得するも、決勝では2周目に転倒炎上してリタイアとなった。
その雪辱を果たすため製作されたこのマシンは、当時のワークスレーサー用パーツを多数流用した、スズキワークスと呼ぶにふさわしい仕様。レース後は中部地方のバイクショップのショールームに飾られていたが、数年前にマルガヒルズプロダクツ代表の高垣和之さんがレストアを開始。
そしてこの日、81年に堀さんとペアを組んでいた腰山さんのライディングによって、41年ぶりに復活を果たした。こうしたレーサーが登場するのもアストライドならではだ。
腰山さんは現在でもミニバイクレースやツーリングなどを楽しむライダーで、思い出深い4耐レーサーを懐かしみ慈しみながら走行を満喫。ツナギやヘルメットのデザインも当時のものを踏襲している。
1980年の第1回大会にエントリーした際のマシンがドクター須田製だったのに対して、1981年車はスズキ内製だった。これは前年のポールポジション獲得とバイクブームの盛り上がり、さらに女性ライダーというキャッチーな条件が重なったことが理由として考えられる。燃料タンクはアルミ製、カウル/ブレーキ/ステップ/サスペンションはRG500を流用するなど、ほぼワークス仕様。紫外線が当たらない倉庫で保管していたこともあり、カラーリングはオリジナルコンディションを保っていたが、アルミタンクや2本出しマフラーのサビは劣悪だった。高垣さんは当時の仕様を極力維持すべく、外装パーツの再塗装を極力控え、フレーム/エンジン/キャブレターの車検ペイントも落とさず磨き上げた。コース中に響き渡る180度クランク2本出しマフラーのサウンドが最高!
ハリスF1 KZ1000:ネット経由で個人輸入したフレームに、インジェクション仕様のKZ用エンジンを搭載
アルミ地肌むき出しの燃料タンクやゲルコート仕上げのままの外装など、無骨なプロトタイプムードがプンプンと漂うOさんのハリスF1。搭載されているエンジンはカワサキKZ1000系だが、キャブレターがあるべき場所に付くのはスロットルボディというミスマッチ感…。
サーキット走行が好きで1980年代のTT-F1マシンも好きなOさんは、イギリスのハリスパフォーマンスでフレームをはじめとしたパーツを購入できることを知り、行きつけのバイクショップと相談の上、買い物カゴにポチッと入れて購入。昔は手紙やFAXだったのだろうが、ネットで注文できるのが現代的で、搭載するエンジンを指定し、スイングアーム/サスペンション/燃料タンク/外装などをオーダーメイドで組み合わせることができるのだ。
半年近くかかって届いた部品をショップに持ち込み、このスタイルが完成。もとよりサーキット専用車なので登録の必要もなく、FI仕様のハイテクハリスに大満足しているそうだ。
2022年製ハリスF1 でサーキット走行を楽しむOさん。インジェクション仕様かつセルモーター付きなので、現代のバイクと大差ないそうだ。
フレーム本体はツインショック仕様とモノショック仕様が同価で、Oさんはモノショックを選択。フロントフォークやマフラーは日本のショップでセットしたパーツで、ダイマグ製ホイールも国内で調達。KZ1000エンジンは現代のZ1000用スロットルボディを流用したFI仕様で、燃料ポンプはタンクボトムを加工してインタンク仕様としている。ECUは汎用タイプを使用し、センサー類のデータを表示させるためにデジタルメーターを装備。ただしこのメーターは、ECUのセッティングが決まった時点で、車体の雰囲気に合うアナログ式に交換予定。フレームとスイングアームは、接合部の肌感を見せるため、あえてクリアで塗装してある。ひとりでサーキットに出かけた際に乗り降りしやすいよう、ハリス社の担当者に何度も「本気か?!」と確認されたというサイドスタンドも装備。
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