現行バイクは自分で交換できない!?

【懐かしのバイク用語 Vol.3 プラグ交換】点火プラグ、交換したことある? カブるって何?

キャリアの長いライダーなら、点火プラグを外して電極の焼け具合をチェックしたり、交換作業を行った経験があるだろう。カスタムやチューニング好きのライダーも然り。とはいえいまどきのバイクの点火プラグを交換するのは、はっきり言って相当に難易度が高い。もはや点火プラグに触れたことが無いライダーもいるのでは……。


●文:伊藤康司 ●写真:関野温、真弓悟史、ヤマハ

昔は点火プラグの「焼け具合」をマメにチェックしていた

点火プラグの電極。中心電極と外側電極の間に火花を飛ばして、混合気に点火して爆発させる。

バイクのエンジンは、空気とガソリンを混ぜた混合気を爆発させ、そのエネルギーを回転運動に変えてタイヤを駆動している。そして混合気を爆発させるために、電気で火花を飛ばすのが「点火プラグ」の役目だ。

点火プラグはシリンダーヘッドに装着され、燃焼室に突き出した電極から火花を飛ばすが、エンジンの特性(圧縮比や点火のタイミング、混合気の濃さ等々)にプラグの熱化が適合していないと、電極付近がガソリンやエンジンオイルで湿った「カブった状態」になったり、真っ黒に煤けたり、反対に真っ白に焼け過ぎた状態になってしまう。

こうなるときちんとパワーが出ないばかりか、エンジンの始動性が悪くなったり、ともすればまったくエンジンがかからなくなることもある。これは点火プラグ側の問題だけでなく、エンジン側(キャブレターのセッティングが合っていない、エアクリーナーが汚れている等々)に問題がある場合も少なくない。だから点火プラグを外して電極の「焼け具合」をチェックするのは、日常的な点検のひとつだった……かつては。

じつのところ1970年代頃までのバイクは、故障していなくても点火プラグがカブってエンジンがかからなくなることは少なくなかった(とくに2ストローク)。1980年代になっても、しばらく乗っていなかったりエンジンのかけ方が悪いと(キック始動がヘタだったり、必要以上にアクセルを開閉するなど)、やはり点火プラグがカブることがあった。

またエンジンをチューンナップしたり、マフラー交換やキャブレターのセッティングを行ったときなども、点火プラグの焼け具合を見てセッティングの良否を判断した。これは現在でもカスタム車や旧車に乗るライダーは行っている方が多いだろう。

しかし1990年代頃には、ノーマルのバイクでメンテナンス不足やどこかが故障していなければ、点火プラグの焼け方に不具合が出ることはほとんど無くなった。2000年代には燃料供給がキャブレターからFI(フューエルインジェクション)に移行したことで、エンジンの燃焼状態がいっそう安定したため、点火プラグがカブることは皆無に近くなった。そして厳しい排出ガス規制などから、カブりやすかった2ストロークエンジンそのものが姿を消してしまった。

……というワケで、いつしかライダーが日常的に点火プラグの焼け具合をチェックしたり、点火プラグの交換作業を行うことは無くなったのだ。

点火プラグ交換の手順

① プラグキャップが嵌まっている状態。プラグの周囲をキレイに清掃してから作業する。周囲に埃や砂があるとプラグを外した際にエンジン内に混入してしまう。

② プラグキャップを引っ張って外す。プラグコードを引っ張らないように注意。

③ プラグレンチ(車載工具、またはサイズの合ったプラグレンチを使用)で点火プラグを緩める。

④ 点火プラグを回して外す。装着時は回るところまで指で回して締めた後に、プラグレンチで規定トルクまたは既定の回転角で締め付ける(規定値はプラグの種類で異なるので、プラグメーカーのウェブサイトで確認)。シリンダーヘッドのプラグ孔のネジ山を傷めないように慎重に作業すること。

車載工具に付属するプラグレンチ。

かつては車載工具にプラグレンチが付属
2000年代前半頃までのバイクは、大抵は車載工具に点火プラグを着脱するためのプラグレンチが入っていた。しかし最近のバイクは車載工具が付属していなかったり、装備していても非常に簡素で、プラグレンチは付属しない場合が多い。いまどきは点火プラグが滅多にトラブルを起こさないからだが、交換の難易度が高くなったのも付属しない理由かもしれない。

かつては自分で交換できたが……

前述したように、昔のバイクは点火プラグがカブってエンジンがかからなくなることがあった。……というか、エンジンがかからない時は点火プラグのチェックが必須だった(カブると電極が湿って火花が飛ばなくなるため)。

カブっていたら点火プラグを外して、プライヤーでつまんで台所のガスコンロで電極を焼くと復活するケースも多かった。出先だとライターで電極を焼いて乾かしたりしたが、予備の点火プラグを携帯するライダーも少なくなかった。いずれにしても昔のバイクは、ユーザーが点火プラグの着脱を行う前提で設計されていた。

しかし1990年代~2000年代と時代が進んでバイクの信頼性が高まり、点火プラグがカブるようなトラブルはほぼ皆無に。頻繁に点火プラグをチェック(着脱)する必要が無いのでバイクの設計は凝縮度を増した。気が付けば点火プラグの着脱は、多くのバイクが一般のライダーでは不可能なレベルの難易度になっていたのだ。

ちなみに1990年代初頭までは、ガソリンスタンドで点火プラグを販売しており交換作業も行っていたが、2000年代には点火プラグを置かなくなっていた。クルマもバイクも、その必要性(需要)が無くなったからだろう。

かつての空冷単気筒はプラグ交換が簡単

ヤマハのSR400やセロー250ような空冷単気筒で2バルブのエンジンは、点火プラグがシリンダーヘッドの側面に配置され露出している場合が多いので交換が簡単だ。

動弁機構を持たない2ストロークも比較的容易

2ストロークエンジン4ストロークのような動弁機構を持たず、シリンダーヘッドがシンプルな形状なのでプラグ交換が比較的容易。また2ストロークエンジンは構造的に点火プラグがカブりやすいこともあり、フルカウルの250レプリカなどでも、点火プラグへのアクセスのしやすさは相応に確保されていた。

4気筒もネイキッドなら交換できた

カワサキのゼファーなど80~90年代のネイキッド車は、燃料タンクを外さなくてもプラグ交換できる車両が多かった。ZRX1200Rなど水冷4気筒のネイキッド車も、キャブレター時代は燃料タンクを比較的容易に外せたので、少し頑張ればプラグ交換できた。FI化が進んだことで、タンクの取り外しもハードルが上がった。

近年のスーパースポーツはもちろん、ネイキッドでもお手上げ……

シリンダーが前傾し、エアボックスがエンジンの直上にある近年のスーパースポーツ車は、かなり多くの部品を外さないと点火プラグに到達できない。またネイキッドやネオクラシック系でも、スーパースポーツと同じようなレイアウトのバイクは、やはり点火プラグに到達するのが困難。工具を揃えたうえで相応の整備スキルを持っていなければ、点火プラグの交換にはチャレンジしない方が無難だろう。

とはいえ点火プラグは消耗品

プラグメーカーのNGKでは一般プラグおよびイリジウムIXプラグなどで3000~5000km、MotoDXプラグで8000~1万kmを交換の目安としている。

近年のバイクは点火プラグがカブるようなトラブルはほぼ皆無。……とはいえ点火プラグ自体は、昔と変わらず「消耗パーツ」ということをお忘れなく。

バイクの燃料供給や点火システムが正常に機能していればカブることは無いし、真っ黒に煤けたり白く焼け過ぎることも無いだろう。しかし燃焼室の中に配置される点火プラグの電極は、常に猛烈な高温・高圧に晒されながら、約3万ボルトもの高電圧で火花を飛ばしている。

4ストロークエンジンはクランクシャフト2回転で1回爆発するので、たとえば1000回転でアイドリングしている時で1秒間に約8回、スーパースポーツがパワーを発揮する12000回転なら、1秒間に100回も火花が飛んでいる。そのため長期間使用していると、電極が少しずつ摩耗していくのだ。

そして電極が消耗して失火が起こると、出力が低下したり燃費が悪化するし、そういった不完全燃焼の状態で乗り続けると、排気系のセンサーや排気触媒を傷めることもある。また、電極が消耗したプラグを使い続けると、点火コイルに負担がかかるためコイルの寿命が短くなるともいわれる。

そのため点火プラグは定期的な交換が推奨されており、プラグメーカーのNGKでは一般プラグおよびイリジウムIXプラグで3000~5000km、MotoDXプラグで8000~1万kmを交換目安としている。使用状況や車種によっても変わるが、この走行距離を点火プラグの賞味期限と考えるべきだろう。

近年のバイクはユーザー自身で点火プラグを交換するのは難しいので、バイクショップに依頼するのが無難。定期点検や車検に合わせて交換してもらうのが、時間やコスト的にも効率が良いだろう。


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