「首都高の青い鳥キング」
私が手に入れた空冷カタナのエンジンは、1986年製の黒エンジン。考えると、それが生まれたのは私が高校二年のときだ。それくらい大昔のクラシックバイクということ。
空冷カタナの750といえば「バリ伝のヒデヨシ」を思い出すが、私はどうしてか、「あいつとララバイ」の首都高の青い鳥キングが青春の憧れだった。1100のカタナは、研二君がアメリカに渡った先で知り合った「ディーブのフルチューンカタナ」が懐かしい。
カタナで首都高を走っているYouTube動画などを作ってみたりしたが、同年代などから結構な反響があった。やはりみんな、あの頃が忘れられないのかもしれない。
「空冷カタナ、オーバーホールの現実」
勉強しながらの分解と清掃なので、ヒマを見てのスローペースだ。全バラまでで、大体半月ほどの時間がかかった。
実際に空冷カタナのエンジンを完全分解して感じたのは、40年近い時間を取り戻すのは簡単ではないことだ。表面的にはキレイでも、計測して数値化すると、その劣化は生半可ではない。
エンジンを分解し始めた当初は、軽いチューニングなどもしたいと「スケベ心」もあったが、現実を知るや、可能な限り「ノーマル維持」が理想だと理解した。
とくに肝心要のクランクシャフトなどは、有名専門店自体でも良いものが手に入らずに難儀している。厄介なことにカタナ1100のクランクシャフトは、空冷Zのように分解が困難な構造で、専門の内燃機職人でも嫌がる。またクラッチの外側にある、「通称・バスケット」とも言われる大きな消耗部品も廃盤状態で、私もこれの入手のために海外サイトを駆けずり回っている。
純正レストアに必要不可欠なオーバーサイズピストンも廃盤、ミッションなどの細かいパーツも同様で、ショップレベルでは再生できないロッカーアームシャフトなども廃盤。エンジン内部の消耗品において廃盤のオンパレードだ。
実際に自分の手で分解して、入手不可能になりつつある主要パーツの存在意義を理解するや、改造チューニングどころではないと思った。良いオイルをケチらずに入れ、壊さないように大事に乗るしかない。サーキット走行など「論外」ということになる。
しかしそれは同時に、バイクとしては「ツマラナイ」ということになってしまう。大型バイクなのでガツンと回して元気よく乗り回すのが正しい姿だ。二律背反、正しい答えはない。それぞれのライダーが決めていくしかないだろう。
ただしエンジンを壊したら、金銭で解決できないことも含め、想像を絶する苦労が待っているのは現実だ。そこから目を背けてはいけない。
「自宅エンジンオーバーホールの意義」
自宅でのカタナエンジンのオーバーホールは、機械好きとしては「至福の時間」であると同時に、旧車の現実を知る「悲しい旅」の始まりでもあった。この先も、さらなる困難が待ち受けているのは避けられないと覚悟している。だが、より深く空冷カタナという存在を知るということにおいては、これ以上の方法はない。
今はまだ、エンジン全バラの段階であるが、通常のバイクメンテでは不可能なレベルな情報量が、肌感覚も含めて私の中に蓄積された。
これらはお金では手に入れられない。悩みながら、自ら油まみれになった者だけ手にいれられる、とても大きな「財産」だ。
これから先は、テクニカルガレージRUNのS社長と相談しながら、可能な限りノーマル維持の方向で、部品の計測、内燃機屋さんにどんな施工をしてもらうか、パーツの再利用、復刻新品パーツの有無などを、お盆明けに決める予定だ。
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