BMWやモト・グッツィなどが積極的に採用しているシャフトドライブは、頑丈そうなルックスだけど一般的なチェーンより何だか構造が複雑そうだし、重そうな感じもする……。バイクに採用されている理由って何ですか?
バイクの後輪、どうやって回してる?
現行バイクのほとんどが後輪駆動。そしてエンジンが後輪を駆動する方法はチェーンが主流で、双璧を成す……まではいかないかもしれないが「シャフトドライブ」もけっこうメジャーだ。
とはいえシャフトドライブは、なんとなく外国車やツアラータイプ専用の駆動方式……というイメージかも。そこでハーレーなどが採用するベルトドライブも含めて、まずは代表的な駆動方式によるメリットとデメリットを簡単に挙げてみた。
チェーンドライブ
シャフトドライブ
ベルトドライブ
この他にも重要な項目として「伝達効率」の違いがある。じつはチェーンドライブは損失が5~10%ほどあり、シャフトドライブは約2%と言われる。となると、同じエンジン出力のバイクなら、理屈の上ではシャフトドライブ車の方が速いということになる……が、スーパースポーツやレーシングマシンには採用されない。
これは前述のように最終減速比の変更が困難なのと、マニアックなところではスイングアームのピボット部の高さを調整しにくい、というのも要因。これはハンドリングやアンチスクワットなどを設定するのに重要なポイントだ。
とはいえレースに出ない市販車なら、伝達効率が良い=燃費が良い、というだけでもシャフトドライブの方が有利なハズ……なのだが、ここは製造コストが影響する。シャフトが後輪を回す部分のファイナルドライブギヤは、精密な加工が必要な「まがりばかさ歯車」が使われることも多く、チェーンやスプロケットと比べるとかなり高コスト。そのため高額なモデル(豪華なツアラーやクルーザー系)でないと採用しにくいのだ。
シャフトドライブの歴史は意外と古い
バイクの駆動方式を歴史的に見ると、ごく初期の自転車にエンジンを積んだようなモデルは、自転車と同様にチェーンドライブが多かった。当時は「革ベルト&プーリー」の方式も少なくなかったが、エンジンの馬力が二桁になる頃には、このタイプは消滅した。
そしてシャフトドライブの登場は意外と古く、1900年代初頭には存在した。当時はクランク軸を車体に対して縦方向に配置した「縦置きエンジン」のバイクが次々と登場し、シャフトドライブは縦置きエンジンと相性が良く、技術的にも、四輪車では一般的な駆動方式だった。
ちなみにスポーツバイク用のベルトドライブは比較的近代の1980年頃から。これはスチールやケブラーなどのコードを織り込んだコグドベルトの登場とリンクしている。
四輪車はシャフトドライブが主流
縦置きエンジンといえばシャフトドライブ
縦置きエンジンといえばBMW(Rシリーズ)やモト・グッツィが有名で、これらはもちろんシャフトドライブを採用。ホンダのフラッグシップであるゴールドウイングも、初代から現行モデルまでシャフトドライブだ。
縦置きエンジンでチェーンドライブ(またはベルトドライブ)は、市販量産車ではおそらく存在しない。ところがアメリカのボスホス(四輪車のV8やV6エンジンを搭載)や、同系統のカスタム車は縦置きエンジンにもかかわらずチェーンやベルトドライブが多い。
ちなみにシャフトが後輪を回す部分を、四輪車に倣って「デファレンシャルギヤ」とか省略して「デフ」と呼ぶことも多いが、これは間違い。デファレンシャルギヤは四輪車の左右のタイヤがカーブを曲がる時の回転差を吸収するための「差動歯車」のことなので、後輪がひとつしかないバイクには必要ない。バイクメーカーによって多少異なるが、一般的に『ファイナルドライブギヤ』が正しい呼び方だ。
BMWといえばフラットツイン&シャフトドライブが定番
縦置きVツインエンジンのモト・グッツィもシャフトドライブ
ホンダのフラッグシップもシャフトドライブ
市販量産車最大排気量もシャフトドライブ
横置きエンジン車もシャフトドライブを採用
1970年代頃からバイクの大排気量化や高出力化が顕著になり、欧米では高速・長距離ツーリングがメジャーになってきた。すると(当時の)チェーンの耐久性が問題になり、メンテナンスの手がかからないシャフトドライブが注目され、横置きエンジンのバイクへの採用も拡大した。
80年代に入ってもその傾向は続き、国産メーカーも多気筒の大排気量車だけでなく、中型アメリカン(ホンダのNV400、ヤマハのドラッグスター400、スズキのイントルーダー400、カワサキのエリミネーター400など)も採用。ヤマハは50ccのファミリーバイクにもシャフトドライブ車があったほどだ。
巨大なパワーをシャフトで伝達
デメリットを克服し、美しさも追求するBMWのシャフトドライブ
シャフトドライブはスロットルを開けると車体後部が持ち上がり、スロットルを閉じると車体後部が沈む「トルクリアクション」という特性があり、この独特な癖を好まないライダーもいる。そこでBMWはダブルジョイントのシャフトと、ギヤケースにスイングアームと並行するトルクロッドを設けた「パラレバー」を1980年代後半に考案し、トルクリアクションを大幅に軽減することに成功した。
構造は異なるが、カワサキが近年まで生産していたスポーツツアラー1400GTRのテトラレバーリヤサスペンションや、トライアンフの現行タイガー1200のトライリンクスイングアームも、トルクリアクションを抑制する機構だ。
またシャフトドライブは重量がかさむのもデメリットとされているが、片持ち式のスイングアームにシャフトを内蔵するなどして構造を簡素化したり、近年はファイナルドライブギヤやギヤケースもコンパクト化することで、初期のシャフトドライブより軽量化も進んでいる。
ルックス的にもシャフトドライブはゴツい印象があるが、BMWのR18は美しいニッケルメッキのシャフトを敢えてオープンタイプにすることで力強さと美しさを演出している。
海外勢は旺盛だが、国内のシャフトドライブは……
外国メーカーは縦置きエンジンに限らず、BMWのK1600やトライアンフのタイガー1200など横置きエンジン車にも、最新技術のシャフトドライブを採用。対する国産の現行モデルは、実質的にホンダのゴールドウイングのみと寂しい状況。近年までホンダのVFR1200やヤマハのVMAX1700などの大型モデルではシャフトドライブ車が存在したが、ほとんどが生産終了した。
そもそも近年は国内メーカーの縦置きエンジン車は、ゴールドウイングくらいしか存在しない。また70~80年代頃と比べ、チェーンの性能(伝達効率や耐久性など)が各段に進化しているので、横置きエンジン車にシャフトドライブを採用する理由も薄れてきたのかもしれない。とはいえメンテナンスに手がかからなかったり、静粛性などメリットも多いので、国産メーカーもシャフトドライブの火を消さないで欲しい……、と感じる部分もある。
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