最近、国産スポーツバイクの多くが装備する「アシスト&スリッパークラッチ」。ネーミングからなんとなく機能はイメージできるけれど、そんなにおトクな機構なの? レースとかサーキット走行しなくても効果があるの? じつはこのクラッチ、すべてのライダーに恩恵があります!!
エンジンのパワーが増すほど、クラッチレバーが重くなる!?
クラッチの役目はエンジンのクランクシャフトとトランスミッションの間で回転を断続すること。
停止時やシフトチェンジを行う際にはクランクとトランスミッションを切り離し、走行中は繋げる。普段はクラッチスプリングが突っ張る力(張力)によってクラッチが繋がっていて、クラッチレバーを握ってクラッチスプリングを縮めることでクラッチが切れる仕組みだ。
排気量や気筒数などエンジンの種類によってパワーやトルクが異なるが、クラッチはその駆動力を余さずロス無く後輪(トランスミッション)に伝えるために、クラッチ板のサイズ(直径)や枚数、クラッチスプリングの強さなどを設定して、クラッチの容量を決めている。……が、大排気量のハイパワーバイクになると、少々問題が発生する。容量が足りないと、クラッチが滑ってしまうのだ。
そこで大きな駆動力に負けてクラッチが滑るのを回避するには、クラッチ板のサイズを大きくするのがもっとも効果的だが、当然エンジンそのものが大きくなってしまうので限度がある。そこでクラッチ板の枚数を増やす(接触面積が増える)手段もあるが、これも寸法や重量の増加などで限度がある。そこでサイズや枚数を増やさずにクラッチを強化するには、反発力の強いクラッチスプリングを使う方法がある。ただしコレだと、クラッチを切る(クラッチレバー操作)のに大きな力が必要になる。端的に言えば『パワーが増すほどクラッチレバーが重くなる』わけだ。
ハイパワーモデルのクラッチを軽くする画期的な機構
かつてはビッグバイクの重いクラッチを操作できるのが一人前のライダー、みたいな風潮もあったが、近年のハイパワー化は凄まじく、根性でクリアするのは難しい。かといってエンジンの大型化や重量増に目を瞑ってクラッチの大径化や枚数を増加するわけにもいかない。
そこで登場したのが『アシスト&スリッパークラッチ』(「A&S」「アシスト&スリッパー」は株式会社エフ・シー・シーの登録商標)で、クラッチ板を保持する部品(インナーハブ)が分割構造になり、かつ「クサビ状」にセットされている(上図の濃い緑と薄い緑の部品)。クランクシャフトからエンジンの駆動力がかかっている状態だと自動的にクサビが噛み込んでクラッチの圧着力を強めるため、クラッチスプリングの反発力を強くする必要がなくなった。だから軽い力でクラッチが操作できるのだ(ライダーの力を「アシスト」する)。
また、走行スピードと選択したギヤが合っていないような急激なシフトダウンを行うと、過剰なエンジンブレーキが発生して後輪がロックしたりホッピングする危険があるが、そんな後輪がエンジンを回そうとする力(バックトルク)に対しては、自動的にクサビが緩む方向に動いてクラッチの圧着力を弱め、車体の挙動を穏やかにしてくれる。クラッチが滑る方向に作用するので、こちらは「スリッパー」と呼ばれる。
実際にはスリッパー機構の方は、かなりハードなライディングや操作ミスをした時でないと作動しない安全装置的な機能だが、アシストの方はクラッチ操作力が相当に軽減されるので、万人にとって恩恵のある機能だ。
レース用のスリッパークラッチはナニが違う?
アシスト機能は比較的近年に登場したが、過剰なエンジンブレーキによる後輪のロックやホッピングを防ぐスリッパー機能はかなり以前から存在する。バックトルクをコントロールする機能なので、「バックトルクリミッター」と呼ぶこともあるが、機能的にはスリッパークラッチと同じものだ。
アフターパーツやレース用のスリッパークラッチとしてはイタリアのSTM社が有名で、分割式のインナーハブでクラッチ板の密着度を緩める原理自体はバイクメーカーの既存のスリッパークラッチと同様だが、実際の構造はかなり異なる。
そして最大の違いはバックトルク(エンジンブレーキ)の強さをどのレベルでスリップさせるか、そしてどのレベルで繋げるかを緻密にセッティングできるところ。エンジンブレーキを単純にキャンセルするのではなく、安定してコントロールすることで素早いターンインやドリフトが可能になるからだ。
※本記事は“ミリオーレ”が提供したものであり、文責は提供元に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
あなたにおすすめの関連記事
慣らし運転を行うと、パワーを引き出せる!? バイクのエンジンの内部では、数多くの金属部品が擦れ合ったり噛み合ったりして動いている。これらの金属部品は新車の状態では機械加工されたばかりなので、部品の角や[…]
クラッチ本体の構造は同じだが…… 二輪で世界初の油圧式クラッチを採用 メリットが多い油圧式が主流……というワケではない不思議 昔からあるワイヤー式のクラッチは、ワイヤー注油などのメンテナンスが必要で、[…]
マフラーは右側が主流 バイクや自転車といった二輪車は、身体でバランスをとって乗るモノ、と感じている人が多いだろう。もちろんそれは正解だが、ならばバイクそのものも左右対称に作られていて、重量的にもきちん[…]
指定されたガソリンを入れよう! 最初に答えから言ってしまうと「ハイオク指定のバイクにレギュラーを入れるのはNG!」なのだが、まずはその理由を解説。 ハイオクとは、高いという意味のハイと、オクタン価を合[…]
そもそも「ライテク」って何だろう? 「ライテク」と聞くと、ハイスピードで深くバンクして曲がるような、端的に言えば飛ばすためのテクニック、と感じるライダーは多いだろう。もちろんレースやサーキットで好タイ[…]
最新の記事
- ホンダが電動トライアルバイク「RTLエレクトリック」で全日本トライアル参戦! ライダーは元世界チャンピオンの藤波貴久
- 独尊の水冷V型2気筒クルーザーに待望の250が登場! ヒョースン「GV250」シリーズ3機種を一挙発売
- ヤマハの新型モデル「YZF-R9」日本発売は2025年春以降! ウイングレット装備の3気筒スーパースポーツ
- 【正式発表間近】カワサキが「W230/メグロS1」「KLX230/S/SM」の発売時期を明らかに!
- 【SCOOP特別編】ホンダ新型CB400は…こうなる!! プロがその姿を大胆予想〈③装備&デザイン編〉
- 1
- 2