MotoGPとWSBKをサポート! オージーケーカブトのモータースポーツを通したブランド戦略とは?
●文:[クリエイターチャンネル] 風間ナオト ●写真:Kabuto
MotoGPのアレイシ・エスパルガロ選手と契約
先日、オージーケーカブトが、MotoGPを戦うアレイシ・エスパルガロ選手(アプリリア・レーシング)と契約を締結したことを発表した。
これは、昨年、KTMでMotoGPを走ったレミー・ガードナー選手の契約に続くもので、ガードナー選手がWSBK(スーパーバイク世界選手権)のGYTR・GRT・ヤマハ・WorldSBK Teamに移籍したことにより、大阪に本拠地を置くヘルメットメーカーは、図らずもレース専用のプロトタイプ、市販車ベースのプロダクション、両カテゴリーの世界最高峰を走るライダーをサポートすることとなった。
2007年の鈴鹿8耐で高まったレースでの認知度
以前のオージーケーカブトは、コストパフォーマンスに優れたストリートヘルメットのイメージが強く、筆者がロードレース専門誌に在籍していた2000年代は、125ccクラスで3度全日本チャンピオンに輝いた菊池寛幸選手や辻村猛選手らが被っていたものの、サーキットにおける存在感は希薄だった。
そのイメージが大きく変わったのは、同社独自の空力デバイス“ウェイクスタビライザー”を採用した『FF-5』が登場した2007年のことだ。
その頃すでにサポートしていた秋吉耕佑選手は、当時、スズキのMotoGPマシン開発にも携わっており、開発部の口野彰義氏は「秋吉選手との協力で、高速域でも安定したヘルメットの開発が一気に進み、弊社の分岐点となりました」と振り返る。
走行中に発生する帽体付近の気流をコントロールし、負荷を軽減する“ウェイクスタビライザー”は、2009年に特許を取得。長年にわたって研究・風洞実験が重ねられ、現在ではさらに進化している。
その2007年の鈴鹿8耐では、加賀山就臣選手と秋吉選手のコンビで臨んだヨシムラが、1978年、1980年に続く27年ぶりとなる3回目の優勝。前年の辻村選手に続き、カブト・ユーザーが抜群の注目度を誇るレースで表彰台の頂点に立ち、『FF-5』の認知度も大いに高まった。
海外ではブランドイメージの向上に大きな影響
近年、日本国内でのシェアを徐々に拡大している同社が、次に狙うのは海外市場だ。
「海外市場への参入にMotoGPは無くてはならないカテゴリーですし、カブトのヘルメットが最高峰のレースで戦えることの証明になります。また、そこで得たデータを開発セクションで分析・検証し、製品開発にフィードバックすることで、より良い製品作りにも役立つと考えています。モータースポーツへのサポートは、特に海外ではブランドイメージの向上に大きな影響があります」と口野氏は海外トップライダーと契約した狙いを語る。
現在は海外の専任スタッフが基本的にサービスを行い、アジア・パシフィック・ラウンドについては、国内のスタッフがメインでサポートに当たる。
フィッティングなど、選手ごとの調整・カスタマイズは、シーズン前に実施されるテストの段階で済んでおり、アレイシ選手からは「空力性能に優れているので、内装のパッドをキツくしなくてもヘルメットがブレず、ブレーキングでも加速でも高速域でも安定している。ベンチレーションも効率よく効いている」とのコメントをもらったそうだ。
サーキットで得た情報は一般ユーザーにも有益
2023年にサポート選手が着用する『F-17』は、ストレートだけでなく、全方向からの空気抵抗を低減するエアロフォルムを採用。前述した“ウェイクスタビライザー”に加え、こちらも特許出願中の走行中に発生する揚力を抑制する“クレストスポイラー”を装備する。
高強度複合素材を使用した帽体は、構造解析を導入して各部の強度を最適化し、強度の向上と軽量化を高い次元で両立。センターロックと二軸ラチェットシールドシステムによって静粛性も大きく向上している。
“点のフィット感から包み込むフィット感”へと設計思想から見直された内装は、サポート選手の多くから「これまでのモデルよりも被り心地が良くなった」と評価されており、サーキットで得られた情報は、一般ユーザーにとっても有益なものとなっているようだ。
レースは古くから“走る実験室”ともいわれるが、MotoGPクラス、WSBK以外にも世界選手権を戦うライダーをサポートするオージーケーカブトの世界への挑戦は、まだまだ始まったばかりだ。
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