MotoGPのヘルメットを牛耳る二大勢力が存在! スペインの新興勢力も虎視眈眈と覇権を目指す!?
●文:[クリエイターチャンネル] 風間ナオト
2000年代に入って勢力を急拡大したスターライン
MotoGP・第14戦サンマリノGPでアンドレア・ドヴィツィオーゾ(WithU ヤマハ RNF・MotoGPチーム)が20年にわたる世界GPでのキャリアに幕を下ろしましたが、その際に被っていたスペシャルヘルメットにも注目が集まりました。
左前頭部にトレードマークとなっていた白馬、右前頭部に大ファンだった日本の漫画『聖闘士星矢(セイントセイヤ)』にインスパイアされたペガサスのモチーフ、そして頭頂部には憧れのレジェンド、ケビン・シュワンツのゼッケンNo.34が描かれる等々、思い入れたっぷりのデザインは、長い期間、応援してきたファンにとって感涙ものでしたが、ヘルメットに小さく入った『Star Line(スターライン)』という文字に気付いた方もいるのでは?
『Star Line』こと『Starline Designers(スターライン・デザイナーズ)』は、イタリア・マルケ州、ペザロでロベルト・マルキオンニ氏が設立したデザインスタジオで、ドヴィツィオーゾは125cc時代からカラーリングを依頼しています。
当日、優勝したフランチェスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)も顧客のひとりで、NBAの元スター選手、デニス・ロッドマンをトリビュートしたスペシャルヘルメットでこのレースに臨んでいました。
他にも2020年のチャンピオンでレプソル・ホンダ入りが発表されたジョアン・ミル、来季、LCRホンダで走るアレックス・リンス(共にチーム・スズキ・エクスター)、KTM移籍が決定しているジャック・ミラー(ドゥカティ・レノボ・チーム)、ホルヘ・マルティン(プリマ・プラマック・レーシング)、マルコ・ベッツェッキ(ムーニー・VR46・レーシング・チーム)、レミー・ガードナー(テック3・KTM・ファクトリー・レーシング)など、スターライン・ライダーはMotoGPクラスのレギュラーだけでもかなりの人数を誇り、バレンティーノ・ロッシ絡みのデザインでおなじみのアルド・ドゥルーディ氏率いる『Drudi Performance(ドゥルーディ・パフォーマンス)』と勢力を二分しています。
WSBK(スーパーバイク世界選手権)に目を移してもアルバロ・バウティスタ(Aruba.it・レーシング)、アレックス・ロウズ(カワサキ・レーシングチーム・WSBK)、ギャレット・ガーロフ(GRT・ヤマハ・WSBKチーム)といったトップライダーのヘルメットにも手描き風の『Star Line』ゴロが入っています。
日本のファンに馴染み深いレプリカヘルメット、そしてロッシの歴代モデルも一部はスターライン
レースにそこまで興味のない方でもアライヘルメットから販売されている、星条旗があしらわれたニッキー・ヘイデン、大きく入った“侍”の文字が目立つダニ・ペドロサのレプリカに見覚えがある方は多いでしょう。
モータースポーツに強い情熱を持つマルキオンニ氏は、カート、自動車レース、モトクロス、エンデューロ、ミニモトなどのデザインに携わる中で、ロベルト・ロカテリ、マヌエル・ポジャーリ、マルコ・メランドリらと出会い、デザインしたヘルメットを使用したロカテリが2000年、ポジャーリが2001年に世界GP125ccクラスのタイトルを獲得。2002年にはマルコ・メランドリが250ccクラスのチャンピオンに輝きます。
その後もドヴィツィオーゾ、マルコ・シモンチェリ、ホルヘ・ロレンソといったライダーが続々と戴冠したこともあり、契約ライダーも増加。数多くのスペシャルヘルメットを着用し、MotoGPクラスを3度制したロレンソは、4輪レースに参戦する今も頭頂部の赤い“X”マークが特徴のデザインを使っています。
ロッシ=ドゥルーディのイメージが強いですが、実はカジバ・ミト125で戦ったキャリア最初期の国内スポーツプロダクション時代はマルキオンニ氏のお世話になっていて、2005年のウィンターテストで被った洗剤パッケージのパロディー、同じく2005年のイタリアGPの名誉博士号授与記念、USインターカラーが印象的なアメリカGPのヤマハ50周年記念、最終戦バレンシア仕様などは氏のデザインだったりします。ちなみにこの頃のヘルメットには『Star Line』ではなく、マルキオンニ氏のファーストネームに由来する『by Roby』と刻まれているのもマニアックなポイント(AGVから限定販売のレプリカは『Star Line』ロゴ)。
転写シートを駆使した細やかな処理と繊細なペイントテクニックが評価され、近年はレースフィールドの仕事だけでなく、HJCがリリースしているアメリカン・コミックスのデザインも請け負っているようです。
蛍光イエローが世界に衝撃を与えたドゥルーディ
一方の雄、ドゥルーディも2年連続タイトルに向けて邁進するファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハ・MotoGP)、復調しつつあるマーベリック・ビニャーレス(アプリリア・レーシング)、ロッシの愛弟子、フランコ・モルビデリ(モンスターエナジー・ヤマハ・MotoGP)と異父弟でもあるルカ・マリーニ(ムーニー・VR46・レーシング・チーム)、エネア・バスティアニーニ、ファビオ・ディ・ジャンアントニオ(共にグレシーニ・レーシング・MotoGP)とスターライン陣営に引けを取りません。WSBKのジョナサン・レイ(カワサキ・レーシングチーム・WSBK)もドゥルーディ・ライダーとして前人未到の6連覇を果たしました。
イタリアのエミリア・ロマーニャ州出身で、ダイネーゼのデザインを手がけていたドゥルーディ氏がモータースポーツと深く関わることになったきっかけは、ロッシの父、グラツィアーノのヘルメットをデザインしたことだといわれ、その後、ランディ・マモラの物も仕立てるなどして少しずつ顧客を増やしていきますが、1992年、大人気だったシュワンツのヘルメットに大胆なグラフィックを施したことで一気に知名度が上がります。
シンプルな線や面を組み合わせたデザインがまだまだ主流を占める中、蛍光イエローを使用し、星やチェックといった様々なモチーフを詰め込んだデザインは衝撃を与え、アライから発売されたレプリカも大ヒット。ヘルメットデザインの世界に革新をもたらしました。同じく1990年代の前半に登場したミック・ドゥーハンのいわゆる“スイカ”デザインも氏の仕事のようです。
ロッシが被ってきたヘルメットの作風から、ポップな色使い、かわいらしいイラストの印象が強いですが、ドゥルーディ氏自身は昔気質の職人肌。最初にイメージを紙にスケッチし、続いてヘルメットに直接手描きして、デザインを煮詰めていくのだそうです。
“太陽と月”カラーが懐かしいバレンティーノ・ロッシ
着々とシェアを拡大するスペインからの新興勢力
そしてここ数年、このイタリア勢2強に割って入ろうとしているのが、スペインの『DAVE DESIGNS(デイブ・デザインズ)』です。
契約ライダー数では及びませんが、かつての絶対王者マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)、弟のアレックス・マルケス(LCRホンダ・カストロール)に加え、元々はスターライン陣営だったポル・エスパルガロ(レプソル・ホンダ・チーム)にラウル・フェルナンデス(テック3・KTM・ファクトリー・レーシング)となかなかの顔ぶれ。フェラーリF1のカルロス・サインツが名を連ねている点も特筆に値します。
先日、トライアル世界選手権で驚異の16連覇を達成したトニー・ボウ(レプソル・ホンダ・チーム)の金色に輝くチャンピオンヘルメットもデイブ・デザインズによる物でした。
デザイン的には、ハッキリと色面を分割した、明快なテイストが特徴といえます。
マルケス・レプリカは一般ユーザーの人気が高く、契約するSHOEIは歴代トップモデルに加え、この夏、クラシック路線のグラムスターにもデザインを採用しました。
以前はマルクもロッシが経営に携わる『VR46』とのマーチャンダイジング契約を通じてドゥルーディにヘルメットのデザインを依頼していましたが、2015年いっぱいで関係を解消。一説にはその年のマレーシアGPでロッシがマルクを蹴って転倒させ、険悪な仲になったせいなのでは? とも囁かれていますが、当の本人たちは噂を否定しています。
優れた育成システムをバックにスペイン人ライダーがMotoGP各クラスを席巻しているだけに、今後、さらにシェアを拡大する可能性は十分でしょう。
コース上でのバトルがモータースポーツで一番の醍醐味ですが、気になる部分の勢力争いをチェックしてみるのもまた面白いかもしれませんね。
マルク・マルケスのレプリカヘルメット、主要モデルをプレイバック
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