![本田宗一郎が激しく反応?!──ヤマハ(YAMAHA)FZ250フェーザー[1985]【柏 秀樹の昭和~平成 カタログ蔵出しコラム Vol.25】](https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2025/11/yamaha-fz250phazer.jpg?v=1764404800)
ライディングスクール講師、モータージャーナリストとして業界に貢献してきた柏秀樹さん、実は無数の蔵書を持つカタログマニアというもう一つの顔を持っています。昭和~平成と熱き時代のカタログを眺ていると、ついつい時間が過ぎ去っていき……。そんな“あの時代”を共有する連載です。第25回は、本田宗一郎をも驚かせたというFZ250フェーザーです。
●文/カタログ画像提供:柏秀樹 ●外部リンク:柏秀樹ライディングスクール(KRS)
超高回転型4ストローク・マルチのパイオニアはケニー・ロバーツもお気に入り
今回ご紹介するバイクは1985年春に登場した超高回転型エンジンを持つヤマハFZ250 PHAZER(フェーザー)です。
フェーザーはPHASE:1章、最終章など章を意味するフェイズから派生した言葉ですが、600や1000ccのFZシリーズに使ったFAZER(フェザー)とは言葉の響きが似ており、混用されやすいネーミングとも言えます。
4サイクルスポーツ SUPER QUARTER の文字が躍る。
ヤマハは変化や発達の段階、時期を表す英語「phase」から、新しい変化を起こす者=Phazerと命名。一部のライダー向けの「高性能」ではなく、革ツナギを着なくても似合うスーパースポーツ、誰でも楽しめる「好性能」を主張しました。
FZ250の初代カタログでは、「PHAZE-1」から「PHAZE-5」まで5つの章立てでエンジンや車体系の解説をしています。
『新たなるフィロソフィーの洗礼を受け、FZ250フェーザーは、いま、未来に向かう高性能知性体となった。』とし、独自のデザインと4気筒エンジンをアピール。
ヤマハの袋井テストコース開催されたFZ250フェーザー(以下、FZ250)のプレス向け試乗会に私も参加しましたが、ロードレース界の偉大なるレジェンド、ケニー・ロバーツさんの激走が何よりもトピックになりました。
それまで聞いたことがないジェット機のようなサウンドを響かせてテストコース名物のS字コーナーをFZ250は異常な速さで駆け抜けたのです。
速さだけでなく俊敏な左右切り返しによるフルバンクにも関わらず路面に吸い付くような安定感に満ちた走りっぷりでプレス関係者の度肝を抜きました。
現役GPライダーを退いたばかりのケニーさんがFZ250から降りて開口一番「エンジンもファンタスティックだが、何よりもGPマシンに一番近いハンドリングがファンタスティックだ!」と絶賛。
大のお気に入りとなったFZ250をケニーさんはアメリカ本国に持ち帰り、自身のプライベートコレクションに入れ、後の練習走行にも愛用しました。
スーパースポーツ的な走りのイメージを伝えるカタログカット。
アメリカのバイク雑誌「CYCLE」の取材に対して「大型のストリートバイクは重すぎてモタモタするがFZ250はまるでGPマシンを操る世界と同じ。ステアリング操作に高精度な対応をしてくれるからフルブレーキ、コーナリング、立ち上がり。いかなる時も安心していられる」とコメントしています。
当時のヤマハは2ストのナナハンキラーRZ250を用意しているけれど、より多くの一般的なライダーに好まれる4ストロークバイクが不可欠と判断。具体的にはコンスタントにベストセラーを続けていたホンダVT250Fの対抗馬としてヤマハが用意したのがFZ250だったというわけです。
もう一人の偉大すぎる人、ホンダの創業者・本田宗一郎さんがデビューしたてのFZ250を見て激しく反応したと当時のホンダエンジニアから聞きました。
本田宗一郎さんはマン島TTレースを筆頭とする世界の頂点を目指すためのGPマシンとしてイタリアの古豪ジレラに敬意を払っていました。ジレラは1950年代の世界最速メーカーだったからです。
しかもジレラの500、250GPマシンはDOHC並列4気筒・前傾シリンダーだけでなく燃料タンクとカウルが一体(非分離)に見える独自のスタイルだったです。
ヤマハが「ハイブリッドシェイプ・カウル」と呼んでいるFZ250のカウリングとフューエルタンクカバーを複合させた形を見て私は、このデザインのルーツはジレラにあったのかもしれないと思いました。いずれにしてもヘッドライトまわりからそのままタンクサイドまで非分離のスタイルは量産車としては実にユニーク。レーサーレプリカ系にはない独自性に溢れているものです。
YAMAHA FZ250 PHAZER[1985 model]主要諸元■全長1950 全幅690 全高1060 軸距1350 最低地上高130 シート高750(各mm) 車重138kg(乾)■水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ 249cc 45ps/14500rpm 2.5kg-m/11500rpm 変速機6段 燃料タンク容量12L■タイヤサイズF=100/80-16 R=120/80-16 ●当時価格:49万9000円
第二次HY戦争の端緒になった?
「ホンダのお家芸ともいうべきマルチシリンダー・超高回転型エンジンに迫り、しかも当時のジレラGPマシン以上の45度前傾をヤマハ発動機販売がやったこと。加えてジレラテイストを思わせるユニークな外観に対して、本田宗一郎さんだけでなく国内外のバイクエンジニアが見てもFZ250の登場はインパクトがあったと思います。
FZ250デビューから1年ちょっと遅れの1986年4月にホンダはカムギアトレーン35度前傾DOHC4気筒エンジンのCB250FOURを発売。もしも準備なしに1年ちょっとで発売に漕ぎ着けたとしたら異常な開発速度だったとも言えます。しかし、スズキがGS250FWを先行販売していたこともあるためホンダもすでに250cc4気筒モデルの開発準備をしていたと考えるのが普通かもしれません。
ともあれFZ250とCBR250FOURは同じ45ps/14500rpmだけでなく、2.5kg-mのトルク値、乾燥重量138kgまで同じ。まさしくそれは偶然か必然か不明ですが乗り味はまったく別でした。ちなみにCBR250フォアはFZ250より5万円高価な54万9000円でデビュー。
ここから1990年代に向けて超高回転型レーサーレプリカ時代が本格化していきました。
FZ250デビュー前のヤマハといえばホンダだけでなくスズキとカワサキまで巻き込んで1980年代前期に激しい販売合戦を繰り広げ、原付3台まとめて10万円などという乱売が日常化したのです。
そんな経緯を経て、まだ後遺症が残っていたはずのヤマハが1985年を境にエンジン前傾45度のFZ750とFZR400、FZ250フェーザー、SRX400/600、TZR250、セロー225、DT200R、VMAX、ミニバイクレースのYSR50/80などヒットモデルを連発。
ホンダがやっていないこと、やらないことを念頭にしたヤマハ独自の商品企画が功を奏したとも言えますが、それは実質的な第2次HY戦争の始まりだったとも言えます。
とりわけ水冷4気筒のFZシリーズはヤマハの象徴的な存在として君臨しました。従来の4気筒スポーツに当てはまらないヤマハ独自のジェネシスコンセプト(創世紀の意味)を大々的に立ち上げたのです。
エンジンの前傾45度だけを指してジェネシスと思っている方が多いのですが、エンジンの高効率化だけでなく、操縦性に大きく影響する低重進化、ニーグリップ部のスリム化などライダーが動きやすいポジションなど総合的な問題解決を目指した作り込みを指してジェネシスと呼んだのです。
PHASE-1はジェネシスコンセプトについて。PHASE-2はジェネシスがもたらしたポテンシャルについて──と続く。
エンジンの高出力のために採用した45度のシリンダー前傾は4連装のダウンドラフト型キャブレター装備が可能となります。ストレート吸気による高回転高出力確保だけでなく充填効率向上による低中速回転域での扱いやすいエンジン特性にも貢献。
しかも前傾シリンダーによって、その上部に7.1Lに及ぶ大型エアクリーナーの装着が可能となり、ハイパワーだけでなく吸気抵抗の大幅な低減により扱いやすく低燃費なエンジンを促進。
しかも垂直に近い4気筒シリンダーエンジンでは、どうしてもニーグリップ部分がスリムにできないという問題を抱えますが、45度ものシリンダー前傾化ではニーグリップ部分がスリムにできるだけでなく、燃料タンクは従来の位置ではなくシリンダー背後からシート下部への配置が可能となり低重進化とマスの集中化も可能にします。45度のシリンダー前傾化によって排気もストレートにしつつ4into1マフラーで排気脈動効果を最適化しています。
吸気通路の有効面積を拡大するためウエストバルブはバルブステム下部をスリム化。バルブ周長×バルブリフト量=有効吸気バルブ面積をできるだけ稼ぎながら、コンパクト燃焼室のためにペントルーフ型燃焼室を採用しています。
インナーパッド式直押しリフターによるダイレクト・カム駆動方式に軽量でタフなクロモリコンロッド採用などムービングパーツについても新たなエンジン創造のために持てる技術をすべて注ぎ込む作り込みとしていました。
高性能ではなく「好」性能を謳う
FZ250に投入した新技術は「高出力=高性能」が目的ではなく、カタログでは扱いやすくファンなバイクのための「好」性能だと言い切っています。
この時代に入るとフレームはステアリングヘッドからスイングアームピボット位置まで直線的にメインパイプを結ぶ形式が主流になってきました。FZ250はエンジン両サイドから包み込むワイドなフレーム構造として従来にはない高い車体剛性としています。
袋井のテストコースではその剛性と前後16インチホイールの組み合わせによる無類の走行安定性に、直前に見たケニーさんの走りと自分の走りが重なって見えました。GPライダーとのスピード差は如何ともし難いのですが、それまでに味わったことのない絶大なる安心感は250ccという枠を完全に超えた次元でした。
16インチ前輪タイヤに多少なりとも不安をイメージしていた自分が完全に裏切られて濃厚な接地感があるからこそ思い切りアクセルを開けたままコーナーに突っ込んでいけるその楽しさ。1万6000回転まできっちり回すほどにコンパクトな車体がますますコンパクトになっていく。人車一体という言葉はまさにこれ! とヘルメットの中で叫んだほどです。
女性ビギナーにも乗りやすい特性を持ちながらも、エキスパートがエンジンパワーを限界まで引き出して存分に楽しめる作り込み。まさしく懐の深いバイクであると実感したのです。
白い車体に赤を取り入れたシルキーホワイト/レッドと同年6月にシルキーホワイト/ブルーがデビュー。
思いのほか熱い支持が集まり、ヤマハは精悍なニューヤマハブラックの「ブラック・フェーザー」を追加しました。
ブラック・フェーザーが投入された。
当時は全国にYSP(ヤマハ・スポーツ・プラザ)店が多くなり、他との差別化のために1985年秋、YSP店専用のリミテッドバージョンが追加されました。価格は53万5000円。
前後タイヤは新たにピレリMT45ZETAを世界で初めてFZ250に採用して注目を集めました。タイヤのコンパウンドを前後別々に設定して偏摩耗を低減し、特にフルブレーキ時のタイヤの食い付き:アドヒージョン特性アップが大きな魅力でした。
YSP限定バージョンはブラック&レッドの専用ツートンカラーとしながらエアロチューンとして整流効果を高めるアンダーカウルを装備。マフラーのサイレンサー部は黒塗りからスパルタンなイメージのサチライト・ニッケルメッキ・サイレンサーを装備。YSP専用オプションとしてリヤシングルシートカウルを用意しました。
YSP限定バージョン。
1986年7月1日には吸排気系をリファインして中速回転域のドライバビリティを向上。リヤブレーキをディスク式へ。セミメタルパッド&対向ピストン型キャリパーで制動力をアップ。これにより乾燥重量は+1kgの139kgとなりました。車体カラーはシルキーホワイト/ストーミーレッドとシルキーホワイト/レジナブルーそして特別限定車としてファインシルバーのFZ250がプラス1万円の52万5000円で登場しました。
前輪のみ16インチのバイクは数多くデビューしましたがFZ250のように前後輪とも16インチホイールを持つバイクは意外に少なく、しかも一般的な速度域から超高次元のハイスピードライディングまでカバーする秀逸なハンドリングの持ち主となると極めて稀有な存在だった思います。
FZ250は後にレプリカスタイルのFZR250へと姿を変えましたが、独自のスタイルを持つFZ250フェーザーとして熟成を進めて欲しかったというのが本音です。
こちらは1986年登場の2型モデル。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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