【元祖ミリタリーハーレー】戦中・戦後を切り開いた伝説「WLA」の魅力と歴史を徹底解説!

【元祖ミリタリーハーレー】戦中・戦後を切り開いた伝説「WLA」の魅力と歴史を徹底解説!

長い歴史の中で生み出されたレガシー(遺産/伝説)こそ、ブランドを語る上で欠かせないもの。ハーレーダビッドソンにとって、(俗に言う)第3世代のサイドバルブエンジンを搭載したWLAミリタリーは、民間市場への払下げによってブランドカルチャーを広めることに成功。戦時中とはいえ、7万台+3万台分のスペアパーツが生産された(諸説あります)WLAはまさに戦後のハーレーダビッドソン躍進の原動力だったのです。


●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:Bonham Cars

サイドバルブ方式を採用した”フラットヘッド”

WシリーズはショベルヘッドやエボといったOHVエンジンよりはるか昔、1937年に3世代目、739ccのサイドバルブ(フラットヘッド)エンジンとして登場。

それまでと変わって再循環オイルシステムを採用するなどメンテや操縦が近代化されたことが大きな特徴となっています。

45Ci(約739cc)のWシリーズはスタンダードモデルで低圧縮エンジン、高圧縮モデルはWL、第二次世界大戦中にアメリカ軍に納品されたのがWLA(1941~1945/末尾のAはアメリカ、カナダ仕様はWLC)を名乗ります。

WLAの生産は、1941年12月に米国が第二次世界大戦に参戦し、軍用オートバイに対する需要によって開始されました。

ちなみに、ハーレーダビッドソンがWLAを納入する以前は、鹵獲したドイツ軍のBMWをコピーした水平対向エンジン、シャフトドライブのプロトタイプ(42XA)も試されましたが、1000台ほどが試験的に作られたのみで、戦場へはほとんど行かなかったとされています。

1944年モデルの42WLA。イギリスでリペイントされ、シートやサドルバッグなどは新品に替えられています。フロントのケースはトンプソン機関銃むけ。

サイドバルブ、オイル循環システムが特徴のWシリーズ(W/WL/WLA/WLC/WLD/WR)。スモール/ベビーツインエンジンの高圧縮タイプ(45Ci:約739cc)を搭載。

制式採用され多数が活躍したミリタリーハーレー

WLAが制式採用される以前は、軍によってインディアン、デルコといったメーカーと競合になり、試作モデル39WLAがその堅牢さ、生産性の高さ、そしてコストといった面でリード。採用後42WLAへと進化し、1941年9月から1945年8月までの間に多数のミリタリーハーレーが納入されたとのこと。

なお、当時のハーレーダビッドソン最初の数字は生産年度を表すものでしたが、45年までの間はずっと42が冠されています。

これは、軍の調達部門からの要望で、車体はもちろんパーツナンバーまで42を接頭数字に統一することで事務仕事を簡略化したかったのだとか。

たとえば、1944年の生産でもエンジン番号、フレーム番号は42から始まることに。もっとも、このサンプルで分かる通りステアリングヘッドの鍛造金型番号によって生産年度は判別可能です。

また、米軍の資料ではなく、マニアによってシリアルナンバーが整理されているので、興味のある方は活用されることもオススメです。

防塵防水ボックスが加えられたエアクリーナー。軍用らしい装備、ディテールには事欠きません。

エンジンナンバーは42なので42年モデルと思いきや、これは44年モデル。WLAは生産中ずっと42が共通ナンバーとされていました。

オリーブドラブのカラー以外は他のビンテージハーレーとさして変わらない様子。なお、クラッチレバーは後からハンドルバーに追加されたもの。

過酷な戦地に向けた本気仕様、多数のバリエーションも

さて、オリーブドラブにペイントされた車体を見ると、いかにも軍用らしいディテールが満載です。

悪路、あるいは冠水した道も走破可能となるよう、タイヤが16から18インチへとサイズアップしていたり、スプリンガーフォーク脇には機関銃ケース、サイドパニアはずばり銃弾ケースを装備。

また、防水防塵カバーで覆われたエアクリーナーや、(エンジンやトランスミッションに水が浸入しないよう)延長されたブリーザーパイプなど、さすが過酷な戦地での運用マシンといった仕上がりです。

とはいえ、42WLAがもっとも活躍したのは、偵察任務や部隊間のメッセンジャー、戦後になるとミリタリーポリスの移動手段とされ、銃弾の行き交う最前線というのはレアケースだった模様。

実際、残されている記録写真を見れば、地面に倒したWLAを盾にして銃を構えているのはテスト中、あるいは広報写真だったりしています。

一方、D-デイ(ノルマンディー上陸作戦)以後、ヨーロッパ各地でWLAは数多く撮影されており、フロントスクリーンや銃弾ケースでないパニアが付けられたり数多くのバリエーションが生まれたことが分かります。

古式ゆかしいシルエットながら、ロシアでは現役で走っているものも少なくないとか。フロントに吊るしたケースはおもに銃弾用とのこと。

大型のリヤキャリアやサドルバッグは前線での連絡や偵察任務を想定したもの。実際には最前線というより、戦後のミリタリーポリスによる仕様事例が多かったようです。

青い文字で書かれたナンバーは当時の米軍仕様。プレートが付いているものは、戦後のMP仕様というのが定説です。

未だにミントコンディションのサンプルが出てくることも

前述の通り、戦後は余ったWLAが民間市場に流れ込み、戦地から帰った若者たちがこぞって購入したとされています。これはカナダ軍向けに納入されたWLCも同様で、その数は数万台に上るもの。

意外なことに、大量のWLAがロシアに流れていて、その堅牢さから現役で走り回っているものが少なくないのだとか。

また、ミリタリーモデルはかなりのマニアがいるため、今回ご紹介したようなミントコンディションのサンプルがオークションに出てくることもたびたびあるようです。

こちらのサンプルはペイントをはじめ、各種の装備品が再現され、またメカについてもレストアされた結果、1万~1万4000ポンド(約200万~280万円)の指し値が付けられています。

メーター内に慎ましやかに配置されたハーレーのロゴマーク。また、スチュワート・ワーナーメイドの印字も残っています。

ノルマンディ上陸作戦のメモリアルステッカー。作戦でWLAが使用されたかは不明ですが、連合軍が上陸した後のヨーロッパでは多数のWLAが目撃されています。

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