写真を撮影したのはモビリティリゾートもてぎ内のホンダコレクションホールなので、メインとなるのはホンダ。ただし当連載では他メーカーも含めて、現代の視点で、1980年代以前に生まれた旧車の素性を振り返ってみたい。なお、展示内容はリニューアル前のものだ。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 ●外部リンク:ホンダコレクションホール
2ストパラツインと4ストVツインの戦い
既存のRDシリーズから劇的な進化を遂げる形で、1980年に登場した2ストパラレルツインのヤマハRZ250(と兄弟車の350)が、2輪の歴史を語るうえで欠かせない名車であることに、異論を述べる人はいないだろう。何と言ってもRZは、1970年代末に消えかかっていた2ストロードスポーツの火を再燃させ、以後の2ストレーサーレプリカブームの基盤を作ったモデルなのだから。
では現役時代のRZ250と熾烈なバトルを繰り広げたライバル車、1982年にホンダが発売した4ストVツインのVT250Fが、世間で同等の評価を得ているのかと言うと……。それはなかなか微妙なところで、昨今ではVTシリーズに対して、エントリーユーザー向け、バイク便御用達、などという印象を抱いている人が多い気がする。
ただし筆者としては、VT250FにはRZ250と互角、見方によってはRZ250以上の革新性が備わっていたと感じているのだ。と言うより、1980年代初頭をリアルタイムで体験したライダーなら、現在の2台の評価の差に疑問を感じているんじゃないだろうか。いずれにしても以下に記す各車の特徴を読めば、VT250Fの資質がRZ250に負けず劣らずだったことが理解していただけるはずだ。
各車各様の姿勢でレーサーの技術を転用
まずはRZ250の特徴を記すと、筆頭に挙がるのは市販レーサーTZ250から継承したエンジンの水冷機構とモノクロス式リアサスペンション。とはいえ、パワーユニットの振動を緩和するオーソゴナルマウント、後端を跳ね上げたチャンバー、ヘッドパイプとスイングアームピボットを直線的に結ぶことを意識したフレーム、一体感を重視した外装部品、火炎をイメージしたキャストホイールなども、当時としては革新的な要素だったのである。
もちろん革新的という意味では、VT250Fもまったく負けてはいなかった。ビキニカウル、フロント16インチ、ブーメランコムスターホイール、インボード式ブレーキディスク、リンク式リアサスペンション、RZ250以上にヘッドパイプとスイングアームピボットを直線的に結んだフレームなど、見どころ満載だったのである。ただしやっぱり、このモデルの最大の注目要素はエンジンだろう。既存の日本製4スト250ccが空冷並列2気筒か単気筒の二択だったのに対して、VT250FはGPレーサーNRの技術を転用した、水冷Vツインを搭載していたのだから。
1980年代初頭の250ccの基準で考えるなら、水冷Vツインというだけで十分に革新的だったものの、現代の視点でVT250Fを見て感心するのは、Vバンク間=中央吸気・前後排気+ダウンドラフト式キャブレターを採用したこと。そういった構成は、同時代のホンダVFシリーズやヤマハXZ400/500なども同様で、ハーレーダビッドソンは大昔から中央吸気・前後排気が定番だったけれど、VT250Fのエンジンからは“4ストで2ストを打ち負かす‼”という、ホンダの気概がビンビン伝わって来たのだ。
どちらも2輪の歴史を語るうえで欠かせない名車
もっとも前述したように、近年の2台に対する世間の見方には大きな差が存在する。VT250Fの評価があまり高くない理由は、シリーズ全体で考えると生産期間が非常に長かったため、希少性を感じづらいから……だろうか。あるいは、エンジン特性がピーキーなRZ250とは異なり、初心者でも気軽に乗れるフレンドリーなキャラクターだったことも、マニア心をくすぐらない原因かもしれない。
とはいえ改めて歴史を振り返ると、VT250Fを筆頭とするVTシリーズは、4ストVツインならではの世界が堪能できる貴重な250ccだったのだ。そして初代の動力性能がRZ250とほとんど互角だったこと、1982~1985年に圧倒的な強さでクラストップの販売台数を記録したこと、時代の要求に応じて変化を遂げながら35年に渡って販売が続いたこと(RZは後継のRZ-RとR1-Zを含めても約20年)などを考えると、やっぱり筆者としては、VT250FはRZ250に勝るとも劣らない魅力を備えた、2輪の歴史を語るうえで欠かせない名車だと思うのである。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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